2018-11-01 神奈川県立がんセンター,日本医療研究開発機構
発表のポイント
- 中皮腫がん細胞を的確に発見し、診断することができる中皮腫がんマーカー抗体SKM9-2が、中皮腫がん細胞のどの構造を認識しているかを同定しました。
- SKM9-2は、中皮腫がん細胞の持つ構造のうち、糖鎖と特定のアミノ酸配列から形成されるユニークな構造を認識していることがわかりました。中皮腫がん細胞の持つこの糖鎖の存在が、SKM9-2の中皮腫がん細胞への高い特異性を規定していることがわかりました。
- 中皮腫がんマーカー抗体SKM9-2は平成30年10月31日からニチレイバイオサイエンス社より病理研究用試薬として販売開始となります。
発表の概要
アスベストを吸い込むことで発症する中皮腫は、アスベストによる代表的な健康被害として、国際的にも大きな社会問題となっています。中皮腫は有効な治療法と診断法が確立されていないため、中皮腫を早期に発見し的確に判断できる診断法の開発は、より有効な中皮腫治療のための第一歩となります。
この度、神奈川県立がんセンター臨床研究所 辻祥太郎主任研究員と今井浩三顧問らのグループは、中皮腫細胞を的確に発見し、診断することができる中皮腫がんマーカー抗体SKM9-2の認識領域(エピトープ)を同定し、科学誌上で発表いたしました。同定されたエピトープは糖鎖とアミノ酸配列から形成されるユニークな構造をとっており、糖鎖の存在が中皮腫への高い特異性を規定していることがわかりました。本研究成果は平成30年9月24日に“Scientific Reports”誌に掲載されました。
また、中皮腫がんマーカー抗体SKM9-2は平成30年10月31日からニチレイバイオサイエンス社より病理研究用試薬として販売開始となり実用化されます。
論文発表の概要
中皮腫がんマーカー抗体SKM9-2は、特異度99%、感度92%で中皮腫細胞を検出できる、これまでにない優れた中皮腫特異性を持つ抗体です。先の研究で、SKM9-2は巨大分子シアル化HEG1を認識していることが明らかになっていましたが、HEG1のどの部位を認識しているのか、どのようなシアル化糖鎖が認識に関わっているのかは分かっていませんでした。
本研究では、HEG1の部分長変異体を用いて抗体の結合候補領域を狭めていき、最終的に11アミノ酸からなる領域を認識していることを明らかにしました。次に、この11アミノ酸配列のどの残基にどのような糖鎖が結合しているかを質量分析とレクチン結合解析により同定しました(図)。同定した領域のアミノ酸配列の置換や糖鎖の切断により抗体の反応性が大きく減少したため、抗体はアミノ酸配列と糖鎖によって形成される構造を認識しており、糖鎖の存在が中皮腫への高い特異性を規定しているとことがわかりました。
図 SKM9-2の認識領域
本研究により、中皮腫特異的に形作られる中皮腫マーカーの構造が明らかとなったため、SKM9-2を用いた中皮腫診断の信頼性が高まり、これまでの診断法よりも中皮腫細胞を的確に診断することができるようになると考えられます。また、このエピトープを標的とした分子標的治療法を開発することで、治療困難な中皮腫に対する新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)「新規マーカーによる悪性中皮腫の精密・早期診断の開発」の支援を受けて行われました。
発表論文
- 著者:Rieko Matsuura, Hiroyuki Kaji, Azusa Tomioka, Takashi Sato, Hisashi Narimatsu, Yasuhiro Moriwaki, Hidemi Misawa, Kohzoh Imai, and Shoutaro Tsuji.
- タイトル:Identification of mesothelioma-specific sialylated epitope recognized with monoclonal antibody SKM9-2 in a mucin-like membrane protein HEG1.
- 雑誌名:Scientific Reports 8:14251 (2018).
- DOI:10.1038/s41598-018-32534-8
SKM9-2の市販に関して
平成30年10月31日(水)から株式会社ニチレイバイオサイエンスより病理研究用試薬として「ヒストファイン 抗シアル化HEG1モノクローナル抗体(SKM9-2)」が販売開始となります。
お問い合わせ先
研究に関すること
地方独立行政法人 神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター 臨床研究所
主任研究員 辻 祥太郎(ツジ ショウタロウ)
顧問 今井 浩三(イマイ コウゾウ)
所長 宮城 洋平(ミヤギ ヨウヘイ)
報道に関すること
地方独立行政法人 神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター
総務課 山口
AMED次世代がん医療創生研究事業に関するお問合わせ先
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課