2018-08-28 京都大学,九州大学,金沢医科大学
吉原亨 医学研究科特定助教、浅野雅秀 同教授、伊東信 九州大学教授、沖野望 同准教授、八田稔久 金沢医科大学教授、古川鋼一 中部大学教授らの研究グループは、脳内に豊富に存在する糖脂質「ガングリオシド群」の生合成の鍵となる酵素が、マウスの脳では2つのガラクトース転移酵素(B4galt5とB4galt6)であることを発見しました。
本研究成果は、2018年8月16日に米国の学術誌「PLOS Genetics」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
ガングリオシドの生合成に関わる酵素はそのほとんどの遺伝子が同定されていましたが、ラクトシルセラミド(LacCer)合成酵素については、はっきりしませんでした。遺伝子改変マウスを用いた本研究により2つのガラクトース転移酵素遺伝子(B4galt5とB4galt6)が担うことが明らかとなり、最後のピースを埋めることができました。さらに神経系特異的にガングリオシド全体を欠損したマウスを解析することにより、ガングリオシドの神経系構築における役割を明らかにすることができ、ガングリオシド研究に大きな貢献ができたと考えています。今後は小児の神経系の構築異常のモデルとして活用できるのではないかと期待しています。
概要
脳内に豊富に存在する糖脂質「ガングリオシド群」の生合成の鍵となる酵素は、従来はひとつのみと考えられていました。本研究グループは、そのような酵素が、マウスの脳では2つのガラクトース転移酵素(B4galt5とB4galt6)であることを発見しました。教科書の記述に変更を迫る成果と言えます。
さらに、この2つの遺伝子を脳でのみ欠損するマウス(ガングリオシド欠損マウス)を作製したところ、授乳期に運動失調を示し、離乳期(4週齢)までにすべて死亡しました。このガングリオシド欠損マウスの脳を詳しく解析したところ、神経系の構築(神経軸索とそれを取り巻くミエリン鞘の形成)に異常が見られ、生後の運動失調を引き起こしたことが示唆されました。また、神経幹細胞の培養実験から、このマウスの神経細胞では、ガングリオシドが欠損したために増殖シグナルが伝わらないことがわかりました。本研究成果から、ガングリオシド群が脳の形成に必須であることが明らかになりました。
図:(A)セラミドからガングリオシド群が生合成される経路。(B)後肢に運動機能障害を生じたガングリオシド欠損マウス(生後25日齢)。(C)野生型マウスとガングリオシド欠損マウスの脊髄の電子顕微鏡写真。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1007545
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/234098
Toru Yoshihara, Hiroyuki Satake, Toshikazu Nishie, Nozomu Okino, Toshihisa Hatta, Hiroki Otani, Chie Naruse, Hiroshi Suzuki, Kazushi Sugihara, Eikichi Kamimura, Noriyo Tokuda, Keiko Furukawa, Koichi Fururkawa, Makoto Ito, Masahide Asano (2018). Lactosylceramide synthases encoded by B4galt5 and 6 genes are pivotal for neuronal generation and myelin formation in mice. PLOS Genetics, 14(8):e1007545.