血中から目印が付いたDNAを回収する装置

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2020-03-19 東京大学

1.発表者:

岡本 晃充(東京大学 先端科学技術研究センター 生命反応化学分野 教授)
永江 玄太(東京大学 先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス分野 講師)
油谷 浩幸(東京大学 先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス分野 教授)

2.発表のポイント:

  • 血中を循環するDNA断片(注1)の中から特定の箇所がメチル化(注2)されたDNAだけを自動で回収できる装置を開発しました。
  • オスミウム(注3)によって特定のメチル化DNAだけを捕捉する機能を持つ人工核酸が、この装置の中に組み込まれています。
  • 血液から得られたDNAメチル化の蓄積の情報を指標にして、がん種やその進行度の予測が可能になります。

3.発表概要:

健康をつかさどる遺伝子の働きかたは、DNAに付いたメチル基の場所や量を調べることによって知ることができます。また、DNAメチル化の情報と病気が関連付けて研究されている場合には、病気の種類や進行度、発病の可能性を明らかにすることができます。そのため医療分野では、特定のメチル化DNA断片を効率的にサンプルから簡便に回収して計測する技術の必要性が高まっています。しかしながら従来のメチル化DNA判別法(注4)では微量の特定のメチル化DNA断片の回収には向いておらず、血液中からメチル化DNA断片を選択的に回収できる革新的な原理とそれに基づいた自動化装置が必要とされていました。

東京大学先端科学技術研究センターの岡本晃充教授、永江玄太講師、油谷浩幸教授と、日本大学医学部の緑川泰准教授、株式会社ジーンデザインの南海浩一研究員、太田明宏研究員らによる研究グループは、独自に開発した人工核酸を活用することにより、採集した血液から自動的に特定のメチル化DNAだけを回収できる装置(写真1)を開発しました。

従来の方法に比べて、飛躍的にメチル化DNA回収性能が向上した本装置は、遺伝子産業に革新をもたらす先端機器として位置付けることができます。特に、がんを対象にした場合には、血液検査において特定のがんに特異的な血中遊離メチル化DNAを本装置で回収することによって特定の配列でのメチル化の蓄積や遊離したDNAの量を求めることができ、がんの存在や進行、性質を知ることができる新しい液体生検法(注5)として期待できます。

4.発表内容:

現在、医療分野では、特定のメチル化DNA断片を効率的にサンプルから簡便に回収して計測する技術、つまり、体液を対象とした液体生検法のニーズは高まっています。血液中の特定のメチル化を含むDNA断片を回収することによる生体内情報の獲得法の確立等が期待されています。従来のメチル化DNA判別法として主としてバイサルファイト法と抗体法が挙げられますが、サンプル量を必要とするだけでなく、メチル化の有無を区別してもなお情報量が多いためにさらなる分離操作や配列解析を必要とします。また、非特異的な分解や非配列選択性のために実験ごとに誤差を生じやすいことが知られています。そのため従来のメチル化DNA判別法は、微量の特定のメチル化DNA断片の回収には向いておらず、血液中から微量の特定のメチル化DNA断片を選択的に回収できる革新的な原理とそれに基づいた自動化装置が必要とされています。

岡本教授らの研究グループは、高機能化学プローブ修飾ビーズを活用して、採集した血液から自動的に特定のメチル化DNAだけを回収できる装置を開発しました。

岡本教授らは、配列特異的メチル化検出用人工核酸「ICONプローブ」(注6)を固定したビーズを創出しました。この人工核酸は、オスミウム反応剤を混合することによって、人工核酸の配列と相補的な配列を持つと同時に、標的の箇所がメチル化されているDNAだけと結合することができます(図1)。従来法のメチル化DNA判別法と比べて、「メチル化DNAを捕捉しメチル化していないDNAは捕捉されない」、「目的の配列と異なるメチル化DNAも捕捉されない」、「微量試料からの回収を得意とする」、「試料が反応剤によって分解されない」、などの優れた特徴があります。この人工核酸をマグネチックビーズ(粒径50 µm)に固定して、ポリプロピレン素材の反応容器に封入し自動化装置に取り付けました。この反応容器は、ビーズを通さないサイズのフィルターでふさがれた配管との接続口を上下に有しています。

自動化装置は、反応容器を取り付ける恒温槽のほかに、サンプルや反応剤の吸入口、圧縮空気導入口、電磁弁、排出口などから構成されています。サンプルや反応剤を一度装置に取り付けた後は手で触れることなく反応容器に送られて、ビーズ上の人工核酸との反応に供されます(図2)。その結果、サンプルの中の特定のメチル化DNAを選択的に回収することができます。サンプルを装置に設置してから特定のメチル化DNAの回収が終わるまでの総反応時間は、反応や洗浄の工程を含めて140分程度です。捕捉したDNAは、PCR法などを用いた分析に用いることができます。

本研究では、微量メチル化DNA断片を任意の配列に選択的に回収できる化学反応を開発するとともに、それと一体的に、その反応を安全かつ再現良く行うことができる自動装置を開発することで、飛躍的にメチル化DNA回収性能が向上しました。特に、がんを対象にした場合には、血液検査において特定のがんに特異的な血中遊離メチル化DNAを本装置で回収することによって特定の配列でのメチル化の蓄積や遊離したDNAの量を求めることができ、がんの進捗を知ることができる新しい液体生検法として期待できます。現在、岡本教授らは、いくつかのがんを標的に、この遺伝子産業に革新をもたらす自動化装置を用いてメチル化解析診断に有用な人工核酸配列を探索しており、その人工核酸を搭載した装置を用いてさまざまながん種の超早期の血液診断に活用したいと考えています。

この研究は、AMED「医療分野研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」、AMED「革新的医療技術創出拠点プロジェクト(橋渡し研究戦略的推進プログラム メチル化DNAオートコレクターの開発)」、公益財団法人旭硝子財団研究助成によって支援されました。

5.問い合わせ先:

東京大学先端科学技術研究センター

教授 岡本 晃充(オカモト アキミツ)

6.用語解説:

(注1)血中遊離(メチル化)DNA断片

組織から血管中へ遊離したおよそ200塩基長のDNAを血中遊離DNA(セルフリーDNA)と呼ぶ。主に、組織細胞のアポトーシスや壊死によって血管中へ放出されたDNA断片である。今回紹介する装置では、血中遊離DNAのなかでも特定の配列でメチル化を受けたDNA断片を標的にする。

(注2)メチル基・メチル化

メチル基は、化学式-CH3で表される、有機化合物の最も小さい構造である。特に、DNAのシトシンにメチル基が付加するとき、DNAのメチル化という。DNAメチル化は、ゲノムに入り込んだウイルスなどの有害な要素の遺伝子の発現を抑制する一方、がん抑制遺伝子を働かなくさせる主要な経路の一つである。

(注3)オスミウム

76番元素。酸化物である四酸化オスミウムは、炭素-炭素二重結合を酸化し、ジオール(2つのアルコール)を与える。

(注4)メチル化DNA判別法

(1)バイサルファイト法

バイサルファイト法は、亜硫酸水素ナトリウムを用いてメチル化していないシトシン全てを化学的に変換して、メチル化したシトシンと区別する方法(メチルシトシンでの加水分解活性の低減を利用)であり、現在最も一般的に用いられている。特徴は以下:

・反応後、PCRを行い、シーケンシングするか、プローブのハイブリダイゼーションによる検出を行うかしなければならない。

・数時間の反応時間が必要。

・非特異的切断反応が起こりやすい。

(2)抗体法

抗体法は抗メチルシトシン抗体を用いてメチル化したシトシンを含むDNA断片を分別する方法であり、抗体に結合した標的物質を沈殿させることによって回収する。特徴は以下:

・サンプル量が必要。

・配列特異性は無い。

(注5)液体生検法

リキッドバイオプシーとも呼ばれる方法であり、体液(血液・尿・汗など)を検査して診断する方法である。体への負担が小さい(低侵襲性)方法として注目されている。

(注6)配列特異的メチル化検出用人工核酸「ICONプローブ」

化学的に合成した20~50塩基長の人工核酸である。ICONプローブの特徴として、DNAの中のメチル化の有無を調べたい箇所の近くにビピリジンと呼ばれるオスミウム捕捉ユニットが配置されるように、人工核酸に取り付けられている。ICONプローブを標的DNAと混合することによって得られる複合体に、オスミウム酸カリウムを加えることによって、DNAがメチル化されていれば標的DNAとICONプローブの間に強い結合を作る。メチル化されていなければ洗浄操作によって標的DNAからICONプローブは除去される。

7.添付資料:

写真1

(写真1)装置の写真

図1

図1:メチル化DNAを人工核酸で捕捉する反応

化学的に合成した20~50塩基長の人工核酸「ICONプローブ」(図中「Probe」)の人工塩基(図中「B」)が、オスミウム(図中「Os」)を介して、標的DNAの中の特定の塩基配列でのメチル化(図中「Me」)されたシトシン塩基(図中「M」)を捕捉する。この結合(図中「Interstrand Crosslink」)は強固である一方、メチル化されていなければ結合が形成されないので簡単な洗浄操作によってICONプローブは除去される。

図2

図2:ビーズが目的のメチル化DNAを捕捉した様子

(i) メチル化していないDNAは捕捉されない、(ii) メチル化したDNAは捕捉される、(iii) メチル化していても目的のDNA配列でなければ捕捉されない。

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