裸子植物ソテツの花が発熱するしくみの一端を解明

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ミトコンドリアの特徴的な形態と呼吸鎖バイパス経路の働きが発熱に関与

2019-05-29 宮崎大学,理化学研究所,九州大学

【発表のポイント】
●花の発熱には、揮発性の匂い成分を効率良く飛散させ、訪花昆虫(ポリネーター)を誘引する役割があります。ソテツは、発熱植物の中で半数を占めます。
●今回、日本の固有種とされるソテツ(Cycasrevoluta)を用いて、ソテツ雄花による発熱を、世界で初めてサーモグラフィーで捉えることに成功しました。
●さらに、雄花の発熱組織(小胞子葉)は、サイズが極端に大きいミトコンドリアを含み、発熱と関係性の深い呼吸経路を活発に利用することを発見しました。
●今回の研究により、ソテツの雄花が発熱するしくみの一端を解明することに成功しました。

【概要】
宮崎大学農学部植物生産環境科学科・稲葉靖子准教授の研究グループは、理化学研究所環境資源科学研究センター・豊岡公徳上級技師、九州大学大学院医学研究院・林哲也教授らの研究グループと共同で、日本の固有種として知られるソテツ(Cycas revoluta)の花の発熱を、世界で初めてサーモグラフィーで捉えることに成功しました。これまで、ソテツの花の発熱に関しては、よくわかっていませんでしたが、今回の研究により、ソテツの花が発熱するしくみの理解が飛躍的に進みました。今後、花の発熱を支えるしくみの理解が進めば、寒冷環境下における農作物の成長を促進したり、花における匂い成分の合成や飛散を助けたりする技術の開発につながることが期待されます。
この成果は、世界的な植物科学雑誌の一つである Plant Physiology 誌の 2019 年 6 月号(米国東部時間 2019 年 6 月 3 日公開予定)にオンラインで掲載され、同雑誌の表紙を飾ります。


図 ソテツ(Cycas revoluta)雄花の発熱。 6 月下旬の夜、サーモグラフィーで撮影した画像。発熱により、雄花が赤く光っている。

【論文題目】
題目:Alternative oxidase capacity of mitochondria in microsporophylls may function in cycad thermogenesis
著者:Yasuko Ito-Inaba, Mayuko Sato, Mitsuhiko P. Sato, Yuya Kurayama, Haruna Yamamoto, Mizuki Ohata, Yoshitoshi Ogura, Tetsuya Hayashi, Kiminori Toyooka, Takehito Inaba
雑誌:Plant Physiology
DOI: https://doi.org/10.1104/pp.19.00150

☆第一著者プロフィールが、以下のサイトに掲載されています。 https://plantae.org/recognizing-plant-physiology-first-authors-yasuko-ito-inaba/

【研究代表者】
宮崎大学農学部植物生産環境科学科・花き生理学研究室 稲葉靖子 准教授

【研究担当者】
■理化学研究所環境資源科学研究センター 質量分析・顕微鏡解析ユニット
豊岡公徳 上級技師、 佐藤繭子 技師

■九州大学大学院医学研究院
林哲也 教授、小椋義俊 准教授、佐藤光彦 研究員

■宮崎大学農学部植物生産環境科学科・植物生理学研究室
稲葉丈人 准教授

【研究協力者】
宮崎大学農学部植物生産環境科学科・花き生理学研究室 学生3名

【詳細な説明】
ソテツは、裸子植物(注 1)であり、イチョウやマツの仲間です。日本には、Cycasrevoluta という学名を持つソテツが自生しており、九州南部や沖縄諸島で広く見られます。特に、沖縄の奄美地方では、ソテツは古くから人々の暮らしと密接な関わりを持ち、幹や実は食料として、葉は田畑の肥料として用いられていたそうです。
さて、そんな C.revoluta ですが、花で発熱することは、あまり知られていません。1987 年に、アメリカの植物学者ウィリアム・タングという人が、C.revoluta を含む約 40 種類のソテツの花の発熱性を調査したところ、いくつかのソテツでは、花の温度が外気温に比べて 10℃以上も上昇していたのに対して、C.revoluta では、花の温度が外気温に比べてわずか 1.6℃しか上昇していませんでした。このため、C. revoluta の発熱能力は非常に微弱であるとされ、その後の研究が進展しませんでした。
今回、宮崎大学・稲葉靖子准教授、理化学研究所・豊岡公徳上級技師、九州大学・林哲也教授らの研究グループは、C.revoluta を用いて、ソテツ雄花の発熱を世界で初めてサーモグラフィーカメラで捉えることに成功しました(図 1)。また、同研究グループは、雄花の発熱組織(小胞子葉)の表皮を中心に、巨大なミトコンドリア(注 2)が目立って観察されることを見い出しました(図 2)。さらに、小胞子葉では、ミトコンドリア呼吸鎖のバイパス経路とされるシアン耐性呼吸経路(注 3)の働きが、非発熱組織(小胞子のう)に比べて活発で、本経路の末端酸化酵素(シアン耐性呼吸酵素(注 4))として働く主要なタンパク質が、CrAOX1 であることを見い出しました(図 3)。一連の研究から、小胞子葉ミトコンドリアにおける CrAOX1 を介したシアン耐性呼吸経路の活発な働きが、 C. revoluta の発熱に寄与していることがわかりました。
花の発熱には、揮発性の匂い成分を効率よく飛散させ、花粉を運んでくれる昆虫を誘引する役割があると考えられています。また、花の発熱は、ソテツのような裸子植物に限らず、サトイモ科やハス科等の被子植物でも観察される現象です。加えて、発熱植物の花における体温上昇は、主に呼吸の働きによるもので、呼吸の働きは揮発性の臭い成分の合成にも関与することがわかっています。したがって、今後、花の発熱を支えるしくみの理解が進めば、寒冷環境下における農作物の成長を促進したり、花における匂い成分の合成や飛散を助けたりする技術の開発につながることが期待されます。

