2018-01-07 国立遺伝学研究所 哺乳動物遺伝研究室・城石研究室 系統情報研究室・川本研究室
このたび、国立遺伝学研究所(遺伝研)が運営・公開しているマウスゲノム多型情報データベースNIG_MoG(National Institute of Genetics_Mouse Genome Database)に、新たに8種類の野生由来マウス近交系統のリシーケンス情報を追加し、実験動物「マウス」の成立にかかわったと考えられている4つの亜種全てのゲノム配列情報を含む新しいバージョン「NIG_MoG2」として公開することになりました。
基礎医学・生物学研究に大きな貢献をしている実験用マウスの成立には、世界中に分布する複数の亜種が関与しています(図1)。これまでのゲノム解析研究などにより、西欧に分布するドメスティカス、東ヨーロッパから極東地域まで広く分布するムスクルス、揚子江以南の東南アジアに分布するキャスタネウス、さらには日本に分布するムスクルスとキャスタネウスの雑種であるモロシヌスなどの亜種が深く関わっていることがわかっています。
遺伝研は、1970年代から森脇和郎博士を中心としたグループにより、世界各地で捕獲された4亜種に属する野生マウスから近交系統を樹立してきました。特に、現在も生体で維持している10系統については「ミシマバッテリー」と呼ばれ、ヒトをはじめとした哺乳動物の「個性」に関わる「体質」や「気質」、さらには疾患発症に関わる遺伝子の探索研究に広く利用されています。例えば、「ミシマバッテリー」の中でも、モロシヌス亜種由来のMSM/Ms(MSM)系統は、世界で多用される近交系C57BL/6J(B6)との交配によりコンソミック(染色体置換)系統群が樹立され、個性や疾患に関わる遺伝子の探索研究を行うためのリソースとして、遺伝研から研究コミュニティに提供され、様々な研究活動に貢献しています。また、MSMと同様にモロシヌス亜種に属する愛玩マウス由来のJF1/Ms(JF1)系統は、全ゲノム配列解析から、その祖先が複数の基準的な実験用マウス系統の成立に直接的に寄与し、それらの表現型に大きくかかわっていると考えられています。MSMおよびJF1は、これ以外にも、豊富なゲノム多型情報を利用して、エピジェネティック研究などで利用されています。
今回改訂されたNIG_MoG2(図2)には、「ミシマバッテリー」10系統全てのゲノム情報が含まれるとともに、MSMについては、新たなデータの追加により、以前より高精度な多型情報を取得することが可能になっています。また、NIG_MoGに引き続き、“実験生物学者 (wet-lab biologists)”が直感的に使用できるように設計されています。ユーザーは、必要に応じて1塩基から数メガベースに渡るゲノム領域の亜種間ゲノム多型を簡単に観察することができます。個々の遺伝子についても、エクソンやアミノ酸配列、およびイントロンについて相互比較を行うことができ、任意の塩基配列も検索・取得可能です。これら以外にも、マウス亜種間ゲノム多型情報を利用した機能ゲノム研究を効果的に行うための情報やツールが拡充され、実験動物マウスを利用した各種の研究に欠かせないゲノム多型情報が一層効果的に探索できるようになりました。
このデータベースの構築と公開は、遺伝研の生物遺伝資源事業の一環として推進しています。なお、ミシマバッテリーのゲノム解析は、遺伝研の比較ゲノム解析研究室の豊田 敦博士、藤山秋佐夫博士(現情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設長)、および先端ゲノミクス推進センターの福多賢太郎博士、野口英樹博士と共同で実施しました。また、このデータベースの構築と公開は、遺伝研の哺乳動物遺伝研究室(高田豊行、城石俊彦)および系統情報研究室(川本祥子博士)の共同事業です。
このデータベースについての質問やリクエストは下記にご連絡ください。
- 情報・システム研究機構国立遺伝学研究所
哺乳動物遺伝研究室 - 高田豊行 城石俊彦
図1. 国立遺伝学研究所で樹立された10種類のマウス近交系統「ミシマバッテリー」(系統名は太字で表示)。
図2. NIG_MoG2のトップページ(http://molossinus.lab.nig.ac.jp/mog2)。
マウス各系統の写真と解説はデータベースをご覧ください。