コケ植物から種子植物まで・短いRNAが制御する成長期移行
2019-09-20 東京大学
マイクロRNAの1種であるmiR156/529ファミリーは、コケ植物から種子植物まで共有されています。
種子植物の花はその中にオス、メスに相当する器官を作り、受精を成立させます。種子植物を用いたこれまでの研究から、SPLと呼ばれる標的転写因子の発現がmiR156/529ファミリーによって抑えられなくなることが、花を咲かせるスイッチとなることがわかっていました。
一方、花は咲かせないコケ植物でもオス、メスそれぞれの生殖器官を作り、受精を成立させますが、そのメカニズムが使われているかは不明でした。
東京大学大学院総合文化研究科の都筑正行助教、渡邊雄一郎教授、岡山理科大学理学部の濱田隆宏准教授(研究当時、東京大学大学院総合文化研究科助教)らのグループは、京都大学大学院生命科学研究科の荒木崇教授、河内孝之教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の嶋村正樹准教授のグループと共に、コケ植物ゼニゴケにおいても通常の栄養成長期ではmiR156/529ファミリーがSPL2転写因子の発現を抑制していること、その抑制が環境刺激などによって解かれるとオスとメスの生殖器官を作る有性生殖成長期への移行が促進されることを明らかにしました(図1)。
これは陸上植物で共通する、生殖成長期移行のための分子スイッチを発見したといえます。本研究による成果は、陸上植物の生活環を共通原理から理解することに繋がり、また陸上植物の生活環制御技術の開発に繋がると考えられます。
図1:陸上植物間で共有されたマイクロRNAを介した成長期移行制御メカニズム
本研究は、コケ植物ゼニゴケにおいてmiR529cがMpSPL2転写因子の発現を抑制することで、栄養成長期から有性生殖成長期への移行を抑制していることを明らかにした。種子植物シロイヌナズナにおいては、8遺伝子座から発現するmiR156が9つのSPL転写因子ファミリーの発現を抑制して花成時期を遅らせる。シロイヌナズナでは内在性・環境シグナルがmiR156の発現を抑制することで花成を誘導するが、コケ植物では遠赤色光のシグナルがmiR529cの発現を抑制することで有性生殖器官の発生を誘導する。コケ植物と種子植物は生活環や形態が大きく異なるが、同様のスイッチを用いて生殖成長期への移行を制御している事を示している(図はCurrent Biologyに掲載されるGraphical Abstractを日本語に翻訳したもの)。
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- 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系 渡邊雄一郎・都筑正行 研究室
- 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系
- 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻
- 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部
論文情報
Masayuki Tsuzuki, Kazutaka Futagami, Masaki Shimamura, Chikako Inoue, Kan Kunimoto, Takashi Oogami, Yuki Tomita, Keisuke Inoue, Takayuki Kohchi, Shohei Yamaoka, Takashi Araki, Takahiro Hamada, Yuichiro Watanabe, “An early arising role of the microRNA156/529-SPL module in reproductive development revealed by the liverwort Marchantia polymorpha.,” Current Biology, doi:10.1016/j.cub.2019.07.084.
関連教員
- 都筑 正行 / 助教 / 大学院総合文化研究科
- 渡邊 雄一郎 / 教授 / 大学院総合文化研究科