2019-03-07 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立極地研究所(所長:中村卓司)の渡辺佑基准教授を中心とする研究グループは、ホホジロザメが非常に速いスピードで泳ぐ能力を持っているものの、普段はオットセイを狙って島の周りでゆっくりと泳ぎ回る「待ち伏せ型」のハンターであることを明らかにしました。
図1:バイオロギング機器を取り付けたホホジロザメ(撮影:Andrew Fox)
研究の背景
映画『ジョーズ』で有名なホホジロザメは、魚類の中でも特異な進化を遂げた種であり、周りの水温よりも10度程度高い体温を保っています。高い体温は筋肉の活性を高めて運動能力を向上させ、速く泳ぐことを可能にしますが、一方でエネルギーの消費量が多くなるというデメリットをもたらします。巨体と高い体温を併せ持つホホジロザメは、おそらくすべての魚類の中で最もエネルギー消費量の多い種でしょう。しかしながら、このサメが普段の生活において、どのようにエネルギー消費を調整しているのかはわかっていませんでした。
研究の内容
図2:ネプチューン諸島の位置(赤丸)
図3:ホホジロザメに取り付けたバイオロギング機器
オーストラリアのネプチューン諸島(図2)周辺において、ホホジロザメ8匹に加速度や水深、遊泳速度を測定する小型記録計やビデオカメラなどのバイオロギング機器(図3)を取り付け、行動を詳しく計測しました。その結果、ホホジロザメは島の周り(獲物のオットセイが海に出入りしています)を秒速0.8~1.35メートル(時速2.9~4.9キロ)の速度で泳いでいました。この速度は、移動に最適な速度(ある距離を進むためのエネルギーが最小となる速度)よりもはるかに遅く、また、ホホジロザメの体重と体温から予測される速度よりもはるかに遅いことがわかりました(図4)。一方で、島から島へ移動する際には、サメは秒速2.0メートル(時速7.2キロ)という魚類としては非常に速い速度で泳ぎました。さらに加速度のデータから、サメが潜水の際に尾びれの動きをぴたりと止めて潜行し、エネルギーの節約に努めていることがわかりました。
つまりホホジロザメは高い運動能力を確かに持っているものの、普段は島の周りをゆっくりと泳いだり、潜水の際に尾びれの動きを止めたりすることでエネルギーの消費量を抑え、オットセイという大物の獲物を狙っていることが明らかになりました。ホホジロザメは呼吸のために四六時中泳ぎ続ける必要があり、止まって待ち伏せることはありません。それでもなお、速度を落として獲物を探すホホジロザメの捕食戦略は、アフリカのサバンナにいるチーターなどに見られる「待ち伏せ型」の捕食戦略に近いといえます。
図4:
(a)ホホジロザメ一個体の遊泳速度の頻度分布および移動のエネルギーコストの推定値。移動に最適な速度(矢印)よりも遅い速度で泳いだことがわかる。
(b)過去の研究(文献1)に基づいた魚類一般の遊泳速度と体重との関係に、本研究で計測されたホホジロザメの遊泳速度を重ねた。ホホジロザメは高い体温を持っているのにも関わらず、普段は比較的ゆっくり泳いだ。ただし、島間を移動する際には、高い体温から予測される通りの速い速度を出した。
今後の展望
ホホジロザメがどのくらいの頻度でオットセイを捕えるのかを調べ、エネルギー収支を見積もりたいと思います。そうすることにより、ホホジロザメを始めとする一部の魚類に見られる高い体温の進化的、生態的な意義を明らかにできるものと考えています。
発表論文
掲載誌:Journal of Experimental Biology
タイトル:Swimming strategies and energetics of endo thermic white sharks during foraging.
著者:
渡辺佑基(国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授)
Nicholas Payne (Trinity College Dublin)
Jayson Semmens (University of Tasmania)
Andrew Fox (Fox Shark Research Foundation)
Charlie Huveneers (Flinders University)
DOI:10.1242/jeb.185603
URL:http://jeb.biologists.org/content/222/4/jeb185603
論文公開日:2019年2月19日
研究サポート
本研究はJSPS科研費(16H04973、25850138)の助成を受けて実施されました。
文献
文献1 :Watanabe, Y. Y., Goldman, K. J., Caselle, J. E., Chapman, D. D. and Papastamatiou, Y. P. (2015). Comparative analyses of animal-tracking data reveal ecological significance of endothermy in fishes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA
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国立極地研究所 広報室