ゲノムDNAの機能を制御する遺伝子を発見 〜ゲノム編集やiPSリプログラミングに応用可能〜

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2024-02-22 金沢大学

金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)/がん進展制御研究所の宮成悠介准教授,ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の田川綾子研究員,基礎生物学研究所/総合研究大学院大学生命科学研究科の石井智子博士課程学生(研究当時)らの研究グループは,ゲノムDNA の機能制御に関与する遺伝子 TFDP1 を同定しました。さらに,TFDP1 の機能を阻害することで,ゲノム編集(※1)や iPS 細胞リプログラミング(※2)の効率を上げることに成功しました。

本研究では,転写因子 TFDP1 がクロマチン(※3)形成に必須なヒストンタンパク質の転写制御の中心的な役割を担っていることを見出しました。本研究成果は,遺伝子発現などのゲノム機能に関与するクロマチン構造がどのように制御されているのか,という生物学上の大きな謎の一つに答えるものです。また,TFDP1 を阻害することで,細胞内のクロマチン構造を人為的に操作するユニークな方法を樹立しました。この技術は,ゲノム編集や iPS 細胞リプログラミングだけでなく,ワクチン開発や再生医療分野など幅広い研究分野に活用されることが期待されます。

本研究成果は,2024 年 2 月 15 日 5 時(米国東部時間)に国際学術誌『Nature Genetics』のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

【用語解説】

※1:ゲノム編集
酵素の「はさみ」を使って任意のゲノムDNAを切断し,DNA配列を書き換える技術のこと。特に,CRISPR/Cas9システムなどのゲノム編集技術は,細胞内のゲノムDNAにCas9ヌクレアーゼが結合し,標的となるDNA配列を切断することによって達成されます。Cas9のゲノムDNAへの結合は,ヌクレオソーム構造によって阻害されるため, ゲノム編集の効率を下げる一因と考えられていました。一方,裸のDNAにはCas9が結合しやすいことが知られています。 つまり,アクセシビリティが高い状態のゲノムDNAは,ゲノム編集の効率を上げると考えられます。

※2:iPS細胞リプログラミング
山中因子と呼ばれる4種類の転写因子(Oct4/Sox2/Klf4/cMyc)を体細胞内で発現させることで,その細胞の性質をリプログラミングし,多能性幹細胞であるiPS細胞を作製することができます。一方,iPS細胞の作製効率はいまだに低く,その原因の一つが山中因子のゲノムDNAへの結合効率が低いためであると報告されています。本研究では,体細胞のアクセシビリティを人為的に上げることによって,山中因子のゲノムDNAへの結合が促進され,iPS細胞の作製効率が上昇することを報告しました。

※3 :ヌクレオソームとクロマチン
ゲノムDNAは,ヒストンタンパク質の複合体に巻き付くことによってヌクレオソームを形成します。ヌクレオソームが数珠状に連なった状態をクロマチン構造と呼びます。ヌクレオソーム状態にない裸のゲノムDNAは,転写因子などが結合しやすく,アクセシビリティが高い状態にあります。

プレスリリースはこちら

ジャーナル名:Nature Genetics

研究者情報:宮成 悠介

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