白血球数が高いと心房細動罹患リスクが高い :都市部地域住民を対象とした吹田研究

ad

2022-10-25 国立循環器病研究センター

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)健診部の小久保 喜弘 特任部長らは、都市部地域住民を対象とした吹田研究(注1)を用いて、白血球数が高いと心房細動罹患リスクが高いことを明らかにしました。本研究成果は、日本循環器学会の英文誌Circulation Journal (Impact Factor 3.350、2022年)に2022年10月25日に電子版で公開されました(注2)。

■背景

高齢者での心房細動の増加は、公衆衛生上の大きな課題となっています。世界人口の相当する方が心房細動を有しており、過去 20 年間で33%も増加しています。さらに、2050年には60%以上増加する可能性があることも推計されています(注3)。心房細動は、脳卒中、認知症、心不全、および心血管疾患死亡率の主要な危険因子です。しかし、心房細動は避けられないものではなく、リスク要因を管理することである程度防ぐことができます。
炎症が心房細動の発症における重要なプロセスである可能性があり、この炎症の過程は潜在的に修正可能であることが示唆されています。白血球数は、広く測定されている炎症バイオマーカーです。多くの研究から、白血球数の増加が、心筋梗塞、脳卒中、および心血管疾患のリスクの増加と関連している可能性があることが報告されています。心房細動についても、米国のフラミンガム研究(注4)とノルウェーのTromsø研究(注5)で、白血球数と心房細動の罹患との間に正の関連性が示されましたが、米国のARIC研究では有意な関連性が示されませんでした(注6)。
アジア人では欧米人と比較して、喫煙率が高く、また心房細動の罹患率が低い特徴がありますが、白血球数と心房細動リスクとの関連性に対する喫煙の影響についてはこれまで発表されていませんでした。今回、白血球数が心房細動リスクの増加と関連している可能性があり、この関連は喫煙者の間でより強いという仮説を立て、吹田研究を用いて、白血球数が心房細動リスクにどのように影響を与えるかを分析し、喫煙状況によって結果を層別化しました。

■研究手法と成果

吹田研究参加者である30~84歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に心房細動の既往歴のない6,884名(男性3,238名、女性3,646名)を対象に、心房細動の新規罹患を追跡しました。その結果、平均14.6年の追跡期間中に312名が心房細動と新たに診断されました。
Cox比例ハザードモデルを用いて、白血球数の値の低い方から20%ずつ分けて(五分位)、心房細動の罹患率のハザード比 (HR、相対危険度) と 95% 信頼区間 (95% CI) を計算しました。白血球数の数の一番少ない群(下位20%、第1五分位)を基準に、一番多い群(上位20%、第5五分位)での心房細動罹患リスクは、ハザード比(95%信頼区間)が1.57 (1.07, 2.29)で(表1)、男女に分けると、女性では 2.16 (1.10, 4.26)、男性では 1.55 (0.99, 2.44) (年齢における白血球数と心房細動罹患に関する交互作用p = 0.07)、喫煙の有無別に分けると、現在喫煙者では 4.66 (1.89, 11.50)、非喫煙者では 1.61 (1.01, 2.57) でした。(交互作用p = 0.20)(表2)。
白血球数が 1000/μL増加するごとに、心房細動罹患リスクは集団全体で、12% (非喫煙者で10%、喫煙者で15%)、男性で 9% (非喫煙者 9%、喫煙者10%)、女性で 20% (非喫煙者 13%、喫煙者 32%)増大していました。

■考察

フラミンガム研究では936 人を調査し、白血球数の1標準偏差増加あたりの心房細動罹患のハザード比は2.16 (95%信頼区間,1.07, 4.35)でした(注4)。Tromsø 研究では、白血球数の下位25%群と上位25%群を比較して、心房細動の罹患リスクの増加と関連していました(ハザード比1.44; 95%信頼区間,1.11, 1.88、注5)。今回の研究では、これらの研究と類似の結果が得られました。ARIC 研究では、白血球数の1標準偏差増加あたりの心房細動罹患のハザード比は1.09 (95%信頼区間,1.04, 1.15)でしたが、この関連性は、循環器病の発生で調整すると関連性が消えました(注6)。
炎症が心房細動のリスクを高めるメカニズムは、まだよくわかっていませんが、心房細動を有する患者における炎症性バイオマーカーの増加は、電気的および構造的な心房のリモデリングに寄与する心房の炎症を示しているのかもしれません。このような着眼点から、ステロイドなどの抗炎症特性を持つ薬物は、心房細動の潜在的な治療薬として、および術後の心房細動および心房細動再発に対する化学予防薬として研究されてきました(注7)。また、今回注目すべきことは、白血球数と心房細動リスクとの関連性は、男性よりも女性の方が顕著だったことです。同様の性差は、NIPPON DATA 90 の 6,756 人の日本人の地域住民を対象とした追跡研究でも示されており、女性の白血球数が循環器病死亡率と関連していました。

