がん患者の人生の最終段階の療養生活の実態調査結果 5万人の遺族から見た全体像を公表

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遺族の視点では、医療者はがん患者の苦痛症状によく対応していたが苦痛症状の緩和は、改善の余地があることが明らかになりました

2022-03-25 国立がん研究センター

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉 東京都中央区)は、厚生労働省の委託事業として、がん患者の人生の最終段階で利用した医療や療養生活の実態を明らかにするため、2019年と2020年に約110,000名のがん患者の遺族を対象とした全国調査を行いました(有効回答数約54,000名)。2回の調査結果は統合して集計し、報告書をウェブサイトに公開しました。人生の最終段階では、医療を利用した患者に対して直接調査を実施することが難しいため、遺族の視点で評価する方法を用いています。

患者さまが亡くなる前に利用した医療や療養生活に関する実態調査

調査結果のポイント

今回の調査では、がん患者の人生の最終段階における療養生活の全体像の把握、痛み等の苦痛に対する医療者の対応に関する検討、一般病院とがん診療連携拠点病院の療養生活の実態把握を行いました。

全体像の把握
  • がん患者の人生の最終段階では、症状の重さや、日常生活動作・認知機能の低下の有無など、患者の状況によって、患者・家族が最期の療養場所を選択していたことが示唆されました。
  • がん患者の遺族の82%は、医療者は患者の苦痛症状によく対応していたと感じていたことから、医療者への評価は概ね良好でした。
  • がん患者の遺族において、患者と主治医の間で最期の療養場所や医療について話し合いがあったと回答した割合は36%でした。今後、話し合いが十分にできていないことで生じる影響を明らかにし、具体的な対策を検討する必要があります。
痛み等の苦痛への対応
  • がん患者の遺族において、患者が死亡前にからだの苦痛がなく過ごせたと感じていた割合は42%であることから、医療者は、基本的な対応だけでは十分に症状を緩和することが難しい複雑な場合などに、対応できるようにすることが必要です。
一般病院とがん診療連携拠点病院の療養生活の実態
  • 一般病院とがん診療連携拠点病院では、一般病院の患者がより高齢であり、入院が長期間にわたっていました。がん患者の遺族において、患者が死亡前にからだの苦痛が少なく過ごせたと感じていた割合は、一般病院41% がん診療連携拠点病院34%でした。がん診療連携拠点病院の患者はより若年であることなど、入院患者の背景の違いが影響していることが示唆されました。

1.調査概要

本調査は、2017年と2018年の人口動態調査の死亡票情報を用いて、がん患者の遺族を対象に、2019年1月から3月と2020年3月から5月に郵送によるアンケート調査を実施しました。アンケートの内容は、遺族からみた「死亡場所で受けた医療の構造・プロセス」「死亡前1カ月間の患者の療養生活の質」「最後の療養場所の希望や医療に関する話し合い」「家族の介護負担」などが含まれています。

調査票は110,990名に送付し、送付先の宛先不明は14,658名、有効回答数は54,167名でした。

2.主な結果

本調査は、わが国のがん患者が人生の最終段階の療養生活をどのように過ごしたか、その全体像を明らかにすることを目的にしています。本結果は、全体の結果を重視して解釈すべきものであり、最期の療養場所として、どこで死亡することが良い・悪いと単純に比較・判断することは困難です。例えば「介護施設で死亡した患者は、もともと痛みなどの症状が少なかったので、医学的な介入を必要とせず入院することがなかった」など、療養場所によって患者のもともとの病状が異なります。したがって、療養場所の違いを考察する際には病状や本人の治療への希望などに留意し、注意深く考察することが必要です。

1)患者・遺族の背景の全体像(表1)
  • がん患者全体では、死亡時の年齢は80歳以上の割合が50.2%であり、半数以上を占めていました。
  • がん患者の遺族全体では、患者ががんと診断されてから亡くなるまでの期間は1年以内と回答した割合は52.6%でした。
  • がん患者の遺族全体では、患者が死亡前1カ月間で日常生活動作に何らの介助が必要だったと回答した割合は78.4%、患者が認知症を併存していたと回答した割合は13.3%でした。
  • 調査に回答したがん患者遺族全体では、年齢は60-70代の割合が57.1%と最も高く、続柄は、配偶者が44.1%、子が39.7%でした。

