ステロールの過剰集積を防ぐ植物の技を解明 ~二段階フェイルセーフ・システム~

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2019-11-15 京都大学

西村いくこ 名誉教授(甲南大学特別客員教授)、島田貴士 千葉大学助教らの研究グループは、シロイヌナズナの葉に発見したステロールエステル(Sterol Ester)を集積する細胞小器官(オルガネラ)を「SEボディ」と命名し、また大量のSEボディを発達させる変異体(hise1と命名)と変異の原因となる因子HiSE1の解析から、生育不全を招く「ステロール過剰集積」を防ぐ植物の精緻な技を明らかにしました。

HiSE1は、ステロール合成経路の鍵となるHMG-CoA還元酵素の量を適正に調節することで、ステロールの生成量を抑制します。しかし、ステロール量が過剰になった場合は、ステロールを無毒なステロールエステルに変換して、SEボディに集積・隔離します。植物は、この二段階のフェイルセーフ・システムにより、ステロール量の恒常性を安全に維持していることがわかりました。

本研究で明らかになった植物のステロール恒常性制御の技は、動物のステロール量の制御系分野の研究にも新たなブレークスルーをもたらす可能性があります。また、作物へHiSE1変異を導入することにより、ステロールエステルのみならず、同様の経路で合成される天然ゴムやグリチルリチンなどの様々な有用二次代謝産物の増産へも期待されます。

本研究成果は、2019年11月12日に、国際学術誌「Nature Plants」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

詳しい研究内容について

ステロールの過剰集積を防ぐ植物の技を解明
―二段階フェイルセーフ・システム―

概要
京都大学大学院理学研究科 西村いくこ 教授(研究当時、現:京都大学名誉教授、甲南大学特別客員教授) と千葉大学 島田貴士 助教らの研究グループは、シロイヌナズナの葉にステロールエステル(Sterol Ester) を集積する細胞小器官(オルガネラ)を発見し、「SE ボディ」と命名しました。また、大量の SE ボディを発 達させる変異体 (hise1 と命名)と変異の原因となる因子 HiSE1 の解析から、生育不全を招く 「ステロール過 剰集積」を防ぐ植物の精緻な技を明らかにしました。HiSE1 は、ステロール合成経路の鍵となる HMG-CoA 還 元酵素の量を適正に調節することで、ステロールの生成量を抑制します。しかし、ステロール量が過剰になっ た場合は、ステロールを無毒なステロールエステルに変換して、SE ボディに集積・隔離します。植物は、こ の二段階のフェイルセーフ・システムにより、ステロール量の恒常性を安全に維持していることがわかりまし た。
本研究で明らかになった植物のステロール恒常性制御の技は、動物のステロール量の制御系分野の研究にも 新たなブレークスルーをもたらす可能性があります。また、作物へ HiSE1 変異を導入することにより、ステロ ールエステルのみならず、同様の経路で合成される天然ゴムやグリチルリチンなどの様々な有用二次代謝産物 の増産へも期待が広がります。
本成果は、2019 年 11 月 12 日に国際学術誌 「Nature Plants」にオンライン掲載されました。また、同時に 本誌の News & Views としても紹介されました。

1. 背景
コレステロールの過剰摂取は、私たちの健康に害をもたらしますが、植物の場合も、ステロールの過剰な集 積は生育異常を招きます。その一方で、植物にとってステロールは生育に必要なステロイドホルモンの生成に 必須な物質でもあります。従って、植物はステロール量を常に適正なレベルに保っていると考えられます。し かし、そのしくみは長く謎のままでした。

2. 研究手法・成果
種子の貯蔵脂質 (ダイズ油、ナタネ油、ゴマ油など)は私たちの栄養源の一つで、細胞内では、オイルボデ ィと呼ばれる細胞小器官に集積しています。オイルボディは、通常、種子に多数存在しますが、葉にはほとん ど存在しません。
私たちは、モデル植物 ・シロイヌナズナの葉の細胞内に多数のオイルボディを形成する変異体を単離しまし た。このオイルボディは、ステロールエステル (Sterol Ester)を集積していたことから、このオイルボディを SE ボディと命名し、この変異体を high sterol ester 1(hise1)と命名しました。既知のオイルボディと構成 成分が異なることから、SE ボディは新規の細胞小器官と位置付けられます(図2)。

hise1 変異体と野生型の葉を用いた比較定量プロテオミクス解析の結果、hise1 変異体の葉には、ステロー ル合成の上流経路の律速酵素である HMG-CoA 還元酵素(HMGR)が、野生型の 100 倍以上蓄積していまし た。また、hise1 変異体は野生型より遥かに高い HMGR 酵素活性をもっていました。これらの結果は、HiSE1 が、HMGR 量を負に制御することで、ステロールの過剰合成を抑制していることを示しています(図3)。
hise1 変異体は、高レベルの HMGR を有するにも関わらず、ステロール量は野生型と同程度で、植物の生育 も正常でした。一方で、hise1 変異体は、野生型の5倍以上のステロールエステルを蓄積していました。hise1 変異体で、ステロールアシル転移酵素(PSAT1)を欠損させると、ステロールエステルが合成できなくなり、 ステロール量が増加しました。その結果、顕著な生育阻害が認められました。これらの結果は、hise1 変異体 では、過剰合成されるステロールが無毒なステロールエステルに変換されて、SE ボディに集積することを示 しています(図3)。

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