2020-08-07 東京大学,科学技術振興機構
ポイント
- 医薬品資源として重要なテルペノイド化合物の生合成に関わるテルペン環化酵素の機能解析を行い、本酵素がこれまでに見いだされていなかった芳香環プレニル基転移活性をも併せ持つことを発見しました。
- さまざまな生物種由来のテルペン環化酵素が同様に芳香環プレニル基転移活性を併せ持つことを確認し、見いだされた新奇な触媒機能が生物種の垣根を超えて一般的であることを証明しました。
- 今後さらに精査を重ねることで、自然環境下において酵素触媒反応がどのように収斂されてきたか、その分子進化プロセスの解明へとつながることが期待されます。
テルペノイド化合物は、自然界において最大とも言われる構造多様性を有する天然物の一群です。生物活性を持つ化合物が数多く含まれることから、薬学の観点からも非常に重要とされている化合物群の1つです。その構造多様性は主にテルペン環化酵素によってもたらされ、酵素の環化様式の違いにより基本炭素骨格の多様性が構築されます。
今回、東京大学 大学院薬学系研究科の阿部 郁朗 教授と森 貴裕 助教、博士課程3年の何 海兵 大学院生、および、武漢大学のTiangang Liu 教授、ペンシルバニア大学のDavid W.Christianson 教授らの共同研究グループは、カビ由来テルペン環化酵素の精密機能解析を行い、本酵素がこれまでに知られていなかった芳香環プレニル基転移活性をも併せ持つことを、世界に先駆けて見いだすことに成功しました。さらに、他の微生物や植物由来のテルペン環化酵素が、同様に芳香環プレニル基転移活性を併せ持つことを確認し、この二重性機能が同属酵素に広く保存されていることを明らかにしました。この新奇な機能は、過剰に生産されたインドール基質などの毒性を低減するための防御機構の1つであるとも推測されます。共同研究グループは、機能解析を行った2種類のテルペン環化酵素の立体構造の詳細を解明し、それに基づき変異を導入することで酵素の活性部位に位置するアミノ酸残基の役割と重要性を明らかにしました。これにより、テルペン環化酵素における二重性機能の酵素反応の分子基盤を解明し、生体内防御機構との関連を提唱しました。本成果により、これまでに多くの研究が行われてきたテルペン環化酵素が、いまだ秘められた新たな触媒機能をも併せ持っていたことが判明し、生体内酵素反応がどのように収斂されてきたか、その分子進化プロセスの解明につながることが期待されます。また、さまざまな酵素についても今後同様に触媒反応を詳細に精査することで、これまでに見つかっていない新奇な触媒機能の発見が期待されます。
本研究成果は、2020年8月7日(英国時間)に「Nature Communications」にオンライン掲載されます。
本研究は、文部科学省 科学研究費補助金(JP16H06443、JP18K19139、JP19K15703、JP20H00490)、新学術領域研究(研究領域提案型)「生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学(生合成リデザイン)」、科学技術振興機構(JST) 戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)日本-中国共同研究第2回生物遺伝資源分野~植物-微生物共生系、微生物叢の機能と制御に着目した基盤技術の創出(研究主幹:長谷部 光泰)~「植物共生菌相互作用の包括的利用による二次代謝産物の網羅的解析」の支援を受けて行われたものです。
<論文タイトル>
- “Discovery of the cryptic function of terpene cyclases as aromatic prenyltransferases”
- DOI:10.1038/s41467-020-17642-2
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
阿部 郁朗(アベ イクロウ)
東京大学 大学院薬学系研究科 薬科学専攻 教授
<JST事業に関すること>
佐藤 正樹(サトウ マサキ)
科学技術振興機構 国際部
<報道担当>
東京大学 薬学部 庶務チーム
科学技術振興機構 広報課