肝線維化の進行抑制にサイトグロビンが有効であることを確認~肝硬変の治療法に光~

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2021-02-25 大阪市立大学,日本医療研究開発機構

概要

大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学の河田則文教授、Le Thi Thanh Thuy特任講師、Ninh Quoc Dat大学院生らの研究チームは、サイトグロビン※1の肝線維化※2治療薬としての応用に向けた有効性や安全性の確認を行い、今後の研究開発に向けて大きな一歩を踏み出しました。

本研究チームは、サイトグロビンを静脈注射することで、マウス肝線維化の進行が抑えられることを発見しました。サイトグロビンは、肝臓が様々な原因により急性または慢性の炎症を起こしている時に、コラーゲンなど線維化分子を生成する星細胞内に発現します。今回、星細胞内のサイトグロビンを過剰発現させたり、あるいはヒト型組換えサイトグロビンを外から投与することで、肝線維化を抑制する効果が確認されました(図1)。


図1 ヒト型組み換えサイトグロビン(His-CYGB)が生体内での肝線維化を抑制チオアセトアミド投与により肝線維化を生じた野生型マウスを用いた実験結果。上段から肝細胞障害と炎症性細胞の浸潤(H&E染色)、コラーゲン線維の組織沈着(SiR-FG染色)、活性化星細胞を示すα平滑筋アクチン染色(αSMA)、脂質過酸化反応(4-HNE染色)、酸化的DNA障害(γH2AX染色)をそれぞれ示す。His-CYGBを投与していない肝線維化マウス(コントロール、左側)に比較して、His-CYGBを2週間(真中)あるいは5週間(右側)静脈投与した線維化モデルマウスの肝臓では、炎症反応、コラーゲン沈着、星細胞活性化、酸化ストレス反応が顕著に抑制されていた。

本研究成果は、2021年2月11日にHepatology誌(IF=14.679)に掲載されました。

掲載誌情報
雑誌名
Hepatology(IF=14.679)
論文名
6His-tagged Recombinant Human Cytoglobin Deactivates Hepatic Stellate Cells and Inhibits Liver Fibrosis by Scavenging Reactive Oxygen Species
著者
Ninh Quoc Dat*, Le Thi Thanh Thuy*, Vu Ngoc Hieu, Hoang Hai, Dinh Viet Hoang, Nguyen Thi Thanh Hai, Tuong Thi Van Thuy, Tohru Komiya, Krista Rombouts, Dong Minh Phuong, Ngo Vinh Hanh, Truong Huu Hoang, Misako Sato-Matsubara, Atsuko Daikoku, Chiho Kadono, Daisuke Oikawa, Katsutoshi Yoshizato, Fuminori Tokunaga, Massimo Pinzani, and Norifumi Kawada. (*These authors share co-first authorship).
DOI
10.1002/hep.31752
研究の内容

肝線維化は、進行すると本邦で約40万人が罹患している肝硬変に至る病態で、肝不全や門脈圧亢進症、さらには肝がんの発生に大きく関わります。従って、進行慢性肝疾患の予後を改善するためには、肝線維化の進行を抑制する、あるいは、肝硬変を軽減できる治療法が必要ですが、ヒトの慢性肝疾患に対する抗(脱)線維化治療法は未だ開発されておらず、医療現場におけるunmet medical needとして残っています。

本研究チームは、肝線維化に関わる主要な細胞である肝星細胞※3(Hepatic stellate cell:HSCs)に発現し、活性酸素種の消去に関わるタンパク質であるサイトグロビン(CYGB)が持つ抗線維化作用に注目し研究を行っています。

今回、肝線維化が進行したモデルマウスを用いた検討で、CYGBの遺伝子操作による発現増強、またはヒト型組み換えサイトグロビン(His-CYGB)注射投与のいずれの方法も、肝線維化を抑制することが可能であるとの結果を得ました。またヒト肝細胞キメラマウス※4において、注射投与したHis-CYGBは肝細胞毒性を示さず、その安全性が確認されました。

肝線維化は、肝細胞障害をきっかけとして始まり、炎症性細胞の浸潤、HSCsの活性化、有害な活性酸素種(ROS)の産生等を含む多種多様なステップを経て進行します。本研究チームは、まず、培養HSCsの培養液中にHis-CYGBを投与して観察したところ、投与したHis-CYGBがクラスリン※5を介して細胞内へと取り込まれ細胞内小器官へ移行すること、HSC細胞内の活性酸素種(O2やOH)を消去すること、さらには、インターフェロンβ(interferon-β、IFN-β)※6の産生誘導を行うことが分かり、これらの作用を介してHis-CYGBがHSCsのコラーゲン産生を阻害することを確認しました(図2)。即ち、投与したHis-CYGBはHSCsの活性化に対して負の制御作用を有することが明らかとなりました。

