早期の外科手術による発作コントロールが 難治てんかんを持つ子どもの発達を改善

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2021-08-13 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)病院脳神経外科の岩崎真樹部長およびNCNPてんかんセンターの中川栄二センター長、トランスレーショナル・メディカルセンター情報管理・解析部⽣物統計解析室の立森久照 室長らの研究グループは、3歳未満で外科治療を受けたてんかん患者75名を対象にてんかん発作と発達の転帰を解析し、外科治療による発作のコントロールが患児の良好な発達に寄与することを明らかにしました。
一部のてんかん患者さんは、生後間もない時期にてんかん発作を発症し、薬物治療(抗てんかん薬)では発作がなかなかコントロールされません。小児では、繰り返すてんかん発作や脳波の異常そのものが患者さんの発達を阻害することがあるため、てんかんの原因が手術で取り除けるときは早めの外科治療が検討されます。しかし、乳幼児に対する開頭手術は合併症のリスクが高く、早期の手術が本当に有効なのかは十分に分かっていません。これまで、NCNPてんかんセンターは難治てんかんの乳幼児に対して可及的早期の外科治療を実施してきました。
このたび、岩崎・立森・中川らの研究グループは、2006~2019年の期間に3歳未満で手術を受けた75名のてんかん患者を対象に、術後のてんかん発作の状態と発達指数を調査しました。生後3ヶ月で手術を受けた患者さんが最も多く、手術から1年目の時点で83%の患者さんの発作が完全に消失していました。また、手術後は抗てんかん薬の必要量が有意に減ることが分かりました。重回帰分析で検討したところ、手術前の発達指数と手術による発作消失が、手術後1年目の発達指数に寄与することが分かりました。
3歳未満のてんかん外科に関する報告は少なく、本研究は単施設として過去最大規模のものです。また、手術が患者さんの発達に与える影響をこれほどの規模で検討した過去の報告はありません。今回の成果は、経験のある専門施設における乳幼児期早期のてんかん外科がてんかん発作のコントロールおよび発達に有効であることを示しており、早期のてんかん外科を普及する上で重要な知見と考えられます。
本研究成果は日本時間2021年8月13日20時(米国東部標準時間8月13日7時)に、「Journal of Neurosurgery, Pediatrics」オンライン版に掲載されました。

研究の背景

薬物治療の効果が乏しいてんかん(薬剤抵抗性てんかん)に対して外科治療が行われます。脳の発達過程にある小児では、繰り返すてんかん発作や脳波の異常そのものが正常な発達を妨げることがあるため、手術が可能な薬剤抵抗性てんかんにはなるべく早い外科治療が薦められています。小児では、てんかん発作をコントロールするとともに、発達への悪影響を減らすことが、てんかん治療の大事な目標になります。
一部の原因、特に片側巨脳症に代表されるような大脳の大きな皮質形成異常は、生後間もない時期に薬剤抵抗性てんかんを生じることがあります。そのような患者さんには1歳を待たずに外科治療が実施されることがありますが、大人に比べると乳幼児の開頭手術は合併症のリスクが高いと考えられています。乳幼児のてんかん外科は大脳半球離断術のような大掛かりな手術が多く、手術後に水頭症をきたし、それに対する追加治療が必要になる患者が20%程度いると報告されています。
これまで、てんかん外科手術後の患児の発達を大規模に調べた報告はほとんどありません。乳幼児期に手術を行うことが、その後の発作や発達にどのような影響を与えるのか、合併症が発達に悪影響を与えるのかを明らかにした研究はこれまで行われてきませんでした。NCNPてんかんセンターでは、以前から難治てんかんの乳幼児に対して可及的早期の外科治療を実施してきました。本研究では、NCNPにおける乳幼児てんかん外科の治療経験をまとめ、合併症や発作転帰が患児の発達に与える影響を探りました。

