サバクトビバッタが砂漠で生き延びるための行動を解明~構築したモデルにより行動予測が可能に~

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2021-04-14 国際農研,モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センター,フランス国際農業開発センター,メルボルン大学

  • サバクトビバッタの幼虫は、日中、サハラ砂漠において集団移動することを確認。
  • 周囲の温度に応じて幼虫は行動を変え、体温を調節していることを解明。
  • 体温調節により消化に最適な体温を維持していると推察。
  • 構築したバッタ専用のモデルにより、体温を推定し、行動を予測可能に。

概要

国際農研は、モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センター、フランス国際農業開発センター、メルボルン大学と共同で、過酷な砂漠環境(厳しい寒暖)においてこれまで不明だった群生相のサバクトビバッタ(以下、バッタ)が生き延びるためにとる行動を明らかにし、その成果を利用して構築した専用のモデルによりバッタの体温を推定し、行動を予測可能にしました。

すなわち、活発に集団移動している幼虫の群れを対象に、サーモグラフィカメラを用いて様々な時間帯にバッタの体温と周辺の表面温度(以下、温度)を測定したところ、温度が低い時は、密集して日向ぼっこ行動をとって体温を高め、温度が高い時は、太陽光に当たる体表面積を小さくし、熱い地表から体を離すなどの行動をとって体温を下げ、体温調節していることを解明しました。温度が低い時には周辺よりも高い体温を維持し、温度が高い時も約40℃を維持することにより消化を促進できると考えられます。移動中のバッタの胃の状態を調査した結果、胃は食物でほぼ満たされていました。高温下では食物は速く消化されるため、空腹になりやすいはずですが、群れは移動しながら新たな餌場を転々と利用することで、効率良く採餌と消化をし、発育を促進していると考えられます。さらに、得られた体温と行動との関係を組み入れた体温調節行動についてのモデルを構築し、気象情報からバッタの体温を推定し、行動を予測することが可能であることを確認しました。この成果を利用することで、バッタの行動を予測し、発生予察の精度を高めることが期待されます。

本研究成果は「Ecological Applications」電子版(日本時間2021年4月7日)に掲載されました。<?XML:NAMESPACE PREFIX = “[default] http://www.w3.org/2000/svg” NS = “http://www.w3.org/2000/svg” />

<関連情報>
予算
運営費交付金、科研費(No.15K18808)ANR JCJC PEPPER (ANR-18-CE32-0010-01).

発表論文

論文著者
Maeno, K.O., Piou, C., Kearney, M.R., Ould Ely, S., Ould Mohamed, S., Jaavar,M.E.H and Ould Babah Ebbe, M.A.
論文タイトル
A general model of the thermal constraints on the world’s most destructive locust, Schistocerca gregaria
雑誌
Ecological Applications, DOI: https://doi.org/10.1002/eap.2310

問い合わせ先など

国際農研(茨城県つくば市大わし1-1)理事長 小山修
研究推進責任者:プログラムディレクター 中島一雄
研究担当者:生産環境・畜産領域 前野浩太郎
広報担当者:情報広報室長 大森圭祐
本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。

※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。

背景と経緯

サバクトビバッタ(以下、バッタ)は、西アフリカからインドにわたる半乾燥地域に生息していますが、しばしば大発生し、深刻な農業被害を引き起こします。2020年にも、アラビア半島で発生した群れが侵入先の東アフリカと南アジアで大発生し、食料不足が危惧されています。被害を軽減するためには、発生を予測し、長距離飛翔する成虫になる前の幼虫の間に防除する必要があります。このためにはバッタの行動パターン、特に、厳しい寒暖条件の砂漠において、どのように幼虫が体温調節し、採餌、消化しているのかを理解し、幼虫の行動を予測することが重要ですが、これまで不明でした。そこで、サハラ砂漠における幼虫の生存戦略を明らかにするために、体温調節の観点から野外調査を実施しました。さらに、バッタの体温と行動を予測するモデルを構築し、その精度を検討しました。