■今後の展望と課題

吹田研究ではこれまで、心房細動罹患の予測ツールを開発してきました(注8)。この予測ツールは健診で評価できるような古典的リスク因子を用いて開発されていますが、今回の結果を受け、今後は評価すべき項目に白血球数高値を加えていくことで、心房細動発症予防の為に、どのような生活習慣改善を勧めればよいのか、具体的には白血球数高値の方で、喫煙をしている場合には禁煙をして頂く必要があるといったことを提示できるようになります。
私たちの研究は、アジアで初めて白血球数と心房細動罹患リスクとの関連性を調査した研究であり、都市部の日本人を代表する無作為に選択された集団について、2年毎の頻繁なフォローアップを実施する前向きデザインといった強みを備えています。ただし、いくつかの制限も考慮する必要があります。第一に、心房細動の発生数が限られているため、層別分析が難しいことがあげられます。アジア人は白人よりも心房細動の発生率が低いということもあります。 第二に、今回の研究では白血球数分画についてのデータがありませんでした。福島健康管理調査の横断的研究では、単球数および好中球/リンパ球比の増加とともに 心房細動有病率の増加が示されましたが、好中球、リンパ球、好酸球数の増加は示されませんでした(注10)。 ARIC 研究では、好中球数の増加に伴う心房細動リスクの増加が説明されました(注6)。心房細動の予防に資するより適切な指導を行うためには、今後さらなる研究が必要と考えます。

■発表論文情報

著者:Arafa A, Kokubo Y, Kashima R, Teramoto M, Sakai Y, Nosaka S, Shimamoto K, Kawachi H, Matsumoto C, Kusano K.
題名:Association between white blood cell count and atrial fibrillation risk: a population-based prospective cohort study.
掲載誌:Circ J

■謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

  • 国立研究開発法人国立循環器病研究センター(循環器病委託研究費「20-4-9」)
  • 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「生涯にわたる循環器疾患の個人リスクおよび集団リスクの評価ツールの開発及び臨床応用のための研究(20FA1002;分担研究者 小久保喜弘)
  • 文部科学研究費:基盤B(16H05252)
  • 研究成果展開事業 共創の場形成支援プログラム: 世界モデルとなる自律成長型人材・技術を育む総合健康産業都市拠点(JPMJPF2018; 分担研究者 小久保喜弘)
  • 明治安田生命と明治安田総合研究所
■注釈

(注1)吹田研究
国循が1989年より実施しているコホート研究(研究対象者の健康状態を長期間追跡し、病気になる要因等を解析する研究手法)で、性年代階層別に無作為に抽出した大阪府吹田市民を対象としています。全国民の約90%は都市部に在住していることを考えると、その研究結果は国民の現状により近い傾向があると考えられています。

(注2) Arafa A, Kokubo Y, Kashima R, Teramoto M, Sakai Y, Nosaka S, Shimamoto K, Kawachi H, Matsumoto C, Kusano K. Association between white blood cell count and atrial fibrillation risk: a population-based prospective cohort study. Circ J (in press).

(注3) Lippi G, Sanchis-Gomar F, Cervellin G. Global epidemiology of atrial fibrillation: An increasing epidemic and public health challenge. Int J Stroke. 2021;16:217-21.

(注4)Rienstra M, Sun JX, Magnani JW, Sinner MF, Lubitz SA, Sullivan LM, et al. White blood cell count and risk of incident atrial fibrillation (from the Framingham Heart Study). Am J Cardiol 2012; 109: 533–537.

(注5)Nyrnes A, Njølstad I, Mathiesen EB, Wilsgaard T, Hansen JB, Skjelbakken T, et al. Inflammatory biomarkers as risk factors for future atrial fibrillation. An eleven-year follow-up of 6315 men and women: the Tromsø study. Gend Med 2012; 9: 536–547.

(注6)Misialek JR, Bekwelem W, Chen LY, Loehr LR, Agarwal SK, Soliman EZ, et al. Association of white blood cell count and differential with the incidence of atrial fibrillation: the Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC) Study. PLoS One 2015; 10: e0136219.

(注7)Ihara K, Sasano T. Role of inflammation in the pathogenesis of atrial fibrillation. Front Physiol 2022; 13: 862164.

(注8)吹田心房細動スコア(10年間による心房細動罹患リスクスコア)
https://www.ncvc.go.jp/pr/release/20170606_press/
健診や外来受診時の検査項目程度で、10年後の心房細動の予測が可能です。
モデル因子:性、年齢、循環器リスク(収縮期高血圧、過体重以上 [BMI≥25㎏/㎡]、心房細動以外の不整脈、虚血性心疾患)、生活習慣・血清脂質 (過剰飲酒[≥2合/日]、喫煙、non-HDLC [130-189 mg/dL])、心雑音または弁膜症。
モデル因子のスコアに応じて心房細動罹患予測確率(10年間)が0.5%未満~27%と予測可能なツールです。
(注9)Nyrnes A, Njølstad I, Mathiesen EB, Wilsgaard T, Hansen JB, Skjelbakken T, et al. Inflammatory biomarkers as risk factors for future atrial fibrillation. An eleven-year follow-up of 6315 men and women: the Tromsø study. Gend Med 2012; 9: 536–547.

(注10)Suzuki H, Ohira T, Takeishi Y, Sakai A, Hosoya M, Yasumura S, et al. Association between atrial fibrillation and white blood cell count after the Great East Japan Earthquake: an observational study from the Fukushima Health Management Survey. Medicine (Baltimore) 2021; 100: e24177.

■参考資料

表1.白血球数5分位レベル別にみた心房細動罹患リスク
白血球数が高いと心房細動罹患リスクが高い :都市部地域住民を対象とした吹田研究

表2.男女別白血球数5分位レベル別にみた心房細動罹患リスク

報道関係の方からのお問い合わせ
国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

医療・健康
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました