足元で起きている進化: 都市と農地における雑草の急速な適応進化と防除への影響

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2020-08-24 東京大学

発表者
深野 祐也 (東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
郭 威 (東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
内田 圭 (東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
立木 佑弥 (東京都立大学理学研究科生命科学専攻 助教)
発表のポイント

◆ 一般的なイネ科雑草であるメヒシバ(図1)を対象に、都市と農地では植物の草姿が遺伝的に分化していることを発見しました。

◆ 都市と農地では植物間の競争の強さが異なり、この違いが草姿を急速に進化させる選択圧になりうることを示しました。植物において、競争者への形質進化を示した初めての事例です。

◆ 農地に適応した直立型個体は雑草防除(ロータリー耕)への耐性がありました。急速な進化を考慮することで雑草管理がより効果的になる可能性があります。

発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の深野祐也助教らは、一般的なイネ科雑草であるメヒシバが、都市と農地集団で草姿(注1)が遺伝的に分化しており、これは都市と農地の競争環境の違いに対する適応であることを解明しました(図2)。動けない植物にとって、近隣に生える植物は光や栄養を奪い合う強力な競争者となります。そのため、競争者は様々な形質を進化させる選択圧(注2)となることが予想されますが、どのような形質が競争によって進化するのかは未解明でした。本研究グループは、都市と農地環境における植物の密度(=競争者の多さ)の違いに注目し、都市と農地のメヒシバ系統を作出、同一条件下で栽培し形質を比較することで、競争者に対する現在進行形の形質進化を検証しました。栽培実験の結果、都市と農地で草姿が遺伝的に分化しており、都市個体は匍匐型を農地個体は直立型の草姿を持つ傾向があることがわかりました。競争を模した栽培実験により、高い競争環境では直立型が有利に、低い競争環境では匍匐型が有利になることが示されました。最後に、圃場実験とドローン空撮によって、農地に適応した直立型個体は、ロータリー耕による雑草防除に耐性があることがわかりました。直立型の個体は太い茎を持つため、ロータリーで切断されにくかったためだと考えられます。これらの結果は、メヒシバは農地と都市という異なる競争環境に草姿を変化させることで迅速に適応しており、農地で生じた進化が副次的に雑草防除効率に影響したことを示唆しています。また都市と農地の対比は、生物の急速な進化を研究するのに良いモデルとなることを示しました。

発表内容

図1:東京大学本郷キャンパス赤門前のメヒシバ(写真右の植物)

図2:研究結果の概略図

図3:都市個体と農地個体のメヒシバの草姿の違い。

図4 :都市個体と農地個体のメヒシバの低競争と高競争栽培条件下での成長の違い。低競争下では匍匐型の都市個体の成長が良いが、高競争下では直立型の農地個体の成長が良い。

図5 :実験的な耕うんの様子(図左)と、その結果(図右)。都市の個体よりも、農地の個体の方が耕うん後でも生残しやすい。また、茎が太い個体の方が、耕うん後でも生残しやすい。

動けない植物において、近隣植物との光をめぐる競争は、自身の成長や繁殖を決定づける非常に重要な相互作用です。それゆえ、競争者の存在は、植物の形質に強い選択圧を与えると予想されます。しかし、これまでの研究では、植物が競争者に対して局所適応しているのか、またその適応にどのような形質が関わっているかが未解明でした。本研究グループは、都市と農地という競争環境の対比に注目することで、植物が競争者にどのように適応しているかを解明することを目的としました。また、農地における植物の進化(=雑草の進化)が、雑草の防除効率に影響する可能性も検証しました。

作物の栽培のために作り出された農地は、多くの植物にとって理想的な環境です。それゆえ、農地周辺では植物は旺盛に成長し、光をめぐる競争が激しくなります。一方で、東京のような都市の路傍はコンクリートやアスファルトに覆われ、土壌が貧弱です。そのため、都市に定着できた植物は、競争者が少なく光をめぐる競争が弱いと予想されます(図2)。もし光をめぐる競争が植物に強い選択圧として働いているならば、都市と農地の植物集団でなんらかの形質が急速に分化していると予想されます。

