2024-11-22 京都大学
再発難治性の造血器腫瘍疾患(悪性リンパ腫・急性白血病・多発性骨髄腫)に対する革新的な治療としてキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法が登場し、全国におけるCAR-T細胞療法の治療施設は増えてきています。CAR-T細胞療法の適応となる患者さんは長期にわたる治療歴のために身体機能が低下していることに加えて、CAR-T細胞療法後早期に生じる特有の合併症の影響によってさらに身体機能が低下する可能性が指摘されています。そのため、移植治療と同様、CAR-T細胞療法においてもリハビリテーションの必要性が示唆されていますが、これまでのところ実臨床におけるCAR-T細胞療法患者さんの治療前後の身体機能の変化や身体機能の低下に影響を及ぼすリスク因子は同定されていませんでした。
濱田涼太 医学部附属病院理学療法士、新井康之 同講師(細胞療法センター副センター長)、髙折晃史 同教授(病院長)、池口良輔 同教授らの研究グループは、同院で実施されたCAR-T細胞療法患者さん77人のデータから、治療期間中の身体機能の変化を運動耐容能の指標である6分間歩行距離を用いて評価し、低下に影響を及ぼすリスク因子の解析を行いました。その結果、リハビリテーションを導入することで、治療前から治療後にかけて6分間歩行距離の低下を抑制できることが明らかになりました。また、CAR-T細胞療法後の特有の合併症であるサイトカイン放出症候群(中等症以上)や免疫細胞関連神経毒性症候群、血球減少(貧血)が治療期間中の運動耐容能を低下させるリスク因子であることを明らかにしました。本結果は、CAR-T細胞療法早期よりリハビリテーションを導入することが重要であることを示唆するとともに、とりわけ身体機能の変化に注意すべき患者群が抽出できたことを意味します。これらの成果は、今後、本療法の質の改善に寄与すると考えられます。
本研究成果は、2024年11月4日に、国際学術誌「eJHaem」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「CAR-T細胞療法は難治性の血液疾患に対する有効な治療法であり、全国において治療施設は増加しています。これまでCAR-T細胞療法の治療期間中にリハビリテーションを導入することの必要性が主張されておりましたが、身体機能の変化を含めたリハビリテーションに関する報告はありませんでした。本研究の結果から、治療期間中にリハビリテーションを導入された患者さんは運動耐容能の低下が抑制されることが明らかになりました。さらに、運動耐容能の側面から評価した場合のCAR-T細胞療法の侵襲性や治療期間中の運動耐容能の低下に影響を及ぼすリスク因子も明らかにすることができました。本研究がCAR-T細胞療法領域のリハビリテーションの発展やエビデンス構築につながることを期待しています。」(濱田涼太、新井康之)
詳しい研究内容について
CAR-T細胞療法の質改善に向けリハビリテーションが果たす役割を発見―リアルワールドデータを用いた運動耐容能低下に影響を及ぼすリスク因子解析―
研究者情報
研究者名:濱田 涼太
研究者名:新井 康之
研究者名:髙折 晃史
研究者名:池口 良輔
書誌情報
【DOI】
https://doi.org/10.1002/jha2.1043
【書誌情報】
Ryota Hamada, Yasuyuki Arai, Toshio Kitawaki, Naokazu Nakamura, Masanobu Murao, Michiko Matsushita, Junsuke Miyasaka, Tsugumi Asano, Tomoyasu Jo, Momoko Nishikori, Junya Kanda, Chisaki Mizumoto, Kouhei Yamashita, Ryosuke Ikeguchi, Akifumi Takaori-Kondo (2024). Fluctuation of physical function during chimeric antigen receptor T-cell therapy during rehabilitation intervention: Real-world data and risk factor analyses. eJHaem.