小麦による食物アレルギーのリスク因子を発見

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遺伝子検査で小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの発症を予防

2021-07-10 理化学研究所,島根大学

理化学研究所(理研)生命医科学研究センターファーマコゲノミクス研究チームの莚田泰誠チームリーダー、福永航也研究員、島根大学医学部の森田栄伸教授、千貫祐子准教授らの共同研究グループは、食物アレルギーの特殊なタイプである小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)の患者を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)[1]により、WDEIAの発症リスクが、特定のHLA[2]型である「HLA-DPB1*02:01:02」と関連することを発見しました。

本研究で同定したHLA-DPB1*02:01:02は、将来的にはWDEIAの発症リスクを予測するバイオマーカー[3]として活用されることが期待できます。

WDEIAは、うどんなどの小麦製品の摂取後に運動などの二次的要因が加わることで、じんましん、下痢、腹痛、呼吸困難などが見られる、特殊な食物アレルギーの一つで、重篤な場合はアナフィラキシーショック[4]を来たします。成人に見られる小麦アレルギーの大部分は、WDEIAであると考えられ、主要な原因は小麦中のオメガ-5グリアジン[5]であることが明らかにされています。

今回、共同研究グループは、日本人WDEIA患者におけるHLA- DPB1*02:01:02の保有率は73%であり、日本人集団における保有率39%と比較して統計的に有意に高頻度であることを突き止めました。

本成果は、科学雑誌『The American Journal of Human Genetics』オンライン版(7月9日付:日本時間7月10日)に掲載されます。

背景

小麦アレルギーは、うどんなどの小麦製品が原因となって、じんましん、下痢、腹痛、呼吸困難などの症状が生じる食物アレルギーです。小麦に対して必ず、しかも摂取してから数分以内に反応するものを即時型小麦アレルギーといい、乳幼児における小麦アレルギーの大部分は、このタイプに分類されます。

一方、小麦の摂取だけでは反応せず、摂取後の運動やアスピリンの服用などの二次的要因が加わることによりアレルギー症状を示す「小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)」が見られることがあり、重篤な場合は、アナフィラキシーショックを起こします。成人における小麦アレルギーの発症頻度は日本人で0.21%と報告されていますが、そのほとんどはWDEIAであると考えられています注1)

注1)Morita, E., Chinuki, Y., Takahashi, H., Nabika, T., Yamasaki, M., and Shiwaku, K. (2012). Prevalence of wheat allergy in Japanese adults. Allergol Int 61, 101-105.

研究手法と成果

共同研究グループはまず、日本人WDEIA患者77人に対し、日本人集団924人を対照群として、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、一塩基多型(SNP)[6]の網羅的な解析を行いました(図1)。すると、ヒトゲノム全体をカバーする約390万カ所のSNPの中で、rs9277630というSNPがゲノムワイド有意水準を超えるP値(P < 5×10-8[7]を示したことから、WDEIAの発症に関わる有力な疾患関連SNPであると考えました。

図1 小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)のGWASの結果

各SNPとWDEIAとの関連を調べたGWASの結果。横軸にヒトゲノム染色体上の位置、縦軸に各SNPのWDEIAとの関連解析におけるP値の負の対数値を示した。図の上に位置するほど関連が確からしいことを示しており、黒い実線のGWAS有意水準を超えるP値を示したrs9277630について検証解析を行った。


さらに、別の日本人WDEIA患者91人を追加して検証しました。最終的には、両者の結果をメタ解析[8]で統合することにより、WDEIA患者のうち122例(73%)が「HLA-DPB1*02:01:02」というHLA型を保有しており、日本人集団における保有率39%と比較して、統計的に有意に高頻度であることを突き止めました(P = 1.06×10-14)(図2)。また、ある事象(病気など)の起こりやすさの比較尺度であるオッズ比は、4.13と非常に高い値を示しました(図2)。これにより、HLA-DPB1*02:01:02はWDEIAの発症に密接に関連することが明らかになりました。

日本人WDEIA患者におけるHLA-DPB1*02:01:02の保有率の図

図2 日本人WDEIA患者におけるHLA-DPB1*02:01:02の保有率

日本人WDEIA患者におけるHLA-DPB1*02:01:02の保有率は、日本人集団における保有率と比較して、統計的に有意に高頻度であった。

今後の期待

今回の研究結果から、HLA-DPB1*02:01:02を保有する人は、保有しない人に比べてWDEIAを発症するリスクが高いことが示されました。本研究で同定したHLA-DPB1*02:01:02はWDEIAの発症リスクを予測するバイオマーカーとして、将来的には遺伝子検査に活用されることが期待できます。

補足説明

1.ゲノムワイド関連解析(GWAS)
疾患感受性遺伝子を見つける代表的な方法。ヒトゲノムを網羅した数百万~1000万カ所の一塩基多型を対象に、対象サンプル群における疾患との因果関係を評価できる。2002年に世界で初めて理化学研究所で実施された手法であり、以後世界中で精力的に実施されている。GWASはgenome-wide association studyの略。

2.HLA
ヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen:HLA)を決定する遺伝子群。HLA遺伝子には多くの種類が存在し、さらにそれぞれの遺伝子が数十種類の異なるタイプを持つ。HLAは免疫に関係が深く、多くの疾患の発症や副作用の発現のリスク因子であることが報告されている。HLA-DPB1*02:01:02はHLAのタイプの一つ。

3.バイオマーカー
疾患の発症や進展の予測に役立つ生体由来の物質のこと。特定の遺伝子配列や血液中の代謝産物などが対象になる。

4.アナフィラキシーショック
小麦などの食物アレルギー、ハチなどによる虫刺され、抗生物質や造影剤などの薬物投与によって起こる、複数の臓器や全身におけるアレルギー反応による過敏症状をアナフィラキシーという。その中でも血圧低下、呼吸困難や失神を伴うなど、重症の場合をアナフィラキシーショックと呼び、場合によっては命を落とす危険性がある。

5.オメガ-5グリアジン
小麦に含まれる微量なアレルゲンタンパク質で、成人のWDEIA患者の約90%がこのタンパク質に感作されている。

6.一塩基多型(SNP)
ヒトの染色体にある全DNA情報(ヒトゲノム)は、約30億文字の並び(塩基配列)で構成されている。この文字の並びは遺伝情報となっており、その99.7%は全人類で共通であるが、0.3%程度に個人差(遺伝子多型)があることが分かっている。多くの遺伝子多型による影響は見られないが、一部は病気へのかかりやすさなどに関係していると考えられている。SNP(スニップ)とは、塩基配列の文字の並びが一つだけ異なっているものであり、30億塩基の中に約1,000万カ所ある。SNPはsingle nucleotide polymorphismの略。

7.ゲノムワイド有意水準を超えるP値(P < 5×10-8
P値は、ある試験において、二つの群間の差が偶然生じる可能性を示す指標であり、小さいほど二群間の差が生じている可能性が高い。通常の統計解析では、P値が0.05未満である場合、統計的に意味があると判断する。これは、ある結果を偶然生じることが100回に5回未満であることを意味するが、GWASでは数百万回以上の検定を行うため、全く関係がなくても偶然に関係があると誤って判断されてしまう可能性がある。そこで、通常の判定基準である0.05をさらに100万で割った5×10-8未満という厳しい判定基準を採用して、誤った判断をしないように独自に有意水準を設定している。

8.メタ解析
二つ以上の統計解析結果を合わせる際に、それぞれの解析結果のばらつきを補正し、偏りのない合算をする統計学的手法。

共同研究グループ

理化学研究所 生命医科学研究センター ファーマコゲノミクス研究チーム
チームリーダー 莚田 泰誠(むしろだ たいせい)
研究員 福永 航也(ふくなが こうや)

島根大学 医学部 皮膚科学講座
教授 森田 栄伸(もりた えいしん)
准教授 千貫 祐子(ちぬき ゆうこ)

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