性格による層別化がうつ病血液バイオマーカーの識別性能を向上させることを発見

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ヒトとマウスのクロスバリデーション研究

2020-10-01 九州大学,広島大学,鳥取大学,日本医療研究開発機構

永年、ヒトの性格・気質(以下、性格)とうつ病との関連が議論されてきましたが、その生物学的な基盤はよくわかっていません。九州大学病院検査部の瀬戸山大樹助教・康東天教授と同病院精神科神経科の加藤隆弘講師・神庭重信名誉教授らの研究チームは、これまで血液中の代謝物測定により、うつ病の重症度や自殺願望の強さを予測するバイオマーカー候補を発見してきました。今回、日本医療研究開発機構(AMED)の支援により、広島大学の山脇成人特任教授および鳥取大学の岩田正明准教授らとの共同研究で、従来から知られていたうつ病の血液バイオマーカーの識別性能が特定の性格を有する集団で飛躍的に向上することを発見しました。まず、BIG-5による性格検査により、未服薬の大うつ病患者100名と健常者100名(合計200名)を、神経症傾向が高く外向性が低い「うつ気質」と呼ばれる性格を有する集団、その真逆の性格傾向の集団、そして、こうした性格の偏りが少ない集団(患者と健常者が半数ずつ含まれる86名)に層別化しました。つぎに血液メタボローム解析で得た代謝物情報に基づく機械学習モデルを作成し、うつ病か否かを判別させると、全被験者を対象とした場合に比べて、性格の偏りが少ない集団に限定した場合、その識別性能が飛躍的に向上しました(図1)。この集団ではトリプトファン、セロトニン、キヌレニンなどのトリプトファン経路の代謝物が判別に大きく貢献していました。他方、サルコシン、セリン、アラニンなど性格傾向に関係なくうつ病と関連する代謝物も同定しました。

図1.性格による層別化と血液成分によるうつ病識別性能
左図.うつ病関連気質の影響が中間的な被験者集団において血液成分を比較すると、健常者に対してうつ病患者のトリプトファン、キヌレニン、セロトニンが有意に低下していました。
右図.また、中間群だけを抽出して血液成分情報に基づくうつ病判別分析を行うと、全被験者を対象とした場合に比べて、うつ病の診断性能が飛躍的に向上していました。AUC値はモデルの診断性能を示しました(1に近づくほど良い判別モデルとみなされます)。


「うつ気質」では比較的弱いストレスでもうつ病になるリスクが高いですが、「うつ気質」でなくても強いストレス下ではうつ病が引き起こされることが稀ではありません。今回のような「性格の偏りが少ない集団」の中のうつ病患者はこのタイプである可能性があります。そこで、ストレスとうつ病と血中代謝物との因果関係を探るために、ストレス誘発性うつ病モデルとして知られている社会的敗北ストレスモデルマウスの血中代謝物を測定したところ、ストレス負荷後に血中トリプトファンが低下していました(図2)。
図2.高ストレス負荷によるうつ病関連マウスの創出と血中トリプトファン量の変化
ストレス誘発性うつ病モデルとして知られている社会的敗北ストレス(SDS)モデルマウスの作成法。7週齢のC57BL/6J系統のオスに対して、攻撃者である10週齢以上のCD-1系統のオスを1日10分間程度共存させることで強いストレスを与えます。SDSモデルはこの操作を10日間継続させます。このように持続的な高ストレスにさらされたマウスでは、血中のトリプトファンが有意に低下していました(***:p<0.001)。


この研究は、性格がうつ病血液バイオマーカーの識別性能と関連することを示した初めての報告です。今後、性格とストレスとうつ病の生物学的関係を解明するための橋渡し研究の加速により、一人一人のうつ病患者に適した個別化医療の実現が期待されます。本成果は、2020年10月1日(木)(日本時間)に、国際学術誌「Journal of Affective Disorders」に掲載されました。

発表のポイント

  • Big-5と呼ばれる性格検査(注1)によって、健常者とうつ病患者を「うつ気質」の強さに応じて層別化できることを明らかにしました。
  • 血液メタボローム解析(注2)に基づくうつ病判別モデルを作成したところ、「うつ気質」の偏りが小さい集団に限定すると、識別精度が飛躍的に向上することを発見しました。
  • トリプトファンやセロトニンなどの血液成分は、うつ病気質の偏りが小さい集団において、健常群に比べてうつ病患者群で有意に低下していました。
  • 個体の性格を考慮しなくてよいうつ病関連マウスモデルとして、社会的敗北ストレス負荷マウスの血液代謝物を測定したところ、ストレス負荷後に血中トリプトファンが低下していることを発見しました。
  • この研究結果は、うつ病に関連する血液成分が性格と連関していることを示唆しています。

