2025-01-24 東北大学
大学院理学研究科 化学専攻
准教授 佐藤 雄介(さとう ゆうすけ)
【発表のポイント】
- 脂質膜を持つウイルス(エンベロープウイルス)の粒子構造に選択的に結合する蛍光プローブ(注1)を開発しました。
- ウイルス粒子を直接検出することで、ウイルスの感染力を簡便かつ迅速な評価が可能となります。
- ウイルス検体の感染力評価技術として感染症拡大抑制対策にも有用です。
【概要】
新型コロナウイルスを含めて、ここ10年程の間に世界的に大流行したウイルス感染症のほとんどは、脂質膜を持つウイルス(エンベロープウイルス)によるものです。ウイルスによる感染症拡大抑制対策にはウイルス解析技術が必要不可欠であり、一般にはウイルス粒子内に含まれるタンパク質を計測する抗体法ならびにゲノム(核酸)を計測するPCR法が用いられています。一方、これらはいずれもウイルス粒子構造を破壊後に解析する手法であるため、そのままでは、ウイルス粒子の機能(たとえば感染力など)を評価することは困難です。
今回、東北大学大学院理学研究科の佐藤雄介准教授と西澤精一教授の研究グループは名古屋大学大学院医学系研究科の佐藤好隆准教授、東北大学大学院医工学研究科の永富良一教授らとの共同研究により、エンベロープウイルス粒子の脂質膜に結合し蛍光応答を示す分子プローブ(M2-NR)の開発に成功しました。M2-NRはウイルス粒子構造の特徴である高曲率性脂質膜表面の脂質パッキング欠損(注2)に結合して蛍光応答を示すため、プローブの応答に基づいてウイルス感染力を簡便かつ迅速に評価することができます。M2-NRはヒト風邪コロナウイルス(HCoV-229E)、A型インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルスなど様々な種類のエンベロープウイルス解析・感染力評価に適用できます。
本研究成果は、2025年1月22日(米国東部時間)にアメリカ化学会(ACS)の「Analytical Chemistry」誌に掲載されました。
図1. エンベロープウイルスの脂質膜にある脂質パッキング欠損に結合するAHペプチド型蛍光プローブを用いたエンベロープウイルス蛍光検出
【用語解説】
注1. 蛍光プローブ:特定の分子や構造と反応すると、蛍光の強度や色調が変化する機能性分子の総称。
注2. 脂質パッキング欠損:直径が100 nm程度の脂質小胞において、高い膜曲率のため膜を構成する脂質分子の整列(パッキング)が乱れた局所的な構造。
【論文情報】
タイトル:Viral Membrane-Targeting Amphipathic Helical Peptide-Based Fluorogenic Probes for the Analysis of Infectious Titers of Enveloped Viruses
著者:Yusuke Sato, Yusaku Hatanaka, Yoshitaka Sato, Kota Matsumoto, Shion Osana, Ryoichi Nagatomi, Seiichi Nishizawa
*責任著者:東北大学大学院理学研究科 准教授 佐藤雄介・東北大学大学院理学研究科 教授 西澤精一
掲載誌:Analytical Chemistry
DOI:10.1021/acs.analchem.4c04852
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科化学専攻
准教授 佐藤 雄介(さとう ゆうすけ)
東北大学大学院医工学研究科
特任教授 永富 良一(ながとみ りょういち)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
東北大学大学院医工学研究科
広報担当