指定難病「自己免疫性肺胞蛋白症」の病因解明にもとづく新しい治療法の開発

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国内初のサイトカイン吸入療法

2019-09-05   新潟大学,日本医療研究開発機構

本研究成果のポイント
  • 指定難病自己免疫性肺胞蛋白症の病因解明、血清診断法開発、治療法開拓までを一貫して達成した。
  • 自己免疫性肺胞蛋白症に対し、サイトカインであるGM-CSFを吸入すれば治療に効果があることを世界で初めて科学的に証明した。
  • 現在、有効な治療法は患者への負担が大きい全肺洗浄法であるが、本研究成果は自宅で治療することができ、何よりも患者にとって負担の少ないことを特徴とした新しい治療法である。
研究の背景

自己免疫性肺胞蛋白症は、肺胞及び細気管支に肺を内側から覆っているサーファクタント(注1)という粘液が貯留し、呼吸不全が進行する希少難病です。我が国には推定3300人の患者がいるとされ、働き盛りである50歳代男性に好発し、2割は在宅酸素療法を余儀なくされます。現在の標準治療は、全身麻酔下に片肺20~30Lの生理食塩水で洗浄する全肺洗浄法であり、患者にとって苦痛を伴うものとなっています。

この疾患は、1958年に第一例が報告されて以来、長年病因不明でしたが、1999年に中田教授らは、血液及び肺に大量の抗GM-CSF自己抗体が存在することを発見し、後にこれを利用した血清診断法を開発しました。次いで、2005年に研究グループの田澤教授(現:東京医科歯科大)らが重症の肺胞蛋白症患者にGM-CSF(注2)を吸入投与することにより、呼吸機能が改善することを報告し、全世界に次第に本治療法が普及していきました。

正常(健常)な肺胞(気管支が分かれていき肺に入る空気が最後に到達する袋)では、Ⅱ型上皮細胞という細胞からサーファクタントという粘液とGM-CSF(図中緑色の顆粒)が放出されます。1個の肺胞には、50個くらいの肺胞マクロファージがパトロールしていて、古くなった余分なサーファクタントを取り込んで消化しています。お掃除屋を担う肺胞マクロファージが育ち、元気に活動するためには、GM-CSFが不可欠です。ところが、自己免疫性肺胞蛋白症では、患者の血液や肺胞にGM-CSFと結合し、機能を中和してしまう抗GM-CSF自己抗体(図中の青いY字型)があります。このため、働けるGM-CSFが枯渇してしまいます。GM-CSFがなくなると、肺胞マクロファージの元気がなくなり、やがて肺胞のお掃除が滞ってしまい、サーファクタントの老廃物が貯まることになります。

研究の概要

本治験では、2016年9月から12月まで、全国12施設(北海道大学、東北大学、新潟大学、千葉大学、国際医療研究センター、杏林大学、愛知医科大学、京都大学、国立病院機構近畿中央呼吸器センター、神戸市立医療センター中央市民病院、倉敷市立市民病院、長崎大学)の呼吸器内科医が共同で自己免疫性肺胞蛋白症患者から治験協力の同意を得て、6ヶ月間のGM-CSF(実薬)または偽薬の吸入ののち、偽薬群の患者を含め4ヶ月間の治療を行ってデータを集め、解析しました。

研究の成果

患者も医師も投与している薬がGM-CSF(実薬)なのか偽薬なのかを知らない二重盲検法により、その効果を検証しました。具体的には、33人はGM-CSFの実薬を、30人は偽薬を吸入し、動脈の中の酸素圧、肺の酸素の取り込みや血清マーカーの改善を実薬群と偽薬群の間で比較しました。問題となるような副作用は現れず、肺胞気-動脈血酸素分圧較差とよばれる酸素の取り込み能力について実薬群は偽薬群に比べて統計的に有意な差がみられ、GM-CSFの実薬のほうが優れていることが証明されました。

GM-CSF吸入療法は、枯渇したGM-CSFを外から補う新しい治療法です。1日2回20分程度の吸入を自宅において24週間隔週で続けるものであるため、何よりも患者さんにとって楽な治療であることが特徴です。

今後の展開

GM-CSFはすでに薬剤(商品名Leukine)として海外では上市されていますが、我が国では未承認薬です。今後、我が国における薬事承認申請と保険収載を目指す企業を募集していく予定です。

さらにGM-CSFは自己免疫性肺蛋白質症にとどまらず、肺の感染防御能を高めることが期待されることから、非結核性抗酸菌症や肺アスペルギルス症などの肺難治性感染症の治療に適応拡大されていくことが予想されます。

論文情報
英文タイトル:
Inhaled GM-CSF for Pulmonary Alveolar Proteinosis
タイトル和訳:
肺胞蛋白症に対するGM-CSF吸入療法
著者:
Ryushi Tazawa, Takahiro Ueda, Mitsuhiro Abe, Koichiro Tatsumi, Ryosuke Eda, Shotaro Kondoh, Konosuke Morimoto, Takeshi Tanaka, Etsuro Yamaguchi, Ayumu Takahashi, Miku Oda, Haruyuki Ishii, Shinyu Izumi, Haruhito Sugiyama, Atsushi Nakagawa, Keisuke Tomii, Masaru Suzuki, Satoshi Konno, Shinya Ohkouchi, Naoki Tode, Tomohiro Handa, Toyohiro Hirai, Yoshikazu Inoue, Toru Arai, Katsuaki Asakawa, Takuro Sakagami, Atsushi Hashimoto, Takahiro Tanaka, Toshinori Takada, Ayako Mikami, Nobutaka Kitamura, and Koh Nakata
掲載誌:
The New England Journal of Medicine
DOI:
10.1056/NEJMoa1816216
本研究への支援

本研究は日本医療研究開発機構(AMED)平成27年度 難治性疾患実用化研究事業「自己免疫性肺胞蛋白症に対する酵母由来組換えGM-CSF吸入の多施設共同医師主導治験」の支援を受けて行われました。

用語解説
(注1)サーファクタント:
肺胞の表面を覆っている粘りのある液体。
(注2)GM-CSF:
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子。白血球の一部を増やし、活性を維持させるタンパク。
本件に関するお問い合わせ先
研究内容について

新潟大学医歯学総合病院 臨床研究推進センター
中田 光(教授・部長)

記者発表について

新潟大学広報室(担当:一箭)

AMED事業について

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 難病研究課

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