表1 患者・遺族の背景(回答割合,%)

がん患者の人生の最終段階の療養生活の実態調査結果 5万人の遺族から見た全体像を公表

2)死亡場所で患者が受けた医療の構造・プロセス
  • がん患者の遺族全体では、医療者は患者のつらい症状にすみやかに対応していたと回答した割合は82.4%、患者の不安や心配をやわらげるように、医師、看護師、介護職員は努めていたと回答した割合は82.2%でした(図1)。医療者への評価は概ね良好であり、これまでがん対策として取り組まれてきた基本的な緩和ケアの普及啓発の結果が表れていると考えられます。

図1 死亡場所で患者が受けた医療の構造・プロセス

死亡場所で患者が受けた医療の構造・プロセスの表

3)死亡前1カ月間の患者の療養生活の質
  • がん患者の遺族全体では、患者は痛みが少なく過ごせたと回答した割合は47.2%、からだの苦痛が少なく過ごせたと回答した割合は41.5%でした(図2)。
  • 医療者の対応に関する遺族の自由回答を踏まえると、苦痛症状への基本的な対応はなされているが、死亡前の痛みの主な理由には、基本的な対応のみでは緩和されない難治性の症状がある場合や認知症などの併存があるために痛みの評価が難しい場合、がん以外の症状が混在するなど複雑な場合があることが明らかになり、緩和ケアの効果が十分に得られなかった可能性が示唆されました。
  • がん患者の苦痛緩和は改善の余地があり、医療者への基本的緩和ケアの教育機会を提供することに加え、複雑な場面での診断方法や難治性の症状に対する新たな治療方法の開発を検討する必要があります。

図2 死亡前1カ月間の患者の療養生活の質

死亡前1カ月間の患者の療養生活の質の表

4)全体・死亡場所別:死亡前1週間の患者の苦痛症状
  • がん患者の遺族全体では、患者が死亡前に強い痛みを感じていたと回答した割合は28.7%でした(図3)。当該遺族が回答した痛みの理由として最も多かったのは、痛みに対して医療者は何らかの対処をしたが、不十分であったから(28.4%)でした(表2)。その他の理由には、患者の認知機能が低下していることにより痛みの評価が難しい場合や、褥瘡や骨折・腰痛などのがん以外の併存症・医療処置による痛みがある場合も含まれており、複数の要因が影響していたと考えられます。
  • 痛みは患者の療養生活の質に影響する重要な要因であるため、改善を図る必要があります。

図3 死亡前1週間の患者の苦痛症状

死亡前1週間の患者の苦痛症状の表

表2 死亡前1週間の「痛み」の主な理由

死亡前1週間の「痛み」の主な理由の表

5)最期の療養場所の希望や医療に関する話し合い
  • がん患者の遺族全体では、患者と医師の間で最期の療養場所に関する話し合いがあったと回答した割合は35.7%、患者と医師の間で心肺停止時の蘇生処置の実施について話し合いがあったと回答した割合は35.1%でした(図4)。
  • 患者の意向・希望に沿った医療を提供するためには、主治医等の医療者から提供される情報に基づく患者本人による意思決定が基本となるため、改善を図る必要があります。患者と医師間で話し合いが十分にできていないことにより生じる影響を調査したうえで、具体的な対策の検討が必要です。

図4 最期の療養場所の希望や医療に関する話し合い

最期の療養場所の希望や医療に関する話し合いの表

6)一般病院・がん診療連携拠点病院別 患者の背景
  • がん患者の死亡時の年齢について、80歳以上の割合は一般病院57.8%、がん診療連携拠点病院32.7%であり、一般病院でより高齢でした。
  • 一般病院の遺族で、患者が死亡前1カ月間で日常生活動作に何らの介助が必要だったと回答した割合は77.4%、患者が認知症を併存していたと回答した割合は16.1%であり、いずれもがん診療連携拠点病院よりも高い割合でした。
7)一般病院・がん診療連携拠点病院別 死亡場所で患者が受けた医療の構造・プロセス
  • 一般病院・がん診療連携拠点病院で死亡したがん患者の遺族で、医療者は患者のつらい症状にすみやかに対応していたと回答した割合は一般病院80.5%、がん診療連携拠点病院81.7%であり、いずれも医療者の評価は概ね良好でした(図5)。

