光照射を用いた超高解像度な遺伝子解析技術の開発に成功

ad
ad

組織内に潜むがん細胞の病理診断などに応用可能

2021-07-21 科学技術振興機構,九州大学,京都大学

光照射を用いた超高解像度な遺伝子解析技術の開発に成功

ポイント
  • 組織内に潜むがん細胞や、ごく少数しか存在しない細胞の遺伝子解析は困難だった
  • 半導体製造技術をヒントに、光を照射した細胞だけの遺伝子発現を調べる超高解像度な解析技術の開発に成功
  • COVID-19による炎症組織や、がん組織標本の病理診断を、低コストで行うことが可能になる

JST 戦略的創造研究推進事業において、九州大学 生体防御医学研究所の大川 恭行 教授と京都大学大学院 医学研究科の沖 真弥 特定准教授らの研究グループは、光単離化学(Photo-Isolation Chemistry=PIC)という技術を開発し、非常に小さな細胞集団や細胞の中の微小構造体で機能する遺伝子を光照射により検出することに成功しました。

ヒトやその他の多細胞生物は少なくとも100種類以上の細胞タイプから構成され、空間的な配置や場所によってさらに細分化された機能や特性を持つことが知られています。一方で、これらの細胞を臓器や組織から取り出すと本来の特性を失うため、組織を破壊することなく特定の細胞のみを解析する必要がありますが、従来の手法では不可能とされてきました。

本研究グループは、半導体製造工程の光による超微細加工技術をヒントに、光を照射したエリアからのみ、遺伝子の発現情報を取り出す(=単離する)技術を開発しました。PICと名付けられたこの技術により、脳のさまざまな領域に光を照射して、領域ごとに働きが異なる遺伝子のみを検出することに成功しました。さらにマウス胎児の非常に小さな細胞集団や、従来不可能であった細胞内の1000分の1ミリ以下の微小構造体からも遺伝子を網羅的に検出することができました。

空間オミクスと呼ばれる研究分野の成果である本技術分野は、現在、国際的な開発競争が激化しています。こうした技術の多くは、利用に高額の費用を要しますが、PICは既存の遺伝子解析手法にたった数百円追加するだけで実施できるため、国際的な普及が見込まれる日本発の独自技術です。今後、この技術によってがんやCOVID-19による炎症など、正常と異常な細胞が入り混じった臨床組織の病理診断への応用が加速すると期待されます。

本研究成果は、2021年7月21日(日本時間)に科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」
(研究総括:菅野 純夫 千葉大学 未来医療教育研究機構 特任教授)

研究課題名:「細胞ポテンシャル測定システムの開発」

研究代表者:大川 恭行(九州大学 生体防御医学研究所 教授)

研究期間:2016年度〜2021年度

JSTはこの領域で、少数の細胞を対象とした解析技術の開発を支援し、上記研究課題では、その空間的な測定システムの開発を実施しています。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域:「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」
(研究総括:高橋 淑子 京都大学 大学院理学研究科 教授)

研究課題名:「位置情報レコーディングによる多細胞システム解析」

研究者:沖 真弥(京都大学 大学院医学研究科 特定准教授)

研究期間:2019年度〜2022年度

JSTはこの領域で、組織・器官・個体などを構成する細胞集団を時空間的に解析することによって生命現象を1つのシステムとして理解することを目指します。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“High-depth spatial transcriptome analysis by photo-isolation chemistry”
DOI:10.1038/s41467-021-24691-8
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
大川 恭行(オオカワ ヤスユキ)
九州大学 生体防御医学研究所 トランスクリプトミクス分野 教授

沖 真弥(オキ シンヤ)
京都大学 大学院医学研究科 創薬医学講座 特定准教授

<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
九州大学 広報室
京都大学 総務部 広報課 国際広報室

生物化学工学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました