鋭敏な視覚と優れた深視力をもった手術用4K―3Dビデオ顕微鏡の開発

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安心・安全な新しい手術スタイルの提唱

2019-07-22 京都大学,日本医療研究開発機構

概要

 京都大学大学院医学研究科 八木真太郎 講師、上本伸二 同教授、慶応義塾大学 小林英司 教授らは、三鷹光器株式会社、パナソニック(株)コネクティッドソリューションズ社との共同研究で、「手術用の高精細(4K)3Dビデオ蛍光顕微鏡」を開発しました。

 従来の顕微鏡を使った手術では、レンズを長時間にわたって覗かなければならず、首や腕のしびれの原因となっていました。また、助手が術者と同じ視野を共有できず、技術伝承の妨げにもなっていました。今回開発した装置は高性能レンズを搭載し、手術部位を遠方からのズームにより双眼3Dの4Kモニター上に映し出す仕様です。従来の顕微鏡では高倍率時の焦点深度が浅くなりピントが合いにくいという問題がありましたが、本装置はこの現象を防ぐ画期的なものとなりました(優れた深視力)。また、術者と助手が同一モニターを見ながら楽な姿勢で手術ができ、倍率を速やかに調整できるため(鋭敏な視覚)、様々な領域の手術に対応可能であることに加え、教育にも有用です。更に血液の流れや腫瘍(がん)を蛍光画像としてリアルタイムにモニターに重ねて表示することもできるため、腫瘍の位置や手術の出来具合を確認しながら、より安全に手術を行うことができます。

 この研究はAMEDの医工連携事業化推進事業の「安全なマイクロサージェリーを提供する小型3Dビデオ蛍光顕微鏡の事業化・海外展開」の支援を受けました。今後は2019年中に医療機器として届出を行い、発売した製品の量産化を準備して、2020年以降に国内での販売を強化していく予定です。

背景

 脳神経外科、形成外科、耳鼻科、眼科、移植外科などでは細かい血管や臓器や組織に対する手術のために手術用顕微鏡を用いていますが、手術を行う術者はレンズを長時間にわたって覗く姿勢を強いられ、首や腕のしびれの原因となり手術の質を低下させていることがあります。また顕微鏡手術では術者が見ているものと全く同じ視野を助手や見学者が共有することができないので、技術を伝承するのに妨げとなっているという現状があります。そこで外科医にも患者にも優しく安全な手術用顕微鏡の開発を目指し、AMEDの医工連携事業化推進事業の支援を受け、京都大学、慶應義塾大学、三鷹光器株式会社、パナソニック(株)コネクティッドソリューションズ社との共同研究で「手術用の高精細(4K)3Dビデオ蛍光顕微鏡」の開発を企図いたしました。

研究手法・成果

 今回開発した手術用の高精細(4K)3Dビデオ蛍光顕微鏡は、遠方からズームをかけることにより、高倍率で双眼による3Dの4K画像をモニター上に映し出す仕様としました。そして、4Kビデオカメラの対物レンズの双眼の間隔を35㎜として、手術部位から1m近い高さにまでにあげて使用することで、

(1)ズームイン−ズームアウトにより、肉眼から顕微鏡の強拡大視野までを、シームレスに3Dモニターに表示することができます(鋭敏な視覚)。

(2)手術部位とレンズの間隔が約1mと離れているため、従来のビデオ顕微鏡では作れないワーキングスペースを作ることができました。そのため、術者と助手が手術している部位を同一画面で見ながら相互操作することができ、教育効果の向上にも貢献します。

(3)被写界深度と解像度を両立させるため、三鷹光器の独自の光学レンズとパナソニックの4Kカメラを組み合わせることで、深視力と微細表現力を達成しました(優れた深視力)。

被写界深度と解像度の両立

深度±5mm

従来型顕微鏡では実現困難な、離れた位置からの焦点深度±5mmを実現

9-0と12-0縫合糸12-0縫合糸(太さ1/100mm以下、毛髪の約1/10)もはっきり見える解像度

(4) 術者が頭を上げた状態で楽な姿勢で手術を行い、レンズの倍率を速やかに調整することができるため、手術で使用するにあたっては、弱拡大から強拡大の視野までスムーズに対応することができます。そのため、今まで顕微鏡で拡大する必要のあった手術は勿論のこと、外科用ルーペを用いて行なっていた弱拡大が必要な手術まで、様々な領域の手術に対応可能です。

(5) さらにこの装置では、組織や血管内の血液の流れや腫瘍(がん)を蛍光画像として3Dモニターにリアルタイムに重ねて表示することができるため、腫瘍の位置や手術の出来具合を確認しながら安全に手術を行うことができます。

波及効果、今後の予定

 今回開発した装置は、従来の顕微鏡では高倍率時の焦点深度が浅くなるという欠点を改善しました。そして、視野を直接見るために首を傾けて使う外科ルーペの代わりに本装置を使用することにより、手術時の外科医の身体的負担を軽減することができます。また、同一のモニターによって皆で手術操作を確認することができるため、外科技術の伝承・教育に有用です。さらに、血流や腫瘍の正確な位置を確認しながら手術を行うことができるため、外科手術自体の安全性の向上に貢献することが期待されます。

 今後は2019年に医療機器として届出・上市した製品の量産化を準備し、2020年以降に国内での販売を強化していく予定です。海外においては2021年米国市場で2022年には中国市場で上市する予定であり、この新型顕微鏡を用いた新しい手術法の、世界への普及を目指す予定です。

研究プロジェクトについて

 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医工連携事業化推進事業の「安全なマイクロサージェリーを提供する小型3Dビデオ蛍光顕微鏡の事業化・海外展開」の支援を受けました。

お問い合わせ先
開発に関するお問い合わせ先

八木 真太郎(やぎ しんたろう)

京都大学大学院医学研究科 肝胆膵・移植外科 講師

報道に関するお問い合わせ先

京都大学総務部広報課 国際広報室

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

産学連携部医療機器研究課

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