2022-09-30 国立循環器病研究センター
奈良県立医科大学循環器内科学講座斎藤能彦名誉教授(現・奈良県西和医療センター)、国立循環器病研究センター情報利用促進部の金岡幸嗣朗上級研究員、岩永善高部長らのグループは、劇症型心筋炎の全国レジストリを構築し、劇症型心筋炎患者の患者背景と予後、予後と関連する臨床・病理学的特徴を明らかにしました。この研究成果は、2022年9月27日に国際学術誌「Circulation」にオンライン掲載されました。
■背景
心筋炎は、感染等を契機として、心筋に炎症をきたす疾患であり、症状が軽いものから血行動態の破綻をきたすものまで幅広い重症度を含む疾患です。劇症型心筋炎は、「血行動態の破綻を急激に来たし、致死的経過をとる急性心筋炎」と定義され、心筋炎の中でも予後が不良で、稀な疾患とされています。劇症型心筋炎は希少な疾患で、症例集積が困難であることから、これまでのところ、患者の特徴や予後に関する大規模な報告は乏しいのが現状でした。
■研究手法
本研究では、劇症型心筋炎患者を対象として悉皆性の高い大規模レジストリを構築し、疫学や予後関連因子について明らかにすることを目的としました。本疾患登録では、まず、日本循環器学会が主導している、日本全国の循環器診療を対象とした大規模データベースである、循環器疾患診療実態調査 (The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Disease: JROAD)を使用し、日本全国の循環器専門医研修施設・研修関連施設の中で、劇症型心筋炎患者が入院した施設を抽出しました。劇症型心筋炎の定義は、昇圧剤・機械的補助循環を要した心筋炎としました。患者が入院した施設に対して、症例別の診療情報の収集を依頼し、倫理委員会での承認後、各施設からカルテ情報及びDPC(診断群分類別包括評価)情報を収集することで世界最大のレジストリの構築に成功しました。
収集した情報を元に、病理学的に心筋炎と診断された患者を対象として、患者背景・予後を記述し、予後と関連する臨床情報について解析を行いました。また、中央施設で評価を行った心筋炎の病理画像における心筋組織障害の重症度と予後に関する関連について解析を行いました。
■成果
協力が得られた235施設から、344症例の病理学的に診断された劇症型心筋炎が登録、解析対象となりました。患者の年齢の中央値は54歳、40%が女性でした。90日時点での累積死亡率は29%でした(図1)。患者の臨床的特徴のうち、高齢、来院時の非洞調律、心機能低下(40%未満)、心室性不整脈が90日死亡と関連が認められました。心筋の病理組織が得られた215例を対象とした解析から、リンパ球性心筋炎において、障害を受けた心筋細胞の割合が多い症例で、死亡率の上昇との関連が認められました(図2)。
■今後の展望と課題
本研究では、これまで十分な検討がされていなかった、劇症型心筋炎の予後と、関連する因子に関する検討を行いました。本研究から得られた成果に基づいて、死亡率が高い劇症型心筋炎患者の予後予測に関して、より適切な情報提供が可能になると考えられます。今後は、現時点でも確立していない心筋炎の治療法や、心筋における炎症細胞浸潤の様式やその意義に関してさらなる検討を行っていく予定です。
■発表論文情報
著者: Koshiro Kanaoka, Kenji Onoue, Satoshi Terasaki, Tomoya Nakano, Michikazu Nakai, Yoko Sumita, Kinta Hatakeyama, Fumio Terasaki, Rika Kawakami, Yoshitaka Iwanaga, Yoshihiro Miyamoto, Yoshihiko Saito; on behalf of the Japanese Registry of Fulminant Myocarditis Investigators
題名: Features and Outcomes of Histologically-Proven Myocarditis with Fulminant Presentation
掲載誌: Circulation
■謝辞
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業JP21ek0109528(研究開発代表者:斎藤 能彦)、日本学術振興会科学研究費補助金JP20K08453(研究代表者:川上 利香)の一環で行われました。
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