危険な光合成に依存しながら安全に増殖する細胞

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2019-07-08 国立遺伝学研究所

Day/Night Separation of Oxygenic Energy Metabolism and Nuclear DNA Replication in the Unicellular Red Alga Cyanidioschyzon merolae.

Shin-ya Miyagishima, Atsuko Era, Tomohisa Hasunuma, Mami Matsuda, Shunsuke Hirooka, Nobuko Sumiya, Akihiko Kondo, Takayuki Fujiwara

mBio 10(4), e00833-19, 2019 DOI:10.1128/mBio.00833-19

光合成は約30億年前にシアノバクテリアにおいて誕生し、その後シアノバクテリアが真核細胞内に共生して葉緑体となることで真核細胞に導入され種々の藻類と植物が進化しました。さらに単細胞の真核藻類が様々な系統の真核細胞内に共生することで光合成は真核生物の複数の系統に広がりました。

光合成は地球上の生命の生育を支える一方で、高濃度の活性酸素種を生じDNA、タンパク質、脂質などを損傷します。陸上植物においては、細胞増殖は茎頂および根端等の光合成を行わない分裂組織に限定され、「危険な光合成」と「DNAを安全に複製すべき細胞増殖と次世代個体の創出」は場所(組織)によって分業されています。一方で、陸上植物よりも先に地球上に出現し、陸上植物の祖先でもある単細胞藻類では、同一細胞が光合成を行い分裂増殖しますが、光合成の危険性にどの様に対処しながら増殖しているかは不明でした。

国立遺伝学研究所の宮城島教授・恵良元研究員らと神戸大学の蓮沼教授・近藤教授らの共同研究グループは、単細胞紅藻を用いた解析を行い以下のことを明らかにしました。(1)葉緑体の光合成とミトコンドリアの呼吸(光合成ほどでは無いがこちらも活性酸素種を生じる)活性が朝方最大となり夕方に向けて低下する、(2)光合成・呼吸に比べるとエネルギー変換効率が低い解糖・発酵系が夕方から夜に活性化される、(3)核のDNA複製と細胞分裂は夜間におこる、(4)夜間の細胞に光を当てて光合成を行わせるとDNAの損傷頻度が高くなる。

以上の結果、活性酸素種を生じる光合成と、葉緑体と同様にバクテリアの細胞内共生によって誕生したミトコンドリアにおける呼吸活性が低下する夕方から夜間にDNA複製を行うことで「安全な」細胞増殖が行われていることが明らかとなりました。同様の結果は葉緑体成立後間もなく紅藻と分岐した緑藻でも見られました。

つまり宿主であると真核細胞と共生体である葉緑体・ミトコンドリアの時間分業により、お互いの対立が回避されることで光合成真核細胞が成立したと考えられます。 本研究は、科研費(基盤A、17H01446)とJST・未来社会創造事業などの支援を受けて行われました。

Figure1

図1:単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolaeを明暗周期培養し、夜の初期の細胞(暗)に光を当てて光合成を行わせた(明)場合と、さらにDCMU(光合成阻害剤)またはTEMPOL(活性酸素種除去剤を)加えた上で光を当てた場合。赤は葉緑体の蛍光、緑はMRE11タンパク質(DNA二本鎖切断)を示す。夜間の細胞が光合成を行うと酸化ストレスにより核DNAが高頻度に損傷する(矢尻)。

Figure1

図2:真核細胞(宿主)と葉緑体(共生体・光合成)・ミトコンドリアの呼吸(共生体・呼吸)の時間分業による真核藻類細胞の安全な分裂増殖

生物化学工学生物環境工学
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