図2 ヒト型組み換えサイトグロビンが肝星細胞を不活性化し、肝線維化を抑制する仕組み6つのHistidineを付与したヒト型組み換えサイトグロビン(His-CYGB)は、細胞外からクラスリン(Clathrin)を介して星細胞内へと取り込まれる。His-CYGBは活性酸素(reactive oxygen species, ROS;O2やOH)を除去して無毒化する(H20やLOOH)一方、TANK binding kinase-1(TBK1)活性化によりインターフェロンβ(IFN-β)分泌を誘導し、さらにJAK-STAT経路を活性化させる。これらの反応が総じてHis-CYGBは星細胞の不活性化[α平滑筋アクチン(αSMA)発現低下]を誘導し、コラーゲン(COL)形成の阻害をもたらす。

また、本研究チームは、肝線維化モデルマウスを数種類用意し、サイトグロビンを遺伝子操作で過剰発現させたマウス(トランスジェニックマウス)と野生型マウスで比較実験を行いました。その結果、マウス胆管結紮モデル※7と高脂肪食モデル※8の両方で、野生型マウスに比較してCYGBトランスジェニックマウスでは肝線維化が有意に軽減しました。次に、肝細胞障害を惹起する化学物質の長期投与で誘導した肝線維化2モデルマウスにHis-CYGBを静脈注射で投与したところ、投与したHis-CYGBは肝の類洞周囲に存在するHSCsに集積すること、主として腎臓から尿へと排泄されるが腎毒性を発揮しないことが分かりました。さらにHis-CYGB投与群では、非投与群と比較して、肝細胞障害・炎症反応、コラーゲン沈着、HSCs活性化のマーカーであるα平滑筋アクチン発現や活性酸素によるDNA損傷など、肝線維化に関連する事象を劇的に抑制することが観察されました(図1)。

今後の展開

今回の研究成果を足がかりに、His-CYGBを用いた新しい脱線維化治療法確立に向けて、大動物を用いた試験ののち、ヒトへの臨床試験へと進めたいと考えています。

資金情報

本研究はAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)肝炎等克服実用化研究事業『リコンビナントCytoglobinを用いた脱肝線維化治療薬開発に関する研究』による資金援助を得て実施しました。

用語解説
※1 サイトグロビン
ヘモグロビン、ミオグロビン、ニューログロビンについで発見された哺乳類第4番目のグロビンタンパク質。酸素・一酸化炭素・一酸化窒素などのガス分子と結合し活性酸素の消去に関与する。肝臓では、サイトグロビンは肝星細胞でのみ発現し、肝星細胞を線維芽細胞由来の筋線維芽細胞と区別するためのマーカーとして利用できる。
※2 肝線維化
肝線維化は慢性的な肝臓障害時に創傷治癒反応として生じ、肝硬変、肝不全、門脈圧亢進症および肝発がんの原因となる。
※3 肝星細胞
肝細胞と類洞内皮細胞の間隙に存在する肝臓構成細胞の一つでビタミンAを貯蔵している。肝障害がおこると活性化してビタミンAを放出し、コラーゲン線維を産生する活性化肝星細胞へと形質転換する。
※4 ヒト肝臓のキメラマウス
マウスの肝細胞をヒト肝細胞で90%以上置換させた免疫不全マウスモデル。薬剤の肝細胞での代謝や毒性をチェックしたり、肝炎ウイルス感染モデルとして広く利用されている。
※5 クラスリン
クラスリンは、細胞内へ分子を輸送するために関与し、エンドサイトーシスやエクソサイトーシスの過程において被覆小胞を形成する際に重要な役割を果たすタンパク質。
※6 IFNβ
IFNβ(インターフェロン-β)は通常は線維芽細胞によって産生されるポリペプチドで、抗ウイルス作用や抗腫瘍増殖作用を有する。
※7 マウス胆管結紮モデル
マウス総胆管結紮により閉塞性胆汁うっ滞が生じ、炎症性肝障害と肝線維症が誘発される実験モデル。
※8 高脂肪食モデル
高脂肪食モデルはマウスに高脂肪食を与えて脂肪性肝炎を誘発し、ヒトの非アルコール性脂肪性肝炎を模倣する実験モデル。
お問い合わせ先

研究内容に関する問合せ先
大阪市立大学
大学院医学研究科肝胆膵病態内科学
担当:Le Thi Thanh Thuy

取材に関する問合せ先
大阪市立大学
広報課
担当:上嶋(かみしま)健太

AMED事業に関する問合せ先
日本医療研究開発機構
疾患基礎研究事業部 疾患基礎研究課

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