冠攣縮性狭心症の新規関連遺伝子を発見

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2023-07-10 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の脳神経内科 石山浩之医師、田中智貴医長、吉本武史医師、猪原匡史部長らの研究グループは、同センターの野口輝夫副院長、病態ゲノム部 髙橋篤部長、予防医学・疫学情報部 尾形宗士郎室長、西村邦宏部長、バイオバンク 朝野仁裕部長、京都大学医学研究科環境衛生学 小泉昭夫名誉教授らとともに、東アジアのもやもや病の創始者多型(注1)として同定され、日本人の約2%が保有するRNF213遺伝子p.R4810Kバリアントが、冠攣縮性狭心症と関連することを発見しました。この研究成果は、 米国心臓学会機関誌、「JACC: Asia」オンライン版に、令和5年6月27日に掲載されました。

■背景

冠攣縮性狭心症は、心臓に栄養を送る冠動脈の痙攣によって一時的な血管狭窄が生じ、心臓の血流が悪くなることで胸痛や心筋梗塞を引き起こす病気です。冠攣縮性狭心症は、我が国を含む東アジアで頻度が高いことが知られていますが、その遺伝的背景は明らかにされていません。
東アジアのもやもや病の創始者多型として同定されたRNF213遺伝子のp.R4810Kバリアントは、日本人の約2%が保有する遺伝子の個人差です。先行するゲノム研究において、同バリアントと冠動脈疾患の関連が示されましたが、他の研究では同結果の完全な再現が得られませんでした。もやもや病はときに冠動脈攣縮を合併することが知られていたことから、我々は「RNF213 p.R4810Kバリアントが冠動脈疾患の中でも、特に冠攣縮性狭心症と関連する」という仮説を立て、本研究で検証しました。

注1) 創始者多型:100人中1人以上の人が持っている遺伝子の異常を遺伝子多型と呼びます。
創始者多型は集団の最初の一人が有し、子孫集団中に広がったと考えられる遺伝子多型を指します。
               RNF213 R4810Kバリアントは、1万5千年前の中国・韓国・日本共通の祖先にまでにさかのぼり、
東アジアの歴史の中で広がった遺伝子多型です。

■研究手法

RNF213 p.R4810Kバリアントを評価した8175例を対象とした症例対照研究を行いました。国立循環器病研究センターバイオバンクに登録された冠攣縮性狭心症66例を含む冠動脈疾患1088例と、健常コントロール1011例または冠動脈疾患を除く疾患コントロール6076例における、RNF213 p.R4810Kバリアントの保有率を比較しました。本検討では、RNF213 p.R4810Kバリアントの保有率が非常に高い(73–95%)もやもや病は除外しています。同バリアントと冠動脈疾患の関連を年齢、性別、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙を調整して評価しました。

■成果

まず、冠動脈疾患1088例と、健常コントロール1011例の比較を行いました。RNF213 p.R4810Kバリアントの保有率は冠動脈疾患全体では3.9% (42/1088例)、健常コントロールでは2.1% (21/1011例)であり、調整後に同バリアントと冠動脈疾患に有意な関連を認めませんでした(調整オッズ比 [95%信頼区間] 1.83 [0.88–3.82])。
冠攣縮性狭心症66例中7例 (10.6%)には同バリアントを認め、さらに調整後も有意な関連を認めました(同6.03 [2.12–17.15])。冠攣縮性狭心症のサブグループ解析では、女性や脂質異常症を有する患者が特に強い関連を示しました。(図1)

次に、冠動脈疾患1088例と、疾患コントロール群6076例との比較を行いました。RNF213 p.R4810Kバリアントの保有率は冠動脈疾患全体では3.9% (42/1088例)、疾患コントロールでは2.8% (168/6076例)であり、健常コントロールとの比較とに冠攣縮性狭心症は調整後も同バリアントと有意な関連を示しました(6.86 [2.98–15.80])。また、すべてのサブグループにおいて、同バリアントと冠攣縮性狭心症は関連し、女性と脂質異常症を有する患者で関連が強く見られました(図2)

■本研究から得られた知見

本研究において、これまで明らかにされていなかったRNF213 p.R4810Kバリアントと冠攣縮性狭心症の関連が示されました。同バリアントは、東アジアで頻度が高く、欧米ではほとんど見られないことから、本知見により冠攣縮性狭心症の人種差の原因の一部を説明できる可能性があります。また、誘発試験などの侵襲を伴う検査を必要とする冠攣縮性狭心症の診断において、同バリアントの評価が、侵襲的な検査を施行する前の有用な補助検査となる可能性があります。

■発表論文情報

著者: Hiroyuki Ishiyama, Tomotaka Tanaka, Takeshi Yoshimoto, Atsushi Takahashi, Soshiro Ogata,
Kunihiro Nishimura, Yoshihiro Asano, Akio Koizumi, Teruo Noguchi, Masafumi Ihara
題名: RNF213 p.R4810K Variant Increases the Risk of Vasospastic Angina
掲載誌: JACC: Asia

■謝辞

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「東アジア特有の高血圧・脳梗塞リスクRNF213p.R4810K多型の迅速判定法の確立と判定拠点の構築」、およびゲノム医療実現推進プラットフォーム事業(先端ゲノム研究開発)「マルチオミックス連関による循環器疾患における次世代型精密医療の実現」、先進医薬研究振興財団先進研究助成「脳梗塞の発症を促進する東アジア特有の遺伝・環境要因の解明」により支援されました。

【報道機関からの問い合わせ先】

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

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