カミキリムシと酵母の共生関係を特定 ~酵母は特殊な器官で運ばれ、親から子へ受け継がれる~

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2023-03-23 国立遺伝学研究所

カミキリムシと酵母の共生関係を特定 ~酵母は特殊な器官で運ばれ、親から子へ受け継がれる~

Yeast associated with flower longicorn beetle Leptura ochraceofasciata (Cerambycidae: Lepturinae), with implication for its function in symbiosis
Mako Kishigami, Fumiaki Matsuoka, Akiteru Maeno, Shohei Yamagishi, Hisashi Abe, Wataru Toki
PLOS ONE (2023) 6, 172 DOI:10.1371/journal.pone.0282351

詳しい資料は≫

東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の岸上 真子 元大学院生、松岡 史晃 大学院生、土岐 和多瑠 講師の研究グループは、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の前野 哲輝 技術専門職員、森林研究・整備機構 森林総合研究所の山岸 松平 研究員、安部 久 室長との共同研究で、カミキリムシの一種ヨツスジハナカミキリは、特殊な器官を発達させて特定の酵母と共生すること、その酵母は餌である木材の成分を分解することを解明しました。

木材を食べる昆虫で、微生物との関係について分かっているものはごく一部に限られます。本研究では、日本の夏山で最もよく見られるヨツスジハナカミキリについて調べたところ、酵母と共生することが判明しました。メス成虫の産卵管に、チューブ状の袋があり、酵母Scheffersomyces insectosaが分離されました。メスの体をマイクロCTスキャンによって調べたところ、このチューブ状の袋は、体内で折れ曲がった状態で存在していました。幼虫の消化管には粒状の袋があり、同じ酵母が貯蔵され、卵からも同じ酵母が分離されました。酵母が木材の成分を分解できるかどうかを調べたところ、キシロースなどのほとんどの昆虫が自力で分解できない木材の成分を分解しました。

このことから、酵母は親から子へ産卵を通して受け継がれ、木材を食べる子の成長に大きく関わっているものと考えられます。

本研究は、科学研究費助成事業(18K14473, 20KK0349)、発酵研究所一般研究助成(G-2018-1-034)、国立遺伝学研究所共同研究「NIG-JOINT」(26A2022)の支援のもとでおこなわれたものです。

本研究成果は、2023年3月23日午前4時(日本時間)付アメリカ科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。

Figure1

図1: Scheffersomyces insectosa

遺伝研の貢献
ヨツスジハナカミキリの成虫メス標本についてマイクロフォーカスX線CT装置によるスキャンをおこないました。研究対象である共生器官「マイカンギア」は、膜質でチューブ状の構造のためCT装置で取得した断面画像上での特定が非常に難しい器官でしたが、段階的に解剖を進めながらより高解像度のCTデータを取得することで、断面画像上での「マイカンギア」の判別が可能となり、体内での「マイカンギア」の立体構造の解明に貢献しました。

Figure1

図2:(a),(b),(d),(e) 成虫メス個体のX線CT像。(c)通常個体を解剖して取り出した産卵管および周囲臓器の実体顕微鏡像。(b)は(a)の黄色破線部分を拡大してCTスキャンしたデータを腹側から見た冠状断面像。発達した胸部筋肉と楕円形の卵が多数確認できるが交尾器周辺部(赤四角線内)の構造については確認するのが難しい。(d)解剖により交尾器周辺部を取り出し高解像度でCTスキャンを行なった。そのデータの腹側から見た冠状断面像。 緑の線で囲った部分がマイカンギア。(e)高解像度のデータから作成した3Dモデル。折れ曲がったマイカンギア(青)が確認できる。eg:卵、mya:マイカンギア、ov:産卵管、mus:筋肉。スケールバー:(a)〜(c) 1mm、(d) 500µm、(e) 300µm。


動画: ヨツスジハナカミキリのCTスキャンの3D動画

生物環境工学
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