藻類によるバイオ燃料生産の安全性確保への貢献も期待
2018-10-30 京都大学,お茶の水女子大学
福澤秀哉 生命科学研究科教授、梶川昌孝 同助教、新川はるか 同研究員、西村芳樹 理学研究科助教、幡野恭子 人間・環境学研究科助教、加藤美砂子 お茶の水女子大学教授らの研究グループは、オートファジーが、藻類のデンプンや脂質の蓄積と分解に重要な役割を果たすことを明らかにしました。
本研究成果は、2018年10月6日に、国際学術誌「Plant & Cell Physiology」のオンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
光合成によってデンプンや油脂を蓄積する微細藻は、次世代のバイオ燃料として期待されています。また、栄養の少ない自然環境で生命が生き残るためには、さまざまな仕組みが必要です。本研究は、微細藻で初めてオートファジー不全株(変異株)を用いて、デンプンの蓄積や脂質の分解にオートファジーが必要である事を示すことができた研究です。
概要
動植物や菌類と同様に、藻類にもオートファジーに必要なATG遺伝子(Autophagy‐related gene:オートファジー関連遺伝子)が保存されています。しかし、藻類におけるオートファジーの機能については検証が進んでいませんでした。
本研究グループは、藻類におけるオートファジー不全株(ATG8およびATG3の遺伝子を欠損した変異株)を世界で初めて単離しました。また、そのオートファジー不全株は野生株と異なり、窒素欠乏条件での細胞生存性が急激に低下することから、細胞の生存にオートファジーが必要であることが判明しました。
さらに、本研究グループは、栄養欠乏条件での中性脂質(TAG)とデンプンの蓄積量についてatg8変異株を代表として調べることで、これらの代謝制御にオートファジーが果たす役割を検証しました。その結果、オートファジーは、窒素および硫黄欠乏条件において蓄積したデンプンの維持に必要なこと、窒素を再添加した時の中性脂質分解に必要なこと、また、リン酸欠乏条件においてはデンプン蓄積に必要なことが見出されました。
また、マウスや線虫では、ミトコンドリアの母性遺伝にオートファジーが関わるかどうか議論があったので、緑藻クラミドモナスの変異株を使って母性遺伝を調べたところ、緑藻クラミドモナスではオルガネラゲノムの母性遺伝にオートファジーは関与していないことが示唆されました。
今後は、本研究で単離したオートファジー不全株を用いて、種々の異なる生理的条件でのオートファジーの役割が明らかにされること、さらに藻類を原料とするバイオ燃料生産において生物学的封じ込めによる安全性確保のツールとなることが期待されます。
図:窒素欠乏条件6日目の野生株(左)とオートファジー不全株(右・atg8変異株)。LD:中性脂質を含む油滴、S:デンプン顆粒。右のatg8変異株で油滴がデンプン顆粒より多い。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1093/pcp/pcy193
Masataka Kajikawa, Marika Yamauchi, Haruka Shinkawa, Manabu Tanaka, Kyoko Hatano, Yoshiki Nishimura, Misako Kato, Hideya Fukuzawa (2018). Isolation and characterization of Chlamydomonas autophagy-related mutants in nutrient-deficient conditions. Plant and Cell Physiology, pcy193.