RNAウイルスの感染を阻害する既存薬の同定

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複数の異なるRNAウイルスに対して宿主細胞の感受性を下げることにより感染を抑制する薬剤

2021-04-07 京都大学iPS細胞研究所

ポイント

  1. RNAウイルスには、局所的なアウトブレイク1)や世界的なパンデミック2)を引き起こすものが多くある。
  2. RNAウイルスは変異しやすいため、流行を繰り返す。
  3. 複数の異なるRNAウイルスに共通して、抗ウイルス作用を有する薬剤があれば、新たに出現したRNAウイルス
    感染症に対しても有益である可能性がある。
  4. 本研究では、ヒトiPS細胞とRNAウイルスの一種であるセンダイウイルスを用いた感染症モデルを構築し、
    抗RNAウイルス活性を呈する既存薬のスクリーニングを行った。
  5. Huh7細胞3)におけるエボラウイルス、Vero E6細胞4)における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して、選抜されたヒット化合物の抗ウイルス効果を評価した。
  6. 複数の異なるRNAウイルスと宿主細胞の組み合わせに対して、宿主細胞の感受性を調節し、抗ウイルス作用を
    示す薬を同定した。

1. 要旨

今村恵子(理化学研究所バイオリソース研究センター(BRC)iPS創薬基盤開発チーム 客員研究員、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門特定拠点講師)、櫻井康晃(長崎大学熱帯医学研究所/感染症共同研究拠点(兼任)助教)、川口実太郎(株式会社IDファーマ 営業推進室長)、安田二朗(長崎大学感染症共同研究拠点/熱帯医学研究所(兼任)教授)、井上治久(京都大学CiRA増殖分化機構研究部門教授、理化学研究所BRC iPS創薬基盤開発チームチームリーダー)らの研究グループは、ヒトiPS細胞とRNAウイルスの一種であるセンダイウイルスを用いて感染症モデルを構築し、抗RNAウイルス活性を呈する既存薬のスクリーニングを行いました。選抜されたヒット化合物について、Huh7細胞におけるエボラウイルス、Vero E6細胞における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス効果を評価しました。
Raloxifeneを含む選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)は、エボラウイルスとSARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を示しました。また、PPARγアゴニストであるPioglitazoneもSARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を示し、RaloxifeneとPioglitazoneは、Vero E6細胞において相乗的な抗ウイルス作用を示すことが分かりました。さらに、SERMがSARS-CoV-2の宿主細胞への侵入ステップを阻害することを明らかにしました。以上から、これらの既存薬はRNAウイルスに対する宿主細胞の感受性を調節し、抗ウイルス作用を示すことが明らかとなりました。
この研究成果は2021年4月7日(日本時間)欧州科学誌「FEBS Open Bio」でオンライン公開されました。

2. 研究の背景

SARS-CoV-2はヒトからヒトへの高い感染力のためにパンデミックを引き起こし、公衆衛生上の脅威となっています。RNAウイルスには新興・再興感染症の原因となるものが多く、RNAウイルス関連疾患の治療薬を見つけることは非常に重要です。RNAウイルスは、高い変異率を有し、異なる種類のRNAウイルスは多様な形態と遺伝子構成を示し、ウイルス間での多様性を有しています。各ウイルスに対する特異的な治療法やワクチンが開発されていますが、複数のRNAウイルスに共通して抗ウイルス作用を持つ薬剤があれば、新たに出現したRNAウイルス感染症に対しても有益である可能性があると考えられます。

3. 研究結果

本研究では、ヒトiPS細胞を用いて、センダイウイルスが発現するEGFP(enhanced green fluorescent protein)を検出することによってウイルスの感染力を測定する化合物スクリーニング系を構築し、センダイウイルスの感染性を抑制する既存薬のスクリーニングを行いました(図1)。

