2020-05-19 国立遺伝学研究所
Establishment of homozygous knock-out sea urchins
Shunsuke Yaguchi, Junko Yaguchi, Haruka Suzuki, Sonoko Kinjo, Masato Kiyomoto, Kazuho Ikeo, Takashi Yamamoto
Current Biology Volume 30, 2020, Pages 427-429 DOI:10.1016/j.cub.2020.03.057
筑波大学生命環境系(下田臨海実験センター)の谷口俊介准教授、谷口順子研究員、大学院生命環境科学研究科博士課程後期2年鈴木智佳(日本学術振興会特別研究員)は、国立遺伝学研究所遺伝情報分析研究室の池尾一穂准教授、金城その子研究員、お茶の水女子大学基幹研究院の清本正人教授、広島大学大学院統合生命科学研究科の山本卓教授との共同研究により、ハリサンショウウニ(Temnopleurus reevesii)を用いて、ノックアウトウニの系統作製に成功しました。
ウニは採集しやすく、卵や精子といった配偶子も取得が容易なので、発生生物学や細胞生物学、進化学の優れた研究材料として長く生命科学の現場で使われてきました。しかし、世代交代周期が1〜2年と長いため、遺伝子変異系統などを利用して正確な遺伝子機能の解析を試みる遺伝学の導入が見送られていました。本研究では、ウニ研究に導入可能な遺伝学的手法を模索する過程で、ハリサンショウウニが約半年という比較的短い期間で世代を回せることを発見し、その性質を利用してノックアウトウニを作製しました。
具体的には、ゲノム編集技術のCRISPR-Cas9システム(注2)を用い、体の色素合成に必要なポリケチド合成酵素(Polyketide Synthase; Pks1)の遺伝子領域に欠損を誘導し、色素を失ったハリサンショウウニのアルビノ個体を作製しました。さらに、それらの子孫を掛け合わせることで、ホモ接合型(注3)ノックアウトウニを作製することに成功しました。これにより、ウニを用いた研究に、分子遺伝学の手法を導入することが可能であることが証明されました。今後、より正確な遺伝子の機能解析や発現調節解析等が進むことが期待されます。
本研究の成果は、2020年5月18日(日本時間19日午前1時)付で米国の学術誌「Current Biology」で公開されました。
本研究はJSTさきがけ(多細胞)、日本学術振興会科学研究費若手研究(2019-21)と特別研究員奨励費(17-19及び19-21年度)、AMED創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム (2017)、東レ科学技術研究助成金(2018)、武田科学振興財団ライフサイエンス研究奨励(2015)によって実施されました。
遺伝研の貢献
国立遺伝学研究所のグループは、ハリサンショウウニのゲノムアセンブリおよびアノテーション(遺伝子領域予測および機能推定)を行うことで、今回ゲノム編集の対象となったポリケチド合成酵素の遺伝子領域予測およびオフターゲット領域の選定に貢献しました。
図: F2世代の正常型(左)とPks1ホモ接合型変異体(右)