内容・意義

本研究では、バッタの生息地である西アフリカのモーリタニアに広がるサハラ砂漠にて野外調査を行いました。活発に集団移動している群生相1)の幼虫の群れ(図1a)を対象に、一日の様々な時間帯にサーモグラフィカメラ2)を用いて、バッタの体温と周辺の表面温度(以下、温度)とを同時に計測し、行動との関係を調べました。その結果、早朝の低温時にはバッタは地面で密集し、太陽光に当たる体表面積が大きくなるように太陽光と垂直に体の向きをとる、「集団日向ぼっこ行動」をとって体温を高めていることを明らかにしました(図2)。これは、朝は空腹のため早く体温を高め、餌場に移動するためと、食後、消化を促進するためと考えられます。日中の温度が高い時にはクールダウン行動、すなわち、日向では太陽に顔を向けて太陽光に当たる体表面積を小さくし、背伸びをして体を熱い地表から離す姿勢「背伸び行動」(図1b)をしたり、日陰に隠れたり、植物上に移動したりすることで、致死温度を超えないような行動をとって体温調節することを確認しました(図3)。ただし、温度が高い時でも単に体温を下げるのではなく、比較的高い体温(約40℃)を維持していました。実験室において、体温が高いほど消化が促進されたことから、野外においてバッタは比較的高い体温を維持して、消化を促進していると考えられます。日中、バッタは採餌と移動を繰り返していました。このため、移動中のバッタの胃は満杯に近い状態で維持されていました。温度が下がる夕方になると再び「集団日向ぼっこ行動」をとって温度より高い体温を維持し、速い消化速度を維持していると考えられます。効率良く採餌でき、且つ、消化速度が速いと、バッタの発育速度が速まることが知られており、本研究から明らかになった一連の行動は群れ全体の成長を速めるのに役立っていると考えられます。

次に、温度、体温と行動に関係するデータを微気象と変温動物の行動を予測する既存のモデル3)に組み込むことによって、バッタの体温と行動を予測する専用のモデルを構築しました。このモデルに、公開されている調査地の気象情報を入力すると、そこでのバッタ周辺の温度、体温を推定し、行動を予測することが可能であることを確認しました(図4)。

本研究から、過酷な環境と考えられる砂漠においてサバクトビバッタ群生相幼虫が生き延びるための行動が明らかになりました。さらに本研究で構築したモデルを用いると、予測したい場所、時間帯の気象情報を入力することで、特定の場所と時間帯におけるバッタの体温とそれに応じた行動の予測が可能になります。

今後の予定・期待

今回はサハラ砂漠にて群生相幼虫を対象に調査しましたが、今後は他の季節、地域に加え、飛翔して長距離を移動する成虫についても詳しく調査し、行動を予測するモデルを構築する予定です。また、本成果で用いた手法は中国や南米など世界各地で農業被害を引き起こしている別種のバッタについても応用が可能です。国際連合食糧農業機関が推奨しているように、バッタが不活発な時間帯を特定し、集中的に農薬を散布することで、必要以上に農薬を使用しない、環境や健康に配慮した防除に結び付くことが期待されます。

用語の解説
1) 群生相
サバクトビバッタは混み合いに応じて、行動や形態、生理的特徴を変化させる「相変異」を示す。平穏時の低密度下で育った個体は「孤独相」、大発生時の高密度下のものは「群生相」と呼ばれる。孤独相幼虫はお互いを避け合い、あまり移動しないが、群生相幼虫はお互いに惹かれ合い、集団で移動する。
2) サーモグラフィカメラ
非接触で物体の表面の温度を測定できるカメラ。物体から放射される赤外線を分析し、熱分布を測定できる。発熱者を検知するのにも使用されている。
3) モデル
今回使用した生物物理モデル(NicheMapR)(Kearneyら, 2020)は、公開されている広域気象情報から特定の地域の周辺温度を含む微気象を計算するアルゴリズムと、変温動物の体温と行動を計算する二つのアルゴリズムから構成されている。種特有の温度反応を入力することで、その動物専用のモデルを構築できる。構築されたモデルを用いることで、特定の気象条件下での動物の体温や行動の予測が可能になる。

 

図1.サバクトビバッタ(以下の図中、バッタ)の群生相幼虫

図1.サバクトビバッタ(以下の図中、バッタ)の群生相幼虫
(a) 砂漠を集団移動中の幼虫。
(b) 高温時、太陽に顔を向け、太陽光に当たる体表面積を小さくし、背伸びをして熱い地表から体を離す「背伸び行動」。

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