変形・流動する足場が分化を促進 高価な試薬不要で再生医療の低価格化に期待
2019-12-10 物質・材料研究機構
NIMSは、水とパーフルオロカーボンという二種類の混じりあわない液体の間に形成されるタンパク質のナノ薄膜の上で、高価な試薬を用いずに、幹細胞を神経細胞に分化させることに成功しました。再生医療などで必要な幹細胞の分化誘導を、安価に実現する技術として期待されます。
概要
- NIMSは、水とパーフルオロカーボンという二種類の混じりあわない液体の間に形成されるタンパク質のナノ薄膜の上で、高価な試薬を用いずに、幹細胞を神経細胞に分化させることに成功しました。再生医療などで必要な幹細胞の分化誘導を、安価に実現する技術として期待されます。
- iPS細胞などの幹細胞は、再生医療や組織工学の分野で中心的な役割を果たしていますが、その際、これらを望みの細胞へと効率的に分化誘導する技術が不可欠です。これまでは、サイトカインなどの高価な分化誘導因子を用いることが一般的でしたが、コストの観点などで課題が残されていました。そのため、これらの試薬を用いずに、培養基質の硬さや凹凸を工夫するだけで幹細胞の分化をコントロールする試みも進められていますが、分化効率が悪く、新たな技術の開発が求められていました。
- 今回、研究チームは、細胞培養液 (水溶液) とパーフルオロカーボン (油の一種) という混じりあわない二種類の液体の界面を幹細胞の培養・分化誘導の場とする技術の開発に成功しました。この液体同士の界面では、培養液中に含まれるタンパク質と別途添加したフィブロネクチン (タンパク質) よりなるナノ薄膜が形成され、その上で培養した間葉系幹細胞は、分化誘導因子を加えなくても、自ら進んで神経細胞へと分化しました。通常の細胞培養には、プラスチックなどの固体材料が用いられるため、そもそも液体の上で細胞を培養すること自体が斬新な発想ですが、実際に流動的な液体だからこそ、タンパク質薄膜にしなやかな特徴が備わり、それらが幹細胞の働きかける力に応じて変形・集積化して、効率的な神経細胞への分化を促していることを突き止めました。
- 今後、この成果を発展させて、液体の種類やフィブロネクチン以外の添加物などを検討することでさまざまな種類の細胞に分化誘導できるようにすることをめざします。それらが、再生医療に有用な細胞材料の新しい供給方法となることが期待されます。
- 本研究は、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のXiaofang Jia博士研究員、中西 淳 グループリーダー、有賀 克彦 主任研究者 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授 兼務) らからなる研究チームによって行われました。本研究成果は、Advanced Materials誌にて現地時間2019年12月9日12時 (日本時間9日20時) にオンライン掲載されます。
プレスリリース中の図 : しなやかな液々界面が実現する間葉系幹細胞の神経分化誘導
掲載論文
題目 : Adaptive Liquid Interfacially Assembled Protein Nanosheets for Guiding Mesenchymal Stem Cell Fate
著者 : X. Jia, K. Minami, K. Uto, A. C. Chang, J. P. Hill, J. Nakanishi, K. Ariga
雑誌 : Advanced Materials
掲載日時 : 現地時間2019年12月9日12時 (日本時間9日20時)