体温を調節するマスター神経細胞を同定 ~体温・代謝の制御機構の全貌解明と新たな肥満治療技術の開発に可能性~

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2022-12-24 名古屋大学,順天堂大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 視索前野のEP3ニューロン群の活動が暑熱環境で高まり、発熱メディエーターによって抑制されることを見いだしました。
  • 視索前野のEP3ニューロン群は恒常的な抑制信号を出して体温を自在に調節する「マスター神経細胞」であることが分かりました。
  • この知見により、体温や代謝を制御する脳の神経回路の全貌解明が期待されるとともに、熱中症・低体温症の治療、手術時の体温管理、新たな肥満治療技術の開発など、幅広い医療分野への応用につながる可能性があります。

東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科 統合生理学分野の中村 佳子 講師、中村 和弘 教授らの研究グループは、順天堂大学 大学院医学研究科 脳回路形態学の日置 寛之 教授との共同研究により、脳の中で体温調節の司令塔として機能する神経細胞群をラットで同定しました。

人間など多くの哺乳類の体温は約37度に厳密に維持され、その調節がうまくいかなくなると、熱中症や低体温症のように体内のあらゆる調節機能が損なわれ、最悪の場合、死に至ります。したがって、体温を調節する基本メカニズムの解明は医学的に大きな意義を持ちます。しかし、体温調節中枢が脳の視床下部にある視索前野に存在することは知られていましたが、体温調節の司令を担う神経細胞群は不明でした。

同研究グループは、発熱メディエーターであるプロスタグランジンE2の受容体、EP3受容体を発現する視索前野の神経細胞群(EP3ニューロン群)に着目し、体温調節における機能を調べました。まず、ラットを暑熱(36度)に曝露(ばくろ)すると、視索前野のEP3ニューロン群が活性化することを見いだしました。一方、プロスタグランジンE2を作用させると活性化は抑制され、同時に体温上昇(発熱)が起こりました。さらに、視索前野のEP3ニューロン群から伸びる神経線維を可視化すると、交感神経の制御に関わる視床下部背内側部などへ神経伝達することが分かりました。視索前野から視床下部背内側部へ伸びたEP3ニューロン群の80,000個以上の神経終末の詳細な解析などから、その多くが抑制性の神経伝達物質であるGABA(ガンマアミノ酪酸)を放出することが分かりました。そして、視索前野のEP3ニューロン群を選択的に活性化すると、皮膚血管が拡張して積極的な熱放散が起こるとともに体温が低下しました。一方、視索前野から視床下部背内側部へ至るEP3ニューロン群の神経伝達を選択的に抑制すると、褐色脂肪組織において熱産生が起こり、体温が上昇しました。

これらの実験結果は、視索前野のEP3ニューロン群が交感神経系へ恒常的な抑制信号を送り、その抑制の強さを変化させることで体温を自在に調節する「マスター神経細胞」であることを示しています。本研究は、研究者らも参画しているムーンショット型研究開発事業・目標2の核である「臓器間ネットワークによる生体恒常性維持の分子・細胞メカニズムの解明」に挑戦する一環で行われたものであり、将来的に代謝・循環などを制御する神経回路メカニズムの全貌の解明へつながることが期待されます。また、脂肪代謝を促進する新たな肥満治療技術の開発や、脂肪代謝異常がリスク因子となる糖尿病などの疾患の発症前(未病期段階)での診断と予防技術の開発につながる可能性があります。

本研究成果は「Science Advances」(2022年12月23日付(現地時間)電子版)に掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) (ムーンショット型研究開発事業、さきがけ、創発的研究支援事業)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(新学術領域「温度生物学」、新学術領域「共感性」、若手研究(A、B)、基盤研究(B、C)、先端モデル動物支援プラットフォーム)、内閣府最先端・次世代研究開発支援プログラム、日本医療研究開発機構(AMED) (老化メカニズムの解明・制御プロジェクト、脳とこころの研究推進プログラム(領域横断的かつ萌芽的脳研究プロジェクト)、革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト)、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」、武田科学振興財団、中島記念国際交流財団、上原記念生命科学財団、小野医学研究財団、堀科学芸術振興財団、ブレインサイエンス振興財団、木下記念事業団、興和生命科学振興財団および加藤記念バイオサイエンス振興財団、名古屋大学 動物実験支援センター、Nagoya University Research Fundの支援を受けて行われました。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Prostaglandin EP3 receptor-expressing preoptic neurons bidirectionally control body temperature via tonic GABAergic signaling”
DOI:10.1126/sciadv.add5463
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
中村 和弘(ナカムラ カズヒロ)
名古屋大学 医学部・医学系研究科 統合生理学分野 教授

日置 寛之(ヒオキ ヒロユキ)
順天堂大学 大学院医学研究科 脳回路形態学 教授

<JST事業に関すること>
犬飼 孔(イヌカイ コウ)
科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業部

<報道担当>
名古屋大学 医学部・医学系研究科 総務課 総務係
順天堂大学 総務局 総務部 文書・広報課
科学技術振興機構 広報課

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