数ヶ月を2週間に!迅速・簡便な新型コロナウイルス人工合成技術を開発

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新型コロナウイルス関連研究の加速化に貢献

2021-05-24 大阪大学,北海道大学,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  • PCR法を活用した感染性ウイルスの作出技術「CPER法※1」を用いて、新型コロナウイルスの人工合成に成功。
  • これまでのコロナウイルスの人工合成は、複雑な遺伝子操作技術と作製に数ヶ月間を要するという問題があったが、本方法ではわずか2週間で新型コロナウイルスを作製可能。
  • CPER法を用いればウイルスの遺伝子改変も容易であることから、世界各地で次々と確認されている変異ウイルスに対しても迅速に対応し解析することが可能。
  • 本技術で新型コロナウイルスを迅速に合成することで、感染機構や変異ウイルスの病原性の解析、そして治療法や予防法の開発の加速が期待される。
概要

大阪大学微生物病研究所の鳥居志保特任研究員(常勤)、大阪大学感染症総合教育研究拠点(微生物病研究所特任教授(常勤)兼任)松浦善治特任教授(常勤)、北海道大学大学院医学研究院の福原崇介教授らの研究グループは、Circular Polymerase Extension Reaction(CPER)法を用いることにより、わずか2週間で新型コロナウイルスを人工合成する新しい技術を確立しました。

本技術により、従来数ヶ月かかっていたウイルスの合成が大幅に短縮されることで新型コロナウイルスの研究開発が加速化するとともに、世界中で出現する様々な変異を持つ新型コロナウイルスに対しても迅速に解析することが可能となります。また、人工的に外来遺伝子を組み込むなど遺伝子操作をしたウイルスを用いた研究は病原性解析や予防法・治療法の開発にも応用できることから、本技術は今後新型コロナウイルス研究において中心的な役割を担うと期待されます。

数ヶ月を2週間に!迅速・簡便な新型コロナウイルス人工合成技術を開発

末端領域が重なるように設計した遺伝子断片をPCRで増幅し、プロモーターを含むリンカー断片と共にPCRで連結させた。連結した環状DNAを細胞に導入するすることで、ウイルスを合成することができた。CPER産物を導入してウイルスが増殖していた細胞では細胞変性効果が観察された。

本研究成果は、英国科学雑誌「Cell Reports」に2021年4月に公開されました。

研究の背景

ウイルス研究では、ウイルスの遺伝子配列情報をもとに人工的にウイルスを合成する技術が確立され、治療法や予防法の開発に役立てられています。コロナウイルスでも、SARSウイルスやMERSウイルスの人工合成技術が開発されていますが、複雑かつ高度な遺伝子操作技術と数ヶ月もの期間が必要であり、限られた研究者しかコロナウイルスを人工合成できないという問題がありました。しかし、次々と現れる変異ウイルスに対応し、かつ病原性の解明や治療法・予防法の開発を行うためには、迅速かつ簡便に感染性ウイルスを作出する技術の開発が求められていました。

そこで本研究では、任意の遺伝子変異を素早く簡便に導入できる新型コロナウイルス人工合成技術を確立するため、PCRを利用した方法の開発に取り組みました。

本研究の成果

デング熱を起こすデングウイルスなどが含まれるフラビウイルスでは、Circular Polymerase Extension Reaction (CPER)法というPCRを活用した手法で、感染性ウイルスクローンを作出する技術が開発されています。本研究ではこのCPER法を新型コロナウイルスにも応用できないかと考えて研究を進めました。

まず、新型コロナウイルスの遺伝子全長をカバーする9個のウイルス遺伝子断片とプロモーターを含むリンカー断片をPCRで増幅しました(図のステップ1)。各断片が隣り合う断片と重なる領域を持つよう設計することで、もう一度PCRを行うと、10個の断片が一つに繋がり、ウイルス遺伝子全長をコードする環状のDNAを作製できることがわかりました(図のステップ2)。この環状DNAを新型コロナウイルスがよく増殖する培養細胞に導入すると、細胞の中でDNAをもとにRNAが合成され、さらにこのRNAをもとにウイルスが合成されて、約7日間で感染性の新型コロナウイルスを作出することができました(図のステップ3)。すなわちCPER法を用いることで、高度な遺伝子操作技術を用いずに、PCRのみで新型コロナウイルスの感染性DNAクローンを作製できることが分かりました。さらに、GFPなどの蛍光タンパク質を導入したウイルス※2や、任意の遺伝子を変異させたウイルスも作出可能であることを示しました。

本研究成果の意義

本研究は、新型コロナウイルスの性状解析において課題であった人工合成技術を、誰もが実施できるように簡単にした、まさにコロンブスの卵※3のような研究です。

より多くの研究者が迅速・簡便に新型コロナウイルスを合成できるようになることで、人工的に遺伝子改変したウイルスを用いた病原性解析やワクチン・抗ウイルス薬の開発、また、次々と現れる変異ウイルスに対するこれまで以上に素早い解析が可能となり、新型コロナウイルス感染症克服に向けた研究が飛躍的に進むことが期待されます。

掲載論文・雑誌
タイトル
“Establishment of a reverse genetics system for SARS-CoV-2 using circular polymerase extension reaction”
著者
Shiho Torii,Chikako Ono,Rigel Suzuki,Yuhei Morioka,Itsuki Anzai,Yuzy Fauzyah,Yusuke Maeda,Wataru Kamitani,Takasuke Fukuhara,Yoshiharu Matsuura

Cell Reportsに、2021年4月にオンライン掲載

特記事項

本研究は、科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、JST【ムーンショット型研究開発事業】グラント番号【JPMJMS2025】「ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御」の支援を得て行われました。

用語説明
※1 CPER法
Circular Polymerase Extension Reaction(CPER)法とは、重なる領域を有する遺伝子断片を鋳型にDNA合成酵素(ポリメラーゼ)を用いて伸長反応を実施することにより、遺伝子断片が連結した環状のDNAを作出する方法。2013年に発表されフラビウイルスのワクチン開発に活用されている。
※2 GFPなどの蛍光タンパク質を導入したウイルス
ウイルスに蛍光タンパク質を導入すると、ウイルスが感染した細胞で蛍光タンパク質が発現するため、感染細胞を可視化することができる。この技術により薬剤の抗ウイルス活性や、ウイルスの感染性を測定可能になる。
※3 コロンブスの卵
アメリカ大陸発見は誰にでもできると言われたコロンブスが、卵を立てることを試みさせ、誰もできなかった後に卵の先端を潰して立てて見せたという逸話から、誰もが思いつきそうな簡単なことでも、それを最初に行うことは難しいことの例え。また盲点のことを言う。
お問い合わせ先

本件に関する問い合わせ先
大阪大学 微生物病研究所 広報担当 中込 咲綾

AMED事業に関する問い合わせ先
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
創薬事業部創薬企画・評価課

細胞遺伝子工学
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