シャム猫のような体色パターンをもつマントヒヒの遺伝子変異を同定

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メラニン合成を担う酵素の遺伝子が変化

2020-03-17 京都大学

古賀章彦 霊長類研究所教授、久川智恵美 わんぱーくこうちアニマルランド飼育係長、吉澤未来 同園長の研究グループは、シャム猫のような独特な体色に変化したマントヒヒについて、色素合成に関わる遺伝子に生じている変化を同定しました。

わんぱーくこうちアニマルランド(高知県高知市)で1994年に誕生したマントヒヒ「シーマ」は、誕生時点では身体全体が真っ白でしたが、2歳頃から部分的に色が着きはじめ、大人になった現在では、シャム猫のように手足の先と尾が灰色で、顔にも少し着色があります。シャム猫の体色は、メラニン合成を担う酵素チロシナーゼを作る遺伝子の変異が原因です。そのため、本研究グループは、シーマのチロシナーゼ遺伝子の塩基配列を解析し、通常の体色を持つマントヒヒと比較しました。

その結果、シーマはチロシナーゼ遺伝子に変異があり、そのためチロシナーゼの365番目のアミノ酸が、アラニンからトレオニンに変化していることが分かりました。チロシナーゼ遺伝子の363番目と367番目は酵素の機能にとって重要な場所であるため、この365番目の変異がシーマの独特な体色の原因になっていると考えられます。

本研究成果は、2020年2月13日に、国際学術誌「Genome」にオンライン版に掲載されました。

シャム猫のような体色パターンをもつマントヒヒの遺伝子変異を同定

図:シャム猫(左上)のような体色に変化したマントヒヒの「シーマ」(シーマの写真:古賀章彦)

詳しい研究内容について

シャム猫のような体色パターンをもつマントヒヒの遺伝子変異を同定
―メラニン合成を担う酵素の遺伝子が変化―

概要
京都大学霊長類研究所 古賀章彦 教授、わんぱーくこうちアニマルランド 久川智恵美 飼育係長、吉澤未来 同園長の研究グループは、シャム猫のような独特な体色に変化したマントヒヒについて、色素合成に関わる遺伝子に生じている変化を同定しました。
わんぱーくこうち(高知県高知市)で 1994 年に誕生したマントヒヒ「シーマ」は、誕生時点では身体全体が真っ白でしたが、2 歳頃から部分的に色が着きはじめ、大人になった現在では、シャム猫のように手足の先と尾が灰色で、顔にも少し着色があります。シャム猫の体色は、メラニン合成を担う酵素チロシナーゼを作る遺伝子の変異が原因です。そのため、本研究グループは、シーマのチロシナーゼ遺伝子の塩基配列を解析し、通常の体色を持つマントヒヒと比較しました。その結果、シーマはチロシナーゼ遺伝子に変異があり、そのためチロシナーゼの 365 番目のアミノ酸が、アラニンからトレオニンに変化していることが分かりました。チロシナーゼ遺伝子の 363 番目と 367 番目は酵素の機能にとって重要な場所であるため、この 365 番目の変異がシーマの独特な体色の原因になっていると考えられます。
本研究成果は、2020 年 2 月 13 日にカナダの国際学術誌「 Genome」に暫定版がオンラインで公開されました。4月発行の紙のジャーナルに、完成版が掲載される予定です。

シャム猫(左上)のような体色に変化したマントヒヒの「シーマ」(シーマの写真:古賀教授提供)

1. 研究の内容
背景  わんぱーくこうち(高知市)で、1994 年に体が真っ白のオスのマントヒヒが生まれました(参考図の A, B, C)。名前はシーマ。2歳頃から部分的に色が着き始め、大人になった現在、手足の先としっぽが灰色で、顔にも着色が少しあります(D, F)。
この体色パターンは、シャム猫に似ています。シャム猫では、メラニン合成を担う酵素チロシナーゼの遺伝子が変化していて、温度が低いと酵素活性が上がります。そのため、手足の先、しっぽ、鼻先など、突き出して温度が低い部分でメラニンが多く作られ、あのような体色を呈します。
手法  体色がシャム猫に似ているため、シーマの体色の原因もチロシナーゼ遺伝子であろうと予測しました。
そこで、その糞から抽出した DNA を PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)を用いて増幅し、チロシナーゼ遺伝子の主要部の塩基配列を調べました。比較対象として、1997 年に愛媛県立とべ動物園(愛媛県砥部町)で生まれたメスのマントヒヒ「ポン」について、同様に糞から抽出した DNA を調べました。ポンは通常のマントヒヒの体色です。
結果  シーマとポンではチロシナーゼ遺伝子の塩基配列に違いがあることが分かりました。その違いのため、チロシナーゼの 365 番目のアミノ酸が、ポンではアラニンであるところ、シーマではトレオニンになっています。
解釈  チロシナーゼの 363 番目と 367 番目は、酵素の機能にとって特に重要な場所です。シーマでの変化は、その間の 365 番目で、酵素の機能を損ねることなく微妙な影響を与えると考えられます。この変化は、独特な体色の原因のきわめて有力な候補です。
意義  もし、ヒトで 365 番目が変化したとしても、ヒトでは温度の影響を見逃してしまう可能性があります。ヒトは、しっぽはないうえに、体毛は少なく、手足の先や顔面は、とくに体毛の少ない場所です。しっぽがあり体毛も豊富なサルであったからこそ、シーマのような独特の体色パターンが正確に把握できたといえます。

2. 研究プロジェクトについて
本研究は、古賀章彦( 京都大学 霊長類研究所 教授)、久川智恵美( わんぱーくこうちアニマルランド 飼育係長)、吉澤未来(同 園長)の3名での共同研究です。研究資金は主に科学研究費補助金(19H03311,
18K19362)の支援を受けました。

<研究者のコメント>
体色は、絶え間なく生存競争を続ける生物にとって、重要な要素。たとえばシロクマは、真っ白だからこそ、白い世界の極地に進出できた。感知されずに獲物に近づける(定説ではなく私見です)。シーマのシャム猫パターンも、環境が変われば、何か有利な点が出るのかもしれない。これを引き続き考えています( よいアイデアがあればご一報を)。

<論文発表>
タイトル: Baboon bearing resemblance in pigmentation pattern to Siamese cat carries a missense mutation in the tyrosinase gene(体色がシャム猫に類似するマントヒヒでチロシナーゼ遺伝子にアミノ酸を換える変異がある)
著 者:Akihiko Koga, Chiemi Hisakawa, Miki Yoshizawa
掲 載 誌:Genome DOI:https://doi.org/10.1139/gen-2020-0003(暫定版です)

<参考図表>
図:シーマ(シャム猫パターン)とポン(標準的なマントヒヒ)

A-C. 赤ちゃんシーマ
D. 大人のシーマの全身
E. ポンの全身
F. シーマの顔
G. ポンの顔

 

細胞遺伝子工学生物化学工学
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