そこで本研究では、農地の代表的な雑草であり、都市の路傍にも普通に生育している一年生のイネ科雑草メヒシバDigitaria ciliaris をモデルとして研究を行いました(図1)。まず、野外観察により、都市と農地では競争の程度が大きく異なることを確認しました。次に、都市と農地のメヒシバの形質の違いを検証するために、関東近辺の都市と農地のメヒシバ13集団から種子を採集しました。それらの種子をハウス内で栽培し自殖させ30系統を作出したのち、同一条件下で栽培を行いました。その結果、都市と農地の集団で草姿が遺伝的に分化しており、都市個体は匍匐型を農地個体は直立型の草姿を持つ傾向があることがわかりました(図3)。

次に、この草姿の違いが、競争環境に対する適応であるかを検証するために、競争条件を変えて栽培する実験を行いました。もし草姿が競争環境への適応であるならば、低い競争下では都市の匍匐型が成長に有利である一方、高い競争下では農地の匍匐型が有利になると予想されます。実験の結果、予想と一致する結果が得られました(図4)。これらの結果は、都市と農地の競争環境の違いはメヒシバの草姿に対する強い選択圧となっており、局所的な競争環境に応じて草姿が迅速に進化していることを示唆します。

最後に、農地におけるメヒシバの草姿の進化が、雑草としてのメヒシバの防除にどのような影響を与えるかを検証しました。メヒシバはアジアの畑地において一般的な雑草で、除草剤や、ロータリーなどの農業機械によって防除されます。ロータリーで防除するためには、植物の地上部を切断して土壌に埋没する必要があります。農地の直立型のメヒシバは太い茎を持つ傾向があるため、ロータリー耕で切断されにくく、防除されにくくなっている可能性があります。この可能性を検証するために、生態調和農学機構の実験圃場に都市・農地由来のメヒシバを移植し、生態調和農学機構技術部の協力の下、実際にロータリーで耕うんする実験を行いました(図5左)。そして、耕うんの前後にドローン空撮を行い、各個体の植被面積を計算することで、各個体の生残を評価しました。実験の結果、茎が太く直立型を示す個体ほど、ロータリー耕の後でも生残しやすいことがわかりました(図5右)。つまり、農地の競争環境によって進化した太い茎を持つ直立型の草姿が、副次的にロータリー耕への耐性を持ったことを示唆しています。

これらの一連の結果は、植物が局所的な競争環境に対して素早く進化することを示し、その適応に関わる形質を特定した点で進化生態学的に重要な知見です。また、都市や農地の雑草が急速に適応進化しうること、進化が防除効率に影響しうることを示した点で、雑草学にも示唆を与えます。都市という環境は近年になって人間が作り出した環境であるため、今回の研究で見られたような草姿の分化は、短期間に生じた迅速な進化であると考えられます。今後も、都市と農地の雑草をモデルとすることで、現在進行形の形質進化やその影響を実験的に検証することができると考えられます。例えば、他の雑草種を対象に草姿を検証することで都市と農地への収斂進化を検証することができますし、競争以外の選択圧に対する適応を検証することで都市と農地への形質群の進化を検証することができます。

発表雑誌

雑誌名:Journal of Ecology

論文タイトル:Contemporary adaptive divergence of plant competitive traits in urban and rural populations and its implication for weed management

著者:Yuya Fukano*, Wei Guo, Kei Uchida, Yuuya Tachiki(*責任著者)

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構

助教 深野 祐也(フカノ ユウヤ)

用語解説:

(注1)草姿:植物の全体的な外観や形態、成長パターン

(注2)選択圧:生存や繁殖に差をもたらし適応進化を促進する要因

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