新型コロナウイルス感染症拡大下で、 発達障害を持つ子どもと親の生活の質はどのように変化したか

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2022-03-15 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部上田理誉研究生、請園正敏リサーチフェロー、高田美希研究員、岡田俊部長らの研究グループは、社会福祉法人日本心身障害児協会島田療育センターはちおうじ小沢浩所長らと共同し、COVID-19(新型コロナウイルス)感染症の流行拡大下において、発達障害がある子どもと親の生活の質(QOL)*1について継続的に調査を行いました。子どものQOLは、2020年5月の新型コロナウイルス感染初期に比べ、1年後の2021年5月にはが改善していましたが、親のQOLは悪化していました。特に子どものQOLの改善は親の育児ストレスの改善、抑うつ傾向の軽減とかかわることが明らかになりました。新型コロナウイルス感染症流行下において発達障害の子どもと親のQOLをフォローアップした研究は少なく、貴重な研究成果となります。
本研究成果は、英国時間2022年3月12日10時(日本時間:2022年3月12日19時)に「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

研究の背景

発達障害の子どもは環境の変化に敏感であり、新型コロナウイルス感染症感染拡大によりメンタルヘルスの悪化が危惧されます。加えて、養育する親の育児負担も増大することが懸念されます。そのため、感染拡大が始まった2020年5月より、発達障害の学齢期の子どもの親による親と子どものQOLに関する経時的調査を開始しました。昨年の調査結果では、子どもの睡眠スケジュールの変化と母親の勤務形態を柔軟に変更できないことが、子どもと親のQOL低下と関連していること(Ueda et al. Scientific Report 2021. DOI: 10.1038/s41598-021-82743-x)、また、子どもの睡眠スケジュールの悪化は子ども自身の抑うつ傾向と深く関わっていること(Ueda et al. Frontiers in Psychiatry 2021. DOI: 10.3389/fpsyt.2021.676493)を明らかにしました。
このたびの報告では、2021年5月に、新型コロナウイルス感染症拡大から1年後の子どもと親のQOLの変化を調べ、子どものQOLと親の精神状態の変化がどのように作用しているかを調べました。また、子どもたちのQOLに影響する可能性のある要因についても検討しました。

研究の概要

2020年5月と2021年5月(ともに新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言下)に、8~17歳までの学齢期の発達障害(神経発達症)の子ども89名(平均年齢11.6歳,男子70名,女子19名)が質問紙調査に参加しました。親の抑うつ(CES-Dうつ病自己評価尺度)、不安(新版 STAI 状態ー特性不安検査)、育児ストレス(PSI育児ストレスインデックス)、QOL(WHO-QOL26)、および小児の不適応行動(子どもの行動チェックリスト)とQOL(Kiddo-KINDLR)を親が評価しました。また、子どもの生活面や家庭の経済状況の変化などについてのアンケート調査も合わせて行いました。子どもたちは、一時的な気分を表すVAS(Visual Analog Scale)について、0(今まで感じた中で最悪)~100(今まで感じた中で最高)の数値を用いて自己回答しました。
2021年5月の時点では、子どものQOLとVAS(一時的な気分)は2020年5月に比べて改善していました。一方、親のQOLは1年前に比べて悪化しました。
子どものQOLと親の精神状態との関連についても検討しました(図1)。2020年5月に親に強い抑うつ傾向があると、翌年の育児ストレスと抑うつ傾向は増悪しました。2020年5月に子どものQOLが高いと翌年の子どものQOLも上昇傾向を認めました。また、2020年5月の子どものQOLは、翌年の親の育児ストレスにも影響していました。

【図1】神経発達症の子どものQOLと親の抑うつ傾向の変化と相互関係

新型コロナウイルス感染症拡大下で、 発達障害を持つ子どもと親の生活の質はどのように変化したか

新型コロナウイルス感染症拡大初期にQOLが低い子どもは1年後にも低い傾向があります。親の抑うつ傾向が新型コロナウイルス感染症拡大初期に高いと、1年後にも高くなりやすく、育児ストレスも高くなりやすくなります。この場合、子どものQOLは低下させやすくなります。しかしながら、子どものQOLが高い場合、親の育児ストレス軽減につながりやすく、抑うつ傾向も悪化させにくくなります。


さらに、2021年5月に、子どもの一時的な気分が低いこと、親のQOLが低いことは、2020年5月と比較して2021年5月に親の家計に対する経済的負担感が悪化したことと関連していました。実際、経済的な公的援助が必要な家庭は5家庭(5.6%)から9家庭(10.1%)に増え、80人中21人の父親(母児家庭を除く、26.3%)と89人中19人の母親(21.3%)が新型コロナウイルス感染症拡大以前より収入が減少していました。
本研究では、新型コロナウイルス流行拡大が長期化する中で、子どもと親のQOLは変化していることを示しました。子どものQOLの向上は、母親の抑うつ症状の軽減に影響されていました。子どものQOLを低下させないためには、親のメンタルヘルスへの援助が重要といえます。

今後の展望

最近では、新型コロナウイルスへの感染が子どもに拡大するなどの状況が見られます。また、養育にかかわる親の精神的・経済的負担も浮き彫りになってきました。感染拡大の収束はまだ見通すことができませんが、その回復過程に影響を与える要因も含めて検討し、支援の方策を見いだしたいと考えています。

用語の説明

*1QOL:生活の質
世界保健機関は「個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準および関心に関わる自分自身の人生の状況ついての認識」と定義しています。これは、人の身体的・精神的自立のレベル、社会関係、信念、環境などの重要な側面との関わりという複雑なあり方を取り入れた広範囲な概念です。

原著論文情報

論文名:Quality of life of children with neurodevelopmental disorders and their parents during the COVID-19 pandemic: A one-year follow-up study

著者:上田理誉、岡田俊、北洋輔、小沢愉理、井之上寿美、塩田睦記、河野芳美、河野由佳、中村由紀子、雨宮馨、伊藤藍、杉浦信子、松岡雄一郎、海賀千波、白木恭子、久保田雅也、小沢浩

掲載誌: Scientific Reports

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DOI: 10.1038/s41598-022-08273-2

研究経費

本研究結果は、以国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(2-7)の支援を受けて行われました。

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 知的発達障害研究部
岡田 俊

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 総務課 広報係

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