研究の概要

2006~2019年までの期間にNCNPてんかんセンターでてんかんの外科治療を受けた3歳未満の患者さん75名を対象に、手術後のてんかん発作の有無、手術に伴う合併症、発達指数などの診療情報を抽出して調べました。因果ダイアグラムに基づいて、①手術前の発達指数、②手術後の発作消失、③手術の種類、④てんかんの原因、⑤水頭症の合併の5つの因子を選び、それらが手術1年目の発達指数に与える影響を重回帰分析で検討しました。
生後3~4か月で手術を受けた患者さんが最も多く、平均年齢は12か月でした。大脳半球離断術を受けた患者さんが27名いらっしゃいました。手術から1年経った時点で、62名(82.7%)の患者さんのてんかん発作が消失していました。手術後に一度もてんかん発作を起こさなかった患者さんの割合は、1年目で79%、2年目で70%、5年目で58%でした(図1)。手術のとき、患者さんは平均で2.2種類の抗てんかん薬を服用していましたが、手術後1年目では1.9種類、平均5年の時点では1.3種類に減っていました。約3割の患者さんは、発作が完全に消失したために、薬物治療を中止していました

図1:手術を受けてから一度もてんかん発作を起こしていない患者さんの割合は、1年目で79%、2年目で70%、5年目で58%と、良好な治療経過であった。


手術に伴う死亡例はありませんでしたが、一時的な合併症は19名の患者さんに見られました。水頭症は13名(17.3%)に生じ、シャント手術などの追加治療が行われていました。
重回帰分析の結果、手術1年目の発達指数に影響するのは、手術前の発達指数とてんかん発作の消失であり、合併症(水頭症)の影響は小さいことが分かりました(図2)。

図2:手術後の患児の発達につながる因果関係をダイアグラムにて示した。重回帰分析の結果から、手術後の発達に強く影響するのは手術前の発達と手術後の発作消失(赤枠)であることが分かり、合併症(青枠)の影響は小さいことが明らかになった。


この結果から、乳幼児期早期の手術はとても効果が高く、薬物治療も減らせることが分かりました。また、手術による発作の消失は発達に良い影響を与えると考えられました。17%の患者さんで水頭症を合併するリスクがあるものの、手術後の発達に与える影響は少なく、手術を行うメリットの方が大きいと思われます。

今後の展望

小さいお子さんの手術にはリスクを伴います。どの程度の年齢であれば十分に安全に手術が行えるのか、まだ答えは分かっていません。本研究の結果は、経験を有する脳神経外科医と小児神経科医のチームであれば、生後3~4か月でのてんかん手術は比較的安全に行え、発作のコントロールと発達に有効であることが分かりました。
今後は、技術の普及を図りながら、他の施設でも同様の結果が得られるのか報告を待つ必要があります。また、手術は早ければ早いほど良いのかという点も分かっていません。リスクを減らすために敢えて手術を遅らせた方がよい可能性もあり、検証が待たれます。
乳幼児手術において、合併症を減らすような手術技術の工夫も望まれます。

用語の説明
  1. 水頭症:脳脊髄液が吸収されずに頭蓋内に貯まることによって生じる症状。脳脊髄液を腹部などに流すルートを作成する「シャント手術」によって治療される。
  2. 発達指数:正常な発達を100とした場合の、その子の発達の割合。10歳のお子さんが6歳程度の発達具合のとき、発達指数は6歳/10歳=60となる。
  3. 片側巨脳症:生まれつき片側の大脳全体の形成が過剰で、脳が「腫大」している病気。てんかんの原因となることが多く、異常な側の脳を切断する大脳半球離断術が行われる。
  4. 重回帰分析:複数のデータの関連性を明らかにする統計手法の一つで、ある結果(本研究では発達指数)の値の変動に、別の要素(本研究では手術後の発作の有無や合併症の有無など)がどのくらい影響を与えるかを分析する方法。
原著論文情報

論文名: Epilepsy surgery in children under 3 years of age: surgical and developmental outcomes.

著者:岩崎真樹,飯島圭哉,川島貴大,立森久照,高山裕太郎,木村唯子,金子裕,池谷直樹,住友典子,齋藤貴志,中川栄二,高橋章夫,須貝研司,大槻泰介

掲載誌: Journal of Neurosurgery, Pediatrics

doi: 10.3171/2021.4.PEDS21123

URL: https://thejns.org/doi/10.3171/2021.4.PEDS21123

研究経費

本研究結果は、主に以下の研究助成を受けて行われました。
国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費 中川班1-4
「てんかんの病態解明と併存症を含めた先駆的・包括的診断と治療方法の開発」

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター
病院 脳神経外科
岩崎真樹

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
総務課 広報係

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