葉序の規則的パターン形成において新規拡散性因子の存在を予測

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オーキシンとPIN1の相互制御モデルによるシミュレーション

2018-04-04 基礎生物学研究所

生物は時として驚くほど美しく秩序だった空間構造を作り出すことがあります。その代表的な例として植物の葉序が挙げられます。葉序は茎の周りの規則性を持った葉の配置様式のことであり、美しい幾何学的模様を生み出すことが広く知られています。この規則的パターンは、植物ホルモンのオーキシンとその膜輸送タンパク質PIN1がお互いに制御し合うことにより形成されることが明らかにされています。しかしながら、その制御機構の多くの部分は未だ解明されていません。今回、基礎生物学研究所共生システム研究部門の藤田浩徳助教と川口正代司教授は、オーキシンとPIN1輸送体の相互制御に基づいたシミュレーションをコンピュータ上で行うことにより、今までのモデルでは想定されていなかった細胞外領域の存在が、規則的パターンに対して破滅的な影響を与える一方で、そのような条件下においても拡散性分子を仮定することによって規則的パターンが再現できることを明らかにしました。同時に、オーキシンはPIN1輸送体を直接的に制御するのではなく、この拡散性分子を介して間接的に制御する必要があることも予測しました。これらの結果は、他の多様な生命現象に見られる自己組織的パターンと同様に、葉序パターン形成においても拡散性分子が中心的な役割を果たしていることを予測するものです。研究グループの藤田助教は「生命現象における分子制御機構の研究において、数理的解析が未知の分子機構の存在を解き明かす強力な手段になりうることを示す良い例になると思います。また、将来的に植物界における葉序の多様性の分子的理解のみならず、葉序パターンを制御・改変することによる新規の形態を持った鑑賞用品種の作出などの応用につながるものと期待されます」と語っています。本研究成果は、2018年4月3日(米国東部時間)にPLOS Computational Biology誌に掲載されました。

【研究の背景】
葉序は茎の周りの規則性を持った葉の配置様式のことであり、秩序だった幾何学的模様を生み出すことで有名です(図1)。この規則的パターンは、茎頂に位置する分裂組織において葉の原基がお互いに一定の間隔を保ちつつ生み出されることにより、形成されます。この過程において、植物ホルモンであるオーキシンと、細胞膜に局在しオーキシンを細胞の内から外に汲み出すポンプの役割を果たしている輸送体PIN1とが協調して働いていることが知られています。つまり、葉原基の生成予定場所にオーキシンが高濃度集積する一方で、PIN1はその中心に向かって配向するのが観察されています。この観察結果から、オーキシンとPIN1とがお互いに制御し合うことにより、葉序の規則的パターンが形成されるという仮説が提唱されています。そして、この仮説を組み込んだ単純な数理モデル(図2 モデルO)により葉序パターンがうまく再現できることから、この仮説は現在広く受け入れられています。しかしその一方で、この数理モデルは極端に単純化されたものであり、実際の植物細胞の特徴や組織を必ずしも反映しているとは言えません。例えば、モデルOではオーキシンは細胞間を直接的に移動しますが、実際は細胞と細胞の間には細胞外領域が存在しており、オーキシンはこの領域を介して移動します。この細胞間領域には通常厚さ0.1〜数µmの(一次)細胞壁が存在しており、細胞同士はこの細胞壁により完全に隔てられていてお互いが接することはありません。さらにモデルではPIN1は隣の細胞のオーキシン濃度が高い方に向かって配向しますが、どのようにして個々の細胞が空間的に離れている細胞のオーキシン濃度情報を感知しているのかについては、全くわかっていません。
葉序の規則的パターン形成において新規拡散性因子の存在を予測
図1. 葉序パターンの形成機構。
茎頂分裂組織において、オーキシンとPIN1が相互的に制御し合うことにより、オーキシンの高濃度の集積スポットが等間隔に形成されてくる。このオーキシンの集積スポットが葉の原基へと分化することにより、葉序パターンが形成される。
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【研究の成果】
本研究グループは、植物のより実際的な細胞環境を反映させるために、細胞外領域を組み込んだ数理モデルを構築しました。そして理論的解析およびシミュレーションをおこなうことにより、細胞外領域の存在が葉序の規則的パターンを完全に崩壊させてしまうという予想外の事実を発見しました(図2 モデルA)。この発見は、葉序形成にはオーキシンとPIN1の相互制御だけでは十分ではなく、それに加えて未知の分子機構が存在することを示唆しています。
一般に自己組織的なパターン形成において、拡散性分子が中心的な役割を果たしていることが知られています。そこで予測された未知の分子機構を明らかにするために、拡散性分子に着目しました。すなわち仮想的な拡散性分子(X)をモデルに導入し、オーキシンやPIN1との間に様々な制御関係を仮定して、それらの葉序パターンに対する影響をコンピュータ上でシミュレーションを行なうことにより網羅的に検証しました。その結果、オーキシンがPIN1を直接的に制御するのではなく、拡散性分子を介して間接的に制御することによって、規則的パターンが回復できることを明らかにしました(図2 モデルB)。
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図2. 葉序パターン形成におけるオーキシンとPIN1の相互制御モデル。
従来の仮説は、非常に簡略化されたものであるものの、葉序の規則的パターンをうまく再現することができる(モデルO)。しかしより実際的な細胞環境(細胞外領域)を反映させることにより、逆に規則的パターンは完全に崩壊してしまう(モデルA)。しかし拡散性分子を新たに導入することにより、規則的パターンを回復させることができる(モデルB)。
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今回予測された拡散性分子はオーキシン濃度情報を細胞間で伝達する役割を果たしており、したがって葉序パターン形成において鍵になる分子と考えられます。さらには、他の多くの自己組織的パターンと同様に、葉序パターン形成においても拡散性分子が中心的な役割を果たしていることを示唆するものです。これらの成果は、ほとんど明らかにされていなかった葉序形成の制御機構に対する分子的理解に重要な示唆を与えるものです。

【今後の展望】
本研究では、葉序形成において拡散性分子の存在を数理的に予測しました。この分子は葉序形成において鍵になる因子であると考えられるものの、その分子的実体は明らかではなく、今後の重要な課題として残っています。この分子が同定されることにより、葉序形成の研究は飛躍的に前進することが期待されます。さらに今回の成果は葉序の多様性の分子的理解のみならず、将来的に葉序パターンを制御し改変することにより、新規の形態を持った鑑賞用品種の作出などの応用につながることが期待されます。

【発表雑誌】
雑誌名 PLOS Computational Biology
掲載日 2018年4月3日
論文タイトル: Spatial regularity control of phyllotaxis pattern generated by the mutual interaction between auxin and PIN1
著者:Hironori Fujita and Masayoshi Kawaguchi
DOI: 10.1371/journal.pcbi.1006065

【研究サポート】
本研究は新学術領域研究「植物発生ロジック」(26113521)の支援を受けて行われました。

【本研究に関するお問い合わせ先】
基礎生物学研究所 共生システム研究部門
助教 藤田 浩徳(ふじた ひろのり)

【報道担当】
基礎生物学研究所 広報室

生物化学工学
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