2019-05-07 生命創成探求センター
神奈川大学総合理学研究所の菅原正客員教授らの研究グループが、DNAの塩基配列ではなく、長さが生物学的な情報になり得ることを世界ではじめて明らかにしました。これは、生命情報の起源に迫る重要な発見です。本成果は、Nature Publishing GroupのオンラインジャーナルScientific Reportsに掲載されました。
菅原正客員教授(神奈川大学総合理学研究所/理学部)らのグループはすでに、外部からの養分供給で、肥大し分裂して自己生産を行う人工細胞を化学的につくり出し、しかもそれが繰り返し起こることを報告してきました。しかし、生物の最大の特徴は、自らの個性を次世代に伝える情報をもつことにあります。菅原客員教授らは、DNAの長さが情報となって、摂食後の肥大・分裂ダイナミクスを制御する、原始的な人工細胞を新たに構築しました。
太古の地球で最初に創発した生物が、現在の高度に洗練された多様な生物に進化するためには、遺伝情報を記録する分子の出現が不可欠です。現在の生物では、DNAがその塩基配列に情報を記録し、転写・翻訳という高度に組織化された過程で、その情報が発現されます。しかし単純な分子集合体からなる原始細胞において、どのようにしてDNAが子孫の存続に影響を与える遺伝情報を担うようになったかは、未解決な課題です。
本研究グループは、DNAと膜分子の相互作用を増幅するように、脂質からなる膜の組成を工夫した人工細胞を新たに構築し、膜内でDNAと脂質からなる超分子触媒を形成させ、DNA増幅後の養分添加で増殖した人工細胞数を、フローサイトメトリおよび顕微鏡観察で数え上げました。その結果、内包したDNAの長さに依存して、その増殖数が明らかに異なることを見出しました。また、単一人工細胞の形態変化の顕微鏡追跡により、このDNAの長さが分裂挙動を制御する原因を明らかにしました。本成果は「太古の地球の原始細胞においては、DNAが形成する超分子複合体が分裂挙動に直接的に影響を与える酵素として機能することで、その配列ではなく長さを情報とする原始的な生命情報の流れが生じた可能性がある」ことを、示唆しています。
本研究の成果は、2019(令和元)年5月6日にNature Publishing GroupのオンラインジャーナルScientific Reports誌(電子版)に掲載されました。なお、この研究に関する実験は、現 自然科学研究機構 生命創成探究センターの松尾宗征 特任研究員(実験時の所属: 東京大学大学院 博士課程(指導教員: 豊田 東大准教授))が中心となって行いました。
長さの異なるDNAを内包した人工細胞に養分を添加した際の分裂挙動
(図上段: 短いDNAを内包した場合、下段:長いDNAを内包した場合)
a) 情報の流れの概略図(bpはbase pairsの略。DNAの塩基対数の単位でDNAの長さを表す)
b) 養分添加後の個別の人工細胞の変形 (スケールバーは10 μm)、
c) 養分添加後の人工細胞の広域顕微鏡像 (スケールバーは125 μm)
内包されたDNAの長さの違いにより、
分裂の様式や分裂の速度・効率が異なることが確認され、
DNAの長さが人工細胞の分裂挙動を決める情報としての役割を持つことが示された。
論文情報
著者名: M. Matsuo, Y. Kan, K. Kurihara, T. Jimbo, M. Imai, T. Toyota*, Y. Hirata, K. Suzuki & T. Sugawara*
論文タイトル: DNA Length-dependent Division of a Giant Vesicle-based Model Protocell
(和訳: DNA鎖長に依存したベシクル型人工細胞の分裂挙動)
掲載誌情報: Scientific Reports, 9, 6916 (2019).
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-019-43367-4
DOI: 10.1038/s41598-019-43367-4
掲載日: 2019年5月6日午前10時(英国時間)
発表機関
神奈川大学
自然科学研究機構生命創成探究センター
この件に関するお問い合わせ
神奈川大学 研究支援部 平塚研究支援課
プレスリリース発信元
神奈川大学 広報部