人食いバクテリアが免疫を回避する機構を解明

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多臓器不全など劇症型感染を防ぐ治療法開発に期待

2018/10/23  大阪大学,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  • 人食いバクテリアとして恐れられ、劇症化の機構は不明、治療も困難だった劇症型溶血性レンサ球菌(※1)が、免疫反応を抑制するメカニズムを明らかに。
  • 劇症型溶血性レンサ球菌が、免疫受容体(※2)の働きを抑える脂質を産生し、免疫系を回避していることを発見。
  • この免疫回避機構を解除することで、劇症型感染を防ぐ治療法に繋がることが期待。
概要

大阪大学微生物病研究所/免疫学フロンティア研究センターの山崎晶教授らを中心とする共同研究グループは、劇症型溶血性レンサ球菌が、免疫受容体の働きを阻害する脂質を産生して免疫系から逃れることで劇症化し、重篤な致死性感染症を引き起こすことを明らかにしました(図)。この脂質の産生経路を阻害することで、感染に伴う致死性症状の治療に繋がることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences USA」に、10月23日(火)午前4時(日本時間)に公開されます。
図_劇症型溶血性レンサ球菌による免疫回避機構
図 劇症型溶血性レンサ球菌による免疫回避機構
免疫賦活脂質MGDGから、受容体阻害脂質(DGDG)を大量に生合成し、免疫系を回避することで劇症化に寄与していることが明らかとなった。

本研究の背景

劇症型溶血性レンサ球菌(以下レンサ球菌)は、一般に咽頭炎などでよくみられる細菌です。ところが、一部の人では劇症化し、手足の壊死や多臓器不全を起こし、3割が死に至ることから、「人食いバクテリア」とも呼ばれて恐れられています。これまで、レンサ球菌が免疫系を逃れて体内で増殖するしくみはわかっていませんでした。

本研究の内容

研究チームはまず、レンサ球菌が生産する脂質であるモノグルコシルジアシルグリセロール(MGDG)を我々の免疫細胞の表面に発現しているMincleという免疫受容体が認識して免疫反応が活性化し、菌を排除していることを見出しました。一方、一部のレンサ球菌は、この受容体の働きを阻害する別の脂質ジグルコシルジアシルグリセロール(DGDG)(※3)を大量に産生して免疫反応を抑制し、免疫系の攻撃を回避することで劇症化していることが明らかになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

この発見を応用し、レンサ球菌がMGDGをDGDGに変換する生合成経路を阻害することができれば、免疫系回避機構をブロックし、重篤な壊死や多臓器不全を防ぐ感染症治療に貢献する可能性があります。病原体を直接殺すのではなく、免疫系を回避させないことで免疫感受性を付与して病原体を排除する、新たな作用機序に基づく感染症治療薬は今後益々必要とされており、実用化に向けた研究が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年10月23日(火)午前4時(日本時間)に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences USA」(オンライン)に掲載されます。

タイトル:“Lipoteichoic acid anchor triggers Mincle to drive protective immunity against invasive group A Streptococcus infection”
著者名:Imai T, Matsumura T, Sabine Mayer-Lambertz S, Wells C, Ishikawa E, Butcher SK, Barnett TC, Walker
MJ, Imamura A, Ishida H, Ikebe T, Miyamoto T, Ato M, Ohga S, Bernd Lepenies, van Sorge NM, Yamasaki S.

なお、本研究は、科学研究費補助金、日本医療研究開発機構革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明(研究開発総括:横山信治)」の研究課題「病原体糖脂質を介する新たな宿主免疫賦活機構の解明と感染症治療への応用(研究開発代表者:山崎晶)」の支援を受け、九州大学、国立感染症研究所、岐阜大学、オランダ、ドイツ、オーストラリアの共同研究チームによって実施されました。

用語説明
※1 劇症型溶血性レンサ球菌 Streptococcus pyogenes
A群溶血性レンサ球菌とも呼ばれ、咽頭炎など様々な症状を引き起こす。劇症化すると急速に手足の壊死や多臓器不全を引き起し、致死率も高いことから「人食いバクテリア」とも呼ばれる。
※2 免疫受容体
細胞の表面に存在し、外から侵入する病原体や、病原体に感染した細胞を認識して免疫応答を活性化する受容体。我々の体には様々な外敵を認識するため、多様な受容体が備わっている。今回の免疫受容体Mincleは細菌の糖脂質を認識する受容体で、レンサ球菌の他に、結核菌の糖脂質なども認識する。
※3 ジグルコシルジアシルグリセロール(DGDG)
モノグルコシルジアシルグリセロール(MGDG)にさらに1分子のグルコースがα-1,2結合した糖脂質。劇症型菌種では含有量が多いことも今回の研究でわかった。
お問い合わせ先
本件に関するお問い合わせ先

大阪大学微生物病研究所
教授 山崎 晶(やまさき しょう)

AMED事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
基盤研究事業部 研究企画課

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