がんに自律神経が影響することを発見

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がんの神経医療の開発へ

2019-07-09 岡山大学,国立がん研究センター,東京医科大学,福島県立医科大学,日本医療研究開発機構

本論文では、がん組織内に自律神経系が入り込むことで、その患者の予後を左右することを世界に先駆けて証明しました。特に乳がん組織内に交感神経が活発な場合は、その患者は予後不良であること、さらに実験的に交感神経を抑制または除去した場合は、がんを縮小したり転移を抑制できることもわかりました。本研究においては、国立がん研究センター研究所の落谷孝広(現・東京医科大学)と同・中央病院、乳腺・腫瘍内科の下村昭彦が、がんの専門家として大きな貢献を果たしました。

発表のポイント

  • 自律神経が、乳がん組織内に入り込み、がんの進展や予後に強く影響することを発見しました。
  • ストレスなどによる交感神経の緊張が、がんを進展させ得ることを明らかにしました。
  • 自律神経を操作する神経医療(遺伝子治療など)が、がんの新規治療戦略になる可能性があることが示唆されました。

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)細胞生理学分野の神谷厚範教授は、国立がん研究センター客員研究員で東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広教授、国立がん研究センター 中央病院の下村昭彦医師、福島県立医科大学の小林和人教授および加藤成樹講師らと共同で、自律神経が乳がん組織内に入り込み、がんの増大や転移に強い影響を及ぼすことを発見し、自律神経を操作してがんを抑制するような新しい治療の可能性を示しました。研究成果は、英国科学誌「Nature Neuroscience」のオンライン版に7月8日英国時間午後4時(日本時間9日午前0時)付けで掲載されます。

発表内容

現状

自律神経は、脳から心臓や腎臓などの末梢臓器へ命令(電気信号)を伝える有線ケーブルで、ほとんど全ての臓器の働きを調節しています。疫学研究では、慢性ストレスががんの進展を加速させることが報告されており、ストレスに関連する自律神経の変化ががんに影響し得ることが示唆されていました。しかしながら、がん組織に実際に自律神経が入り込むのかどうかあまりよく分かっておらず、さらには、がん組織だけに分布する身体局所の自律神経の機能を調べるための研究技術も未開発であったため、がんの病状に、がん組織内に存在する自律神経がどのように影響するのかは分かっていませんでした。

研究成果の内容

神谷教授らの研究チームは、自律神経が乳がんの増大に伴って乳がん組織内に入り込み(図1)、がんの増殖や転移に強い影響を及ぼすことを発見しました。また、ヒト乳がん組織解析により、交感神経密度の高い患者群は、交感神経密度の低い患者群に比べて予後不良であることを発見しました(図2)。さらには、ウィルスベクター(注)を局所注射することによって、がん組織に分布する自律神経の遺伝子を操作し、その機能をコントロールする「局所神経エンジニアリング」を開発しました。この技術を用いてマウス乳がん組織に分布する交感神経を刺激すると、原発がんのサイズは時間とともに増大し、遠隔転移が増えました。逆に、がん組織に分布する交感神経を除去すると、原発がんの増大と遠隔転移は抑制されました(図3)。

ヒト乳がん組織内の交感神経線維とがん細胞

図1.ヒト乳がん組織内の交感神経線維とがん細胞

ヒト乳がん組織内の交感神経密度と、無再発生存率の関係

図2.ヒト乳がん組織内の交感神経密度と、無再発生存率の関係

局所神経エンジニアリングによる、がん交感神経の操作とその効果

図3.局所神経エンジニアリングによる、がん交感神経の操作とその効果

社会的な意義

現在、がんの治療は、外科手術、抗がん剤などの薬物治療、放射線治療が柱であり、また、がん免疫療法が発達しつつあります。しかし、治療抵抗性のがんも依然として多く、また、各種の副作用の問題もありますので、新しいがん治療の創出が期待されています。本研究グループの研究成果により、今後、がん組織に分布する自律神経を操作する神経医療(遺伝子治療など)が、がんの新規治療戦略になる可能性がありますので、将来、がん患者の方に、新しい治療法の選択肢を提供できるよう発展することが期待されます。

用語解説

注 ウィルスベクター

一般にウィルスは、細胞に吸着すると、自らのゲノムを細胞内に送り込み、細胞がもつ転写翻訳機構を利用してゲノムを複製して増殖します。ウィルスベクターは、遺伝子操作により、ウィルス本来の複製および増殖能を欠損・低減した上で、ウィルスに外来遺伝子を組み込み、それを細胞や組織に取り込ませて外来遺伝子を発現させる技術です。

論文情報

論文名:Genetic manipulation of autonomic nerve fiber innervation and activity and its effect on breast cancer progression

掲載紙:Nature Neuroscience

著者:Kamiya Atsunori, Hayama Yohsuke, Kato Shigeki, Shimomura Akihiko, Shimomura Takushi, Irie Katsumasa, Kaneko Ryosuke, Yanagawa Yuchio, Kobayashi Kazuto, Ochiya Takahiro

DOI:10.1038/s41593-019-0430-3.

研究資金

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」研究開発領域における研究開発課題「圧反射求心性神経のメカノバイオロジー機構の解明と神経操作医療の試作」(研究開発代表者:神谷厚範)の支援を受けて行われました。

報道関係のお問い合わせ先

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)

細胞生理学分野

教授 神谷 厚範(かみや あつのり)

国立研究開発法人国立がん研究センター

企画戦略局 広報企画室

AMED事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

基盤研究事業部 研究企画課

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