2023-05-19 国立遺伝学研究所
系統の離れた分類群で類似の表現型が進化することを収斂進化あるいは平行進化といいます。トゲウオ科のイトヨでは、淡水に進出した集団は体の側面を覆う鱗板という骨化組織が退縮することが知られており、これは、欧米各地で独立に生じていることから平行進化の例として知られています。しかし、日本では、鱗板の退縮した淡水集団は少数あるものの、ほとんどの集団では退縮が生じておらず、その要因は謎でした。
このたび、生態遺伝学研究室の総研大生・神部飛雄さんと北野潤教授らの研究チームは、日本における淡水集団の鱗板変異と相関のある環境要因を調べました。その結果、鱗板退縮は、欧米の集団で報告のあるような低いカルシウム濃度や水の濁りとは相関がなく、温暖な本州南部でのみ生じていることがわかりました。欧米のイトヨ生息地に比して、日本の生息地のカルシウム濃度は全体的に比較的高く、水も比較的透明であることが、日本の淡水集団における鱗板の退縮が生じない1つの原因であると推察されました。
緯度や水温が、どのように鱗板退縮に影響しているのかについて今後も研究を続けます。
本成果はEcology and Evolution誌に発表されました。
図:日本列島では、岐阜県など南方の淡水集団のみ鱗板が退縮している。細木拓也氏が撮影。
Plate reduction in southern Japanese freshwater populations of threespine stickleback (Gasterosteus aculeatus)
Kanbe, H., Hosoki, T. K., Kokita, T., Mori, S., and Kitano, J.
Ecology and Evolution (2023) 13, e10077 DOI:10.1002/ece3.10077