脳出血超急性期患者の臨床転帰/積極降圧療法の効果と腎機能:研究者主導国際共同試験 ATACH-2 の副次解析

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2021-07-02 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也 略称:国循)の福田真弓データサイエンス部室長(脳血管内科併任)、豊田一則副院長、古賀政利脳血管内科部長らの研究チームが海外研究者と共同で行ったAntihypertensive Treatment of Acute Cerebral Hemorrhage (ATACH)-2試験(Clinical Trials.gov NCT01176565; UMIN000006526)に基づく副次解析が、Neurology誌オンライン版に、令和3年7月2日に掲載されました。

背景

脳出血は、我が国の脳卒中全体の約2割を占める重大な国民病であり、有効な治療法の確立が待たれる疾患の一つです。効果が期待される治療法として、発症早期の積極的降圧療法が挙げられます。
国循の研究チームは、海外研究者らとともに、研究者主導国際共同試験ATACH-2を実施しました。ATACH-2では、急性期の積極的な降圧が脳出血臨床転帰を改善するかを調べるため、発症から4時間半以内の脳出血患者を積極降圧群(収縮期血圧110~139 mmHg)と標準降圧群(140~179 mmHg)とに無作為に割付け、24時間、目標血圧範囲を維持しました。試験の主要評価項目である3か月後の死亡または高度機能障害の割合(modified Rankin Scale(注1) 4-6に相当)は、両群とも約38%で有意差を認めませんでした。この成果はNew England Journal of Medicine誌(2016;375:1033-1043)に掲載されました。
ATACH-2試験全体では、脳出血患者における積極降圧療法の有用性は示されませんでしたが、その一方で積極降圧群ではより多くの腎有害事象が認められました(積極降圧群:9.0%、標準降圧群4.0%)。そこで今回の副次解析では、ATACH-2試験参加者において、脳卒中発症時の腎機能が、臨床転帰や積極降圧療法の有効性・安全性に影響を及ぼすかを調べました。

解析結果

ATACH-2試験に登録された1000例(うち日本人288例)の発症時腎機能の指標としてCKD-EPI式を用いて推算糸球体濾過量(eGFR)を算出しました。解析対象974名のeGFRの中央値は88(四分位範囲: 68, 99) ml/min/1.73 m2でした。腎機能低下(eGFR 60 ml/min/1.73 m2未満)を160名(16.4%)に認めました。腎機能低下群は、脳出血発症3か月後の死亡または高度機能障害のリスクが有意に高いことがわかりました(図1)。また、積極的降圧療法の効果は、発症時の腎機能によって異なり、腎機能低下群では、積極降圧療法を受けたグループは、標準降圧を受けたグループに比べ、発症3か月後の死亡または高度機能障害のリスクが上昇することが示されました(図2)。

解説

腎機能低下が慢性的に続く慢性腎臓病(CKD)は、全世界的に増え続けており、日本においても成人の8人に1人がCKDといわれ、新たな国民病として注目されてます。CKDは放置すると、末期腎不全となり人工透析や腎移植を受けなければ生きられなくなってしまうだけでなく、CKDがあると、心筋梗塞、脳卒中などの循環器疾患にかかり易くなることが指摘されています。
今回の検討では、脳出血発症時に腎機能低下を認めた群では、腎機能が正常であった群と比べて脳出血発症後の機能回復が不良であることが示されました。また、腎機能低下群では、脳出血急性期の積極的な降圧は、発症3か月後の死亡または高度機能障害を増加させる可能性があることが示されました。
慢性的な高血圧は、腎臓と脳のいずれの血管にもダメージを及ぼし、それぞれの臓器で血流を一定に保とうとする力(自動調節能)を障害することが知られています。腎障害を有する患者さんにおける脳出血急性期の過度の降圧に伴う影響の詳細なメカニズムや、腎機能障害を有する方への適切な降圧目標については今後の検討が必要です。
ATACH-2試験では、他にも多くの副次解析が計画・実施されており、国循の研究チームもその幾つかを担当しています。今後の更なる検討を経て、真に有効な急性期脳出血治療法が解明されることが期待されます。
〈注釈〉
(注1)脳卒中患者の自立度の尺度のこと。0(無症状)~6(死亡)の7段階評価となっており、4~6は、要介護状態を示す。

発表論文情報

著者:Mayumi Fukuda-Doi, MD MPH PhD; Haruko Yamamoto, MD PhD; Masatoshi Koga, MD PhD; Yohei Doi, MD; Adnan I. Qureshi, MD; Sohei Yoshimura, MD PhD; Kaori Miwa, MD PhD; Akiko Ishigami, MD; Masayuki Shiozawa, MD; Katsuhiro Omae, PhD; Masafumi Ihara, MD PhD; Kazunori Toyoda, MD PhD
題名:Impact of renal impairment on intensive blood pressure lowering therapy and outcomes in intracerebral hemorrhage: Results from ATACH-2
掲載誌:Neurology

謝辞

ATACH-2試験はNIHの神経疾患・脳卒中部局であるNational Institute of Neurological Disorders and Strokeからの研究助成費(U01-NS062091、U01-NS061861)によって、運営されました。国内での試験遂行の一部は、国循循環器病研究開発費(H23-4-3、H28-4-1)により支援されました。
本副次解析の遂行にあたり, 文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」による支援をいただきました。

図1 腎機能と脳出血3か月後の死亡または高度機能障害のリスク

脳出血超急性期患者の臨床転帰/積極降圧療法の効果と腎機能:研究者主導国際共同試験 ATACH-2 の副次解析

実線は、eGFR= 60 ml/min/1.73 m2を基準とした場合の、eGFR毎の死亡または高度機能障害(modified Rankin Scale 4-6)のリスク(調整オッズ比)を制限スプラインモデルを用いて示したもの(グレー部分は95%信頼区間)

図2 腎機能と積極降圧療法と標準降圧療法のリスク

実線は、標準降圧と比較した積極降圧の死亡または高度機能障害(modified Rankin Scale 4-6)のリスク(調整オッズ比)をeGFR毎に示したもの(グレー部分は95%信頼区間)

医療・健康
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