背景

うつ病は、抑うつ気分や意欲低下など様々な症状を呈し、自殺に至る危険が最も高い精神疾患であることから、客観的にモニタリングすることが可能なバイオマーカーの開発が急務です。本研究チームは、これまでに質量分析による血液メタボローム解析(注2)を駆使することにより、血液中の幾つかの代謝物がうつ病の判別や重症度に関連していることを報告してきました。一方、心理学的研究から、うつ病の発症や重症化に個々人の性格が影響するということが永年示唆されてきましたが、うつ病に関連する血液成分との関連についてはほとんど検証されていませんでした。

研究の成果

本研究グループは、まず、BIG-5による性格検査により、未服薬の大うつ病患者100名と健常者100名(合計200名)を、神経症傾向が高く外向性が低い「うつ気質」と呼ばれる性格を有する集団、その真逆の性格傾向の集団、そして、こうした性格の偏りが少ない集団(患者と健常者が半数ずつ含まれる86名:クラスター1(●))に層別化しました(図3)。

図3.性格による被験者集団の層別化
Big-5性格検査に基づく全被験者200名(健常者100名と大うつ病患者100名)の階層クラスタリング分類
主成分分析/k-平均法によって全被験者を3群に層別化することができます。第1主成分(横軸)は、うつ病関連気質(神経症傾向が高く、外向性が低い)の強さを反映しています。第2主成分は患者の層別化とは無関係の指標になります。赤色のクラスター1は、うつ病関連気質の影響が中間的なクラスターで、健常者と大うつ病患者が半数ずつ含まれています。一方、クラスター2はうつ病関連気質が強く反映されており、大うつ病患者が大部分を占めています。逆に、クラスター3は健常者が多数を占めていました。


次に、血液メタボローム解析で得た代謝物情報に基づく機械学習モデルを作成し、うつ病か否かを判別させると、全被験者を対象とした場合に比べて、「性格の偏りが少ない集団(図3Bの1で示されるクラスター)」に限定した場合、その識別性能が飛躍的に向上しました(図1)。この集団ではトリプトファン、セロトニン、キヌレニンなどのトリプトファン経路の代謝物が判別に大きく貢献していました。

「うつ気質」では比較的弱いストレスでもうつ病になるリスクが高いですが、「うつ気質」でなくても強いストレス下ではうつ病が引き起こされることが稀ではありません。今回のような「性格の偏りが少ない集団」の中のうつ病患者はこのタイプである可能性があります。そこで、ストレスとうつ病と血中代謝物との因果関係を探るために、ストレス誘発性うつ病モデルとして知られている社会的敗北ストレスモデルマウスの血中代謝物を測定したところ、ストレス負荷後に血中トリプトファンが低下していました(図2)。

今後の展開

この研究は、性格がうつ病血液バイオマーカーの識別性能と関連することを示した初めての報告です。うつ病と一言でいっても、病前性格によって様々なタイプに分類されます。現在の抗うつ薬の多くはトリプトファン経路の代謝物であるセロトニンをターゲットにしていますが、効果の発現に個人差があります。本研究は、性格の違いにより、うつ病のバイオタイプ(注3)が異なる可能性を示唆しており、今後、バイオタイプの違いによって治療効果発現に違いがあるかの大規模サンプルを用いた実証研究が求められます。今後の研究の発展により、性格検査や採血により一人一人のバイオタイプを事前に把握することによる個別化医療の実現が期待されます。

用語解説
(注1)BIG-5による性格検査
パーソナリティ(気質・性格:本文では両者をまとめて「性格」と表記)の要素を神経症傾向、外向性、良心性、協調性、開放性の5つに分類し、その要素を把握できる自記式質問票。本研究では、60の質問からなる日本語版NEO-FFIを用いています。なお、本文では、元来持って生まれたパーソナリティのことを「気質」を表記しています。
(注2)血液メタボローム解析
主に血しょう中に含まれている様々な低分子化合物(代謝物)を網羅的に解析する手法です。現在では、質量分析装置MSを使った測定法が主流です。
(注3)バイオタイプ
生物学的特性による分類。従来、精神疾患は症状や経過といった臨床的特徴を元にして疾患を分類してきました。近年、臨床的特徴からではなく、生物学的特性をベースにして精神疾患を分類する試みがなされており、こうした分類をバイオタイプ分類と称しています。
研究助成

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラム(「臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)」)、障害者対策総合研究開発事業(精神障害分野)の助成などにより行われました。

論文情報
論文タイトル
Personality classification enhances blood metabolome analysis and biotyping for major depressive disorders: two-species investigation
著者
Daiki Setoyama, Atsuo Yoshino, Masahiro Takamura, Go Okada, Masaaki Iwata, Kyohei Tsunetomi, Masahiro Ohgidani, Nobuki Kuwano, Junichiro Yoshimoto, Yasumasa Okamoto, Shigeto Yamawaki, Shigenobu Kanba, Dongchon Kang, Takahiro A. Kato
掲載誌
Journal of Affective Disorders
DOI
10.1016/j.jad.2020.09.118
お問い合わせ先
研究に関すること

九州大学病院精神科神経科(大学院医学研究院 精神病態医学)
講師 加藤隆弘

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