2021-04-06 筑波大学,科学技術振興機構
光は生命活動におけるエネルギー源や視覚の情報源として重要です。また、生物はサーカディアンリズム(体内時計)の調整などで、光を生命活動の入力情報としても利用しています。こうした光の役割や光刺激を伝達する仕組みは、多くの動物種を用いて明らかにされてきました。しかし、ヒトを含む脊索動物と姉妹群をなす棘皮動物では研究報告が少なく、動物界に存在する光応答の仕組みが進化の過程でどのように現れ、多様化してきたのかをきちんと論じることが難しい状況でした。
本研究では、棘皮動物における光の役割や光応答の仕組みを明らかにするため、モデル動物であるバフンウニを利用し、その幼生に光を照射してひたすら観察しました。幼生はほとんど透明で、消化管などの動きも外から直接確認することができます。観察の結果、ウニの幼生が光の刺激を受けると、胃の出口である幽門が開くことを発見しました。
ウニもヒトも、摂取した食物は消化の過程で口から胃、腸へと流れます。胃と腸の間にあるのが幽門です。幽門は胃に食物が入った段階では筋肉の働きで閉じていますが、消化が進むと開いて(開口して)、腸に食物が流れていきます。多くの動物の幽門開口はこのように、胃に含まれている食物の刺激によって制御されています。しかし、今回明らかになった光刺激によるウニの幽門開口は、食物を摂取する前から生じていました。これは光の機能の1つに消化管の制御があることを示しています。
本研究では、ウニ幼生で光の刺激がどのように伝わっているのかも実験的に調べました。その結果、ウニの脳が神経伝達物質のセロトニンを放出し、その刺激が幽門近傍の細胞に伝達されて一酸化窒素を放出する、という経路で開口が行われることが明らかになりました。
ヒトが精神的なストレスを受けると、お腹の調子が悪くなることがあるように、脳と腸は独立した器官でありながら、互いに影響を及ぼし合っています。これを脳腸相関と呼びます。ウニもヒトも動物界の後口動物に属します。今回の研究によって脳から腸への連絡が光刺激伝達の担い手になっていることが明らかにされたことから、脳腸相関の仕組みが、後口動物の共通祖先で存在していたことが強く示唆されました。今後、同じ後口動物であるヒトを含めた脊椎動物でも「光」によって脳腸相関が刺激される経路が見いだされるかもしれません。
本研究成果は2021年4月6日(英国時間)に「BMC Biology」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「多細胞システムにおける細胞間相互作用とそのダイナミクス」研究領域(JPMJPR194C;2019~2022年度)、東レ科学振興会が助成する東レ科学技術研究助成(2018~2020年度)、武田科学振興財団が助成するライフサイエンス研究奨励(2015年度)、日本学術振興会が助成する科学研究費若手(B)(16K18592;2016~2018年度)と特別研究員奨励費(17J00034;2017~2019年度)によって実施されました。
<論文タイトル>
- “Sea urchin larvae utilize light for regulating the pylorus opening.”
(ウニ幼生は幽門開口に光を利用している) - DOI:10.1186/s12915-021-00999-1
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
谷口 俊介(ヤグチ シュンスケ)
筑波大学 生命環境系(下田臨海実験センター) 准教授
<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
<報道担当>
筑波大学 広報室
科学技術振興機構 広報課