胎児の出生を可能とする染色体数の自然修復は、受精後数日に集中

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胚の成熟に必要な染色体の変化は、細胞の数ではなく体内時計によって支配されている

2019-09-06   国立成育医療研究センター,日本医療研究開発機構

国立成育医療研究センター(住所:世田谷区大蔵 理事長:五十嵐隆)研究所・分子内分泌研究部・吉田研究員・深見部長らのグループは、ヒト胚における染色