2022-03-18 岡山大学,科学技術振興機構
ポイント
- 性別(オス・メス)を持つ柿の花が、性別のない両性花へ先祖返りする仕組みを解明しました。
- 柿の両性花を生み出す新規遺伝子「DkRAD」を発見しました。
- 農業にとって重要な「作物の性別」を自由に制御する技術へと発展していくと期待されます。
「性別」は生物の多様性を維持するのに重要な仕組みです。植物の「性」は個体としてのオス・メスだけではなく、雄花、雌花、そして両者が共存した「両性花」などの状態を揺らがせて、多様な花の性別を表現しながら進化してきました。しかし、植物の性に関する研究は100年以上も続いているにも関わらず、その揺らぎを決めている仕組みは謎に包まれていました。岡山大学 学術研究院環境生命科学学域(農)赤木 剛士 研究教授は、これまで柿やキウイフルーツを材料として植物の性別の研究に取り組んでおり、世界に先駆けて植物個体のオス・メスを決定する遺伝子群やその進化の過程を解明してきました。このたび、増田 佳苗 大学院生(大学院環境生命科学研究科 博士後期課程3年)と、赤木 研究教授は性別を持つ柿の花が、祖先である両性花へ先祖返りする仕組みの解明と、その中心的な働きを担う新しい遺伝子「DkRAD」の発見に至りました。この遺伝子は、赤木 研究教授らの研究からすでに見つかっていた性別決定遺伝子「OGI」「MeGI」とは全く異なる遺伝子であり、野生の柿では機能せず、栽培されている柿でのみで働く遺伝子であることが明らかになりました。また、オス化したモデル植物に本研究で発見したDkRAD遺伝子を働かせることで、両性花への先祖返りを人工的に再現することに成功しました。これは、植物進化の中で繰り返されている「揺らぐ性別」の仕組みを解明したものであると同時に、作物の性別を自由に制御し、安定的生産や新しい育種を可能にする技術に発展していくと期待できます。
本研究成果は、日本時間2022年3月18日(英国時間:3月17日)、英国の科学雑誌「Nature Plants」に掲載されます。本研究は、岡山大学 資源植物科学研究所、農業・食品産業技術総合研究機構、京都大学 大学院農学研究科、カリフォルニア大学 デービス校との共同研究として行われました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「フィールドにおける植物の生命現象の制御に向けた次世代基盤技術の創出(研究総括:岡田 清孝)」における研究課題「カキ属をモデルとした環境応答性の性表現多様化機構の解明(JPMJPR15Q1)」(研究者:赤木 剛士、研究期間:2015年12月〜2019年3月)、さきがけ「植物分子の機能と制御(研究総括:西谷 和彦)」における研究課題「ゲノム・遺伝子倍化が駆動する植物分子の新機能の探索とデザイン(JPMJPR20D1)」(研究者:赤木 剛士、研究期間:2020年12月〜2024年3月)、新学術領域「植物新種誕生の原理」における「植物における性表現の揺らぎを成立させる進化機構(19H04862)」(研究者:赤木 剛士、研究期間:2019年4月~2021年3月)、新学術領域「非ゲノム情報複製機構」における「減数分裂におけるDNAメチル化の消去・維持機構の解明(20H05391)」(研究者:池田 陽子、研究期間:2020年4月~2022年3月)、岡山大学 資源植物科学研究所における共同利用・共同研究拠点事業(研究者:赤木 剛士・池田 陽子、研究期間:2020年4月~2022年3月)、日本学術振興会 特別研究員(DC1)制度における研究課題「ゲノム倍化が駆動するカキ属における性決定の可塑化(19J23361)」(研究者:増田 佳苗、研究期間:2019年4月~2022年3月)の支援を受けて実施しました。
<論文タイトル>
- “Reinvention of hermaphroditism via activation of a RADIALIS-like gene in hexaploid persimmon”
- DOI:10.1038/s41477-022-01107-z
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
赤木 剛士(アカギ タカシ)
岡山大学 大学院環境生命科学研究科 研究教授
<JST事業に関すること>
保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
<報道担当>
岡山大学 総務・企画部 広報課
科学技術振興機構 広報課