ソテツの花は、正式には、球果(英語:cone)と言います。ただ、日本では、ソテツの雄花・雌花という言い方が一般的ですので、今回は、国民の皆様の理解を平易にするため、球果ではなく、花という言葉を用いました。ご了承下さい。

【用語説明】
注 1: 裸子植物:胚珠が裸出しているので、裸子植物と呼ばれる。胚珠が子房に包まれているのが、被子植物である。種子植物の中では進化的に初期の形態を持ち、花を付けないシダ植物から花を付ける種子植物に至る進化を理解する上で、重要な位置を占める植物である。裸子植物は風媒花であると記載する教科書もあるが、最近の研究から、いくつかのソテツでは訪花昆虫がみつかっている。

注 2:ミトコンドリア:真核細胞内で見いだされ、細胞呼吸の場であるとともにさまざまな生体物質代謝の場として重要なオルガネラである。一般的に、1 m 前後の小さなオルガネラであり、分裂と融合を繰り返しながら頻繁に形を変える。細胞内で様々な形態(桿状、球形、楕円形、ダンベル型など)をとることが知られている。

注 3: シアン耐性呼吸経路:植物ミトコンドリアには 2 つの電子伝達経路(呼吸鎖)があり、一つは、動物にも存在するシトクロム経路、もう一つが、シアン耐性呼吸経路である。シトクロム経路は、エネルギー源である ATP を効率的に作り出す過程に寄与し、シアン耐性呼吸経路は、余剰な電子の滞留を避け、活性酸素の発生を抑える働きがある。植物においても、呼吸鎖のデフォルトはシトクロム経路であり、特定の成長ステージ或いは環境の変化を受けてシアン耐性呼吸経路が活発になるため、後者の経路は呼吸鎖バイパス経路とも呼ばれている。これまで、被子植物に含まれる複数の発熱植物で、シアン耐性呼吸経路の働きが活発であったことから、植物では、本経路を介した熱産生モデルが提唱されている。

注 4:シアン耐性呼吸酵素:シアン耐性呼吸経路における末端酸化酵素であり、サトイモ科の発熱植物ブードゥーリリー(Sauromatum guttatum)で最初に単離された。その後、非発熱性の多数の植物からも単離された。

【図】

図 1. 発熱するソテツ(Cycas revoluta)雄花。サーモグラフィーカメラで撮影した写真が右側。雄花は、外気温に対して、最大で 11.5℃も体温を上げることができる。


図 2. 発熱組織(小胞子葉)の表皮を中心に観察される巨大ミトコンドリア。電子顕微鏡で撮影した写真の中央にあるミトコンドリアの断面積は、5.62 m2。これに対して、非発熱組織(小胞子のう)では、大部分のミトコンドリアが 0.5 m2未満。Mt:ミトコンドリア、Nuc:核、Pt:プラスチド。


図 3. Cycas revoluta 雄花の小胞子葉ミトコンドリアでは、CrAOX1 を介したシアン耐性呼吸経路(呼吸鎖バイパス経路)が活発に働く。シアン耐性呼吸経路(赤色太点線矢印)、シトクロム経路(青色太点線矢印)。I から V は、電子伝達と ATP 合成に関わる複合体タンパク質を示す。

【問い合わせ先】
●研究に関すること
宮崎大学 農学部・植物生産環境科学科
准教授 稲葉靖子

●報道担当
宮崎大学 企画総務部 総務広報課

理化学研究所 広報室 報道担当

九州大学 広報室

生物化学工学
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