図1. ヒトiPS細胞とセンダイウイルスを用いた化合物スクリーニング

A. 化合物スクリーニングの概略。

B. 化合物スクリーニングの結果。EGFP発現細胞数を減少させる薬を抽出した。
赤丸; 抽出したヒット化合物。青丸;コントロール(DMSO)。


ヒットした薬剤の中から、心血管循環や中枢神経系への影響が少ない薬剤を選択し、Huh7細胞を用いてエボラウイルスに対する抗ウイルス効果を、Vero E6細胞を用いてSARS-CoV-2に対する抗ウイルス効果を評価しました。結果として、Raloxifeneを含む選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)は、エボラウイルスとSARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を示しました。また、PPARγアゴニストであるPioglitazoneは、SARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を示しました。さらに、RaloxifeneとPioglitazoneは、Vero E6細胞において、SARS-CoV-2に対して相乗的な抗ウイルス作用を示すことが分かりました。
最後に、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を有する疑似型水疱性口内炎ウイルス(VSV)を用いて、SERMがSARS-CoV-2の宿主細胞への侵入も阻害するかどうかを検討しました。SERMであるRaloxifene、Toremifene、Clomifeneは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(S)を持つ疑似型VSVの感染を阻害しまたが、VSV糖タンパク質を持つVSVではその効果は認められませんでした。このことから、SERMがSARS-CoV-2の宿主細胞への侵入ステップを阻害することが分かりました(図2)。

図2. SARS-CoV-2の宿主細胞への侵入抑制効果

A. SARS-CoV-2スパイクタンパク質を有する疑似型水疱性口内炎ウイルス(VSV)の模式図。

B. Raloxifene、Toremifene、ClomifeneはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を持つ疑似型VSVの感染を阻害した。一方、VSV糖タンパク質(G)を持つVSVではその効果を認めなかった。


ヒトiPS細胞とセンダイウイルスを用いた化合物スクリーニングを実施し、さらにエボラウイルス、SARS-CoV-2に対する評価を行うことによって、複数の異なるウイルスと宿主細胞の組み合わせにおいて、RNAウイルスに対する宿主細胞の感受性を調節し、抗ウイルス効果を持つ既存薬を同定しました。これらの薬は、今後出現する新たなRNAウイルス感染症に対しても治療効果を発揮する可能性があり、複数のモデルで慎重に有効性とそのメカニズムを明らかにすることにより、臨床への応用が促進されることが期待されます。

4. まとめ

ヒトiPS細胞とセンダイウイルスを用いた化合物スクリーニングを実施し、さらにエボラウイルス、SARS-CoV-2に対する評価を行うことによって、複数の異なるウイルスと宿主細胞の組み合わせにおいて、RNAウイルスに対する宿主細胞の感受性を調節し、抗ウイルス効果を持つ既存薬を同定しました。これらの薬は、今後出現する新たなRNAウイルス感染症に対しても治療効果を発揮する可能性があり、複数のモデルで慎重に有効性とそのメカニズムを明らかにすることにより、臨床への応用が促進されることが期待されます。

5. 論文名と著者

  1. 論文名
    iPSC screening for drug repurposing identifies anti-RNA virus agents modulating host cell susceptibility
  2. ジャーナル名
    FEBS Open Bio
  3. 著者
    Keiko Imamura1)2)3)#, Yasuteru Sakurai4)5)#, Takako Enami1)3), Ran Shibukawa1)2), Yohei Nishi1),
    Akira Ohta1), Tsugumine Shu6), Jitsutaro Kawaguchi6), Sayaka Okada4), Thomas Hoenen7),
    Jiro Yasuda4)5)*, Haruhisa Inoue1)2)3)*
    # 筆頭著者 *筆頭著者
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)
    2. 理化学研究所バイオリソース研究センター(BRC)iPS創薬基盤開発チーム
    3. 理化学研究所革新知能統合研究センター(AIP)iPS細胞連携医学的リスク回避チーム
    4. 長崎大学熱帯医学研究所 新興感染症学分野
    5. 長崎大学感染症共同研究拠点
    6. 株式会社IDファーマ 研究開発センター
    7. Institute of Molecular Virology and Cell Biology, Friedrich-Loeffler-Institut, 17493 Greifswald-Insel Riems, Germany

6. 本研究への支援

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