トゲウオの連続的な種分化

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2020-07-14 国立遺伝学研究所

Genome-wide patterns of divergence and introgression after secondary contact between Pungitius sticklebacks.

Yamasaki, Y.Y., Kakioka, R., Takahashi, H., Toyoda, A., Nagano, A. J., Machida, Y., Møller, P.R., and Kitano, J.

Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences (2020) 375: 20190548 DOI:10.1098/rstb.2019.0548

生態遺伝学研究室の山﨑曜研究員と北野潤教授を中心とする研究グループは、日本に生息するトゲウオ科トミヨ属の種分化過程について解明し、現存する最古の科学雑誌(1665年より刊行)である英国王立協会哲学紀要(フィロソフィカル・トランザクションズ)Bにその成果を報告しました。

種の定義には様々なものがありますが、動物学で広く受け入れられている定義にマイアーの生物学的種概念があります。あるグループに属する個体同士は交配出来るが、別のグループとは交配できないような場合に別種と定義するものであり、この定義によると生殖隔離の進化が種分化と言えます。

しかし、生殖隔離と一口に言っても、全く雑種が生まれないくらいに生殖隔離が完全な状態もあれば、雑種子孫がある程度生まれるくらいに生殖隔離が不完全な状態もあります。ここ数十年間の野生生物の種分化研究では、種分化の初期段階、つまり2つのグループが分かれ始める初期段階に着目したものが大多数でした。そこで本研究では、種分化の全体像を理解するために、種分化が完成する間近の種分化後期の状態を解析するべくトゲウオ科トミヨ属の魚に着目しました。

北海道東部では、トミヨ淡水型(Pungitius sinensis)とトミヨ汽水型(Pungitius pungitius)の2種が共存している河川がいくつか存在します(図1)。これら2種は雑種オスが不妊になるなど生殖隔離がありますが、同所生息域では未だに低い頻度で交雑が起こっています。これら2種の過去の集団履歴、種間での遺伝的分化や遺伝子流動を解析するために、まずは淡水型トミヨを利用して全ゲノム参照配列を決定しました。ついで、これら2種の複数個体の全ゲノム配列を解読しました。

その結果、これら2種は約170万年前に地理的隔離を受けて分岐が生じ、約3.7万年前に再び二時的に接触して、現在は低頻度で遺伝子を交換していることが明らかになりました。これまでに研究室内外で実施された他のトゲウオの研究例と比較すると、今回研究対象とした同所トミヨ2種の遺伝的分化は、これまで報告された同所種間よりも進行したものであり、完成間近の種分化段階にあることが明らかになりました(図2)。今後は、様々なトゲウオの種群を比較することで種分化過程の全体像に迫っていきたいと考えています。

本成果は、国立遺伝学研究所比較ゲノム研究室、水産大学校、龍谷大学、美幌博物館、コペンハーゲン大学との共同研究として、科研費、先進ゲノム支援、遺伝研博士研究員制度などの支援を得て行われました。

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図:トミヨ淡水型(Pungitius sinensis)とトミヨ汽水型(Pungitius pungitius)。黒線は10 mm。

Figure1

図:これまでに研究室内外で実施された他のトゲウオの同所種の研究例と比較。遺伝子流動率の高い順(a)、ゲノム分化の低い順番(b)に並べた。黒丸が今回研究対象とした同所トミヨ。

細胞遺伝子工学生物環境工学
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