図5 一般病院・がん診療連携拠点病院別 死亡場所で患者が受けた医療の構造・プロセス
一般病院・がん診療連携拠点病院別 死亡場所で患者が受けた医療の構造・プロセスの表

 

8)一般病院・がん診療連携拠点病院別:死亡前1カ月間の患者の療養生活の質
  • 一般病院・がん診療連携拠点病院で死亡したがん患者の遺族で、死亡前1ヶ月間の患者の療養生活の質について、痛みが少なく過ごせたと回答した割合は一般病院45.4%、がん診療連携拠点病院40.1%、からだの苦痛が少なく過ごせたと回答した割合は一般病院40.5%、がん診療連携拠点病院33.9%、望んだ場所で過ごせたと回答した割合は一般病院39.1%、がん診療連携拠点病院44.7%でした(図6)。がん診療連携拠点病院では、一般病院と比べて患者が若年であるため、積極的な治療を希望することによって、治療や処置に伴う避けられない苦痛をより感じていたことが考えられます。

図6 一般病院・がん診療連携拠点病院別 死亡前1カ月間の患者の療養生活の質
一般病院・がん診療連携拠点病院別 死亡前1カ月間の患者の療養生活の質の表

 

3.まとめ

  • 本調査は、2017年と2018年にがんで死亡した者の遺族を対象に行い、54,167名から回答を得ました。
  • 本調査によって、がん患者の人生の最終段階の療養生活の状況は、より症状の重い患者・家族が、がん診療連携拠点病院を含む病院の利用を選択し、症状が比較的穏やかで高齢の患者・家族が介護施設の利用を選択していたことが明らかになりました。医療・介護施設がそれぞれ担う機能に応じて、患者・家族が最期の療養場所を選択していたことが示唆されました。
  • 療養場所によって患者の病状や治療への希望が異なるため、本調査によって、最期の療養場所として、どちらが良い・悪いと単純に比較・判断することは困難です。
  • がん患者の遺族全体では、患者の苦痛に対して医療者は良く対応をしていたと回答した割合は82.4%でした。一方で、からだの苦痛が少なく過ごせたと回答した割合は41.5%でした。基本的な対応では症状を緩和することが難しい場合が一定数存在する可能性があります。痛みを含む苦痛症状は、がん患者の療養生活の質に影響する重要な要因であるため、改善を図る必要があります。
  • がん患者の遺族全体では、患者と医師の間で最期の療養場所の希望や医療に関する話し合いがあったと回答した割合は35.7%でした。患者の意向・希望に沿った医療の提供を実現するためには、主治医等の医療者から提供される情報に基づく患者本人による意思決定が基本となるため、改善を図る必要があります。話し合いが十分にできていないことにより生じる影響を調査したうえで、具体的な対策の検討が必要です。
  • 本調査結果と海外の状況については、似たような調査結果を用いて比較できる可能性はありますが、海外とは文化や医療制度など民族的・文化的・社会的背景が異なるため、直接比較して解釈できるものではありません。
  • 本調査の報告書には、都道府県別に回答を集計した結果も記載しました。都道府県別の結果は予備的な解析であり、参考値として示します。今後、より詳細な調査解析が必要です。
  • 今後はさらにこの調査を発展させ、以下のような調査研究を行うことで、わが国の現状をさらに精密に把握し、具体的な政策の提言につなげることができると考えます。
    • 本調査結果の推移を把握するための定期的な継続調査
    • 患者と医療者の間での療養場所や医療に関する情報提供や意思決定支援の把握
    • 多死社会を踏まえた、がん以外の疾患も含めた遺族を対象とする調査
    • 認知機能低下等の高齢者特有の併存症をもつ高齢・超高齢者への望ましい医療提供体制の把握

末筆ではございますが、本調査にご協力いただいたご遺族の方々および関係者の皆様に、深く感謝を申し上げます。

報道関係からのお問い合わせ先

遺族調査について
国立がん研究センター がん対策研究所 がん医療支援部

その他全般について
国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
担当:がん対策研究所 がん登録センター 院内がん登録室 高橋 ユカ

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