2019-06-20 九州大学,日本医療研究機構
概要
九州大学病院は網膜色素変性に対する遺伝子治療の医師主導治験(治験責任医師:眼科 池田康博)における被験者への治験製品(遺伝子導入ベクター)の投与を、2019年6月4日に初めて実施しました。治験プロトコルに従って実施し、被験者は6月12日に退院しました。
背景
網膜色素変性は、網膜に存在する光を感じる細胞(視細胞)が徐々に失われていく遺伝性の病気です。約5千人に1人の頻度で見られ、青年期より発症し、やがて失明に至る可能性があります。すでに50種類以上の遺伝子異常が原因として明らかになっていますが、現状は有効な治療法がなく、厚生労働省から難病と指定され、公費負担の対象となっています。
本医師主導治験では、この難病に対して遺伝子治療という新しい治療法を応用しました。遺伝子治療とは、ベクターという運び屋を使って治療するための遺伝子を投与する方法で、今回は神経栄養因子であるヒト色素上皮由来因子(hPEDF)の遺伝子を搭載したサル由来レンチウイルス(SIV)ベクター(SIV-hPEDF:開発コードDVC1-0401)を患者さんの目に注射しました。神経栄養因子という蛋白質は神経細胞を保護する作用があるので、この蛋白質が目の中で産生されることによって、視細胞の喪失を防ぎ、視力の悪化を防ぐことを期待しています。眼科における遺伝子治療の治験は、本治験が国内では初めての試みとなります。
本医師主導治験(「DVC1-0401網膜下投与による網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療の第Ⅰ/Ⅱa相医師主導治験」)は、日本医療研究機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業の研究開発課題「網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療の医師主導治験」の支援により開発を進めており、またAMED橋渡し研究戦略的推進プログラムにおいて橋渡し研究支援拠点に選定された九州大学の支援基盤を活用し、治験届を2019年1月15日に提出していました。
内容
治験製品であるDVC1-0401の網膜下投与の安全性を検討すること、および視機能障害の進行抑制効果を評価することが、本医師主導治験の目的です。治験実施計画書(プロトコル)では、まず第1ステージとして4名の被験者に低用量の治験製品を投与しますが、2019年6月4日に第一症例目となる福岡県外在住の女性にDVC1-0401を投与しました。被験者は6月12日に既に退院されました。今後は外来にて、注意深く経過観察していく予定です。
網膜色素変性は、現在有効な治療法がなく、患者さんは失明の不安を抱えて人生を送っています。今回の医師主導治験で安全性と有効性が確認され、治療薬としての開発に繋がれば、患者さんの失明防止に向けた大きな一歩になると期待されます。また、治験製品であるDVC1-0401は株式会社IDファーマ(茨城県つくば市)が開発した国産遺伝子導入ベクターで、その保険医療分野に果たす役割は大きいと考えています。
今後の展開
第1ステージ4名において治験製品に関連した重篤な副作用の有無などの安全性を検証しながら、第2ステージで4名の被験者に中用量の治験製品を、最終的には第3ステージで4名の被験者に高用量の治験製品を投与します。実際の治験の進捗状況については、九州大学病院眼科ホームページ<九州大学医学部 眼科のHP> にて随時公表を予定しています。
お問い合わせ
九州大学病院 眼科
九州大学大学院医学研究院 眼科学
准教授 池田康博
助教 村上祐
AMED事業に関するお問い合わせ
日本医療研究開発機構
戦略推進部 難病研究課