難治てんかん焦点の新しいバイオマーカー「発作時DC電位」~国内5施設の共同研究での世界初の成果~

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2022-09-05 京都大学

てんかんは、100人に1人(世界中に約5千万人の患者がいる)のあらゆる年代に起こる一般的な脳の病気です。てんかんは脳にある神経細胞やグリア細胞の異常によりてんかん発作を起こします。てんかんを持つ患者の身体面・心理面・社会面における直接的なてんかん発作の影響は、臨床現場での課題です。

脳内の特定のてんかん焦点から起こるてんかん発作に対して、抗発作薬の内服治療で発作が抑制されない場合、外科治療が有効な場合が多くあります。外科治療で発作を抑制できるかは、いかに正確にてんかん焦点を定められるかが重要です。池田昭夫 医学研究科教授、小林勝哉 同助教、中谷光良 同博士課程学生(現:順天堂大学)、前原健寿 東京医科歯科大学教授と、岩崎真樹 国立精神・神経医療研究センター部長らの共同研究グループは国内の主要てんかんセンター5施設の国内多施設共同研究として、61名の難治てんかん患者の脳内から直接記録した発作時脳波データを収集解析し、「発作時DC電位」という新しいバイオマーカーの脳波変化の領域を切除して発作消失・減少の程度との関係を検証しました。

本研究では特に、新しいバイオマーカーの脳波変化として、本学で長年研究されてきた「発作時DC電位」と呼ばれる非常にゆっくりした発作時脳波変動に注目しました。その結果、この「発作時DC電位」は、従前の脳波記録方法による発作起始部位より明確かつ早期から認め、さらに最近注目される超高周波の律動である「発作時HFO」よりも明らかに先行することを多施設の大規模データとして示しました。また、「発作時DC電位」の主要発生源の「中核領域」の外科切除が良好な発作抑制をもたらすことを明らかにしました。今後、従前の脳波活動に加えて、新しいバイオマーカーの「発作時DC電位」を解析することで、外科治療の成績向上につながると考えられます。また、これまでの基礎研究と病理研究では、「発作時DC電位」は脳内のアストロサイト群の異常が細胞外カリウム濃度のホメオスタシス機能の破綻を起こし発現することが報告されていてそれに合致し、今回の研究成果によりてんかんの病因・増悪機構や最適な治療法の解明が期待されます。

本研究成果は、2022年9月4日に、国際学術誌「Brain Communications」にオンライン掲載されました。

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図:てんかん「発作時DC電位」がみられる「中核領域」の外科切除が良好な発作抑制をもたらした

研究者のコメント

「本研究は国内5箇所の大学病院・てんかんセンターでの多施設共同研究として、61名のてんかん患者のてんかん発作時頭蓋内脳波を解析しました。特に、京都大学で長年研究されてきた「発作時DC電位」と呼ばれる非常にゆっくりした脳波変動に注目しました。過去の京都大学単施設での検討では、「発作時DC電位」の出現が「発作時HFO」に時間的に先行することを報告しておりましたが、今回多数例で「発作時DC電位」の高い出現率と発作時に最も早期に出現する脳活動であることを検証できて、今後のてんかん診療において非常に重要と考えております。また、傑出した「発作時DC電位」が出現する「中核領域」を外科治療で切除し良好な発作抑制結果につながることが明らかになり、手術で切除する必要がある範囲を決定するための新たな判断指標として活用していくことで、今後のてんかん外科治療のさらなる成績向上が期待されます。「発作時DC電位」はアストロサイトの機能異常を反映し、これに後続する神経細胞による速活動の「発作時HFO」とは出現部位が一部異なり、今後のてんかん病因や難治化機序の解明となると考えます。」(池田昭夫)

詳しい研究内容≫

研究者情報
研究者名:池田 昭夫
研究者名:小林 勝哉

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