単細胞生物の藻食~毒まんじゅうは光合成生物への進化の素~

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2019-12-09 国立遺伝学研究所

Responses of unicellular predators to cope with the phototoxicity of photosynthetic prey

Akihiro Uzuka*, Yusuke Kobayashi*, Ryo Onuma*, Shunsuke Hirooka, Yu Kanesaki, Hirofumi Yoshikawa, Takayuki Fujiwara, and Shin-ya Miyagishima

(*Co-first authors)

Nature Communications 10, 5606 (2019) DOI:10.1038/s41467-019-13568-6

Link to “Behind the paper” in Nature Ecology and Evolution.

真核生物による葉緑体つまり光合成能の獲得は、真核細胞内へのシアノバクテリア(光合成を行うバクテリア)の一次共生(紅藻、緑藻、植物の共通祖先)の他、それによって生じた真核藻類の二次共生により(褐藻、渦鞭毛藻、ミドリムシなどのそれぞれの祖先)様々な系統で独立に何度も起きたことが知られています。また、細胞内に取り込んだ単細胞藻類を数週間から数ヶ月間、葉緑体のように利用した後に消化する単細胞生物(盗葉緑体性生物)、長期にわたって任意共生させる単細胞生物が多くの系統で見つかっており、葉緑体の成立は、単細胞真核細胞による単細胞藻類の捕食、一時的保持、恒久的保持という順の進化の結果だと考えられています。

光合成装置は有害な活性酸素種を生じるため、藻類および植物は光合成酸化ストレスへの様々な対処機構を発達させていること、対処しきれない場合は死んでしまうことが知られています。同様に単細胞藻類を共生させるまたは捕食する真核生物も、単細胞生物の場合、細胞内に取り込んだ藻類細胞に光が届くので活性酸素種が生じ、光合成酸化ストレスに曝されると予想されますが、単細胞の捕食性生物にとって藻類えさが毒まんじゅうであるのかについての研究例はこれまでありませんでした。

そこで、日当たりの良い湿原から単離した系統の大幅に異なる3種の藻食アメーバを用いた解析を行いました。その結果、以下のことが3種のアメーバに共通して起こることが明らかとなりました、(1)藻食アメーバは餌の光合成性と光特異的に強い酸化ストレスに曝される。光合成酸化ストレスが上昇する強光下で光合成生物を補食すると死ぬこともある。(2)昼間にはアメーバの酸化ストレス対応遺伝子群の発現が上昇し、一方でアクトミオシン等ファゴサイトーシス関連遺伝子群の発現が抑制される。(3)アメーバは昼間には餌の取り込みを抑制する一方で、それでもなお取り込んでしまう餌の消化速度を速める。つまり、細胞内の光合成性えさの数を減少させることで活性酸素種の発生を抑えていると予想される。これに似た現象として、光合成酸化ストレスが高まる環境下で、細胞内の共生藻類を消化または吐き出すことが、ミドリゾウリムシ、サンゴなどで知られている。(4)アメーバは、これまで藻類・植物でのみ見つかっていたクロロフィル(光合成色素;光合成装置から遊離した状態で光を受けると活性酸素種を生じる)の分解・無毒化遺伝子を、それぞれ独立に、光合成生物からの遺伝子水平転移により獲得している。これらの遺伝子は、光または酸化ストレスにより発現誘導される。

これらの結果、光合成生物を細胞内に共生させ、さらには葉緑体として利用するための機構は、捕食・被食の段階から漸進的に準備されてきたことが示唆されます。これまで、葉緑体タンパク質をコードする核ゲノムの遺伝子群の多くは、恒久的な細胞内共生の確立後、共生体ゲノムから宿主核ゲノムに移行することで獲得されたと考えられてきました。しかしながら、今回の研究の結果、それらの少なくとも一部は、共生が成立するよりも遙か前の、捕食・被食段階から(例えば光合成性えさゲノムから捕食者の核ゲノムへの)水平転移によって順次獲得されてきた可能性も示唆されます。

本研究に至った経緯等は別途Nature Ecology and Evolution誌の “Behind the paper” で紹介しています。

本研究は、国立遺伝学研究所の宇塚明洋(元総研大大学院生)、小林優介(現茨城大学)、大沼亮(学術振興会特別研究員)を中心として、静岡大学、東京農業大学との共同研究チームによっておこなわれました。

本研究は、科学研究補助金(16K14791, 17H01446, 17J08575)、文科省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1311017)などの助成のもとに実施されました。

Figure1

図:小田貫湿原(静岡県富士宮市、2013年4月23日)から単離した藻食アメーバ。それぞれ真核生物の異なるスーパーグループに属するが(2種はアメーボゾア、1種はエクスカバータ)、光合成性えさの生じる酸化ストレスに対して同様の対処機構をそれぞれ独立に進化させていることがわかった。赤は細胞内に取り込まれたシアノバクテリア(光合成をするバクテリア)のクロロフィル(光合成色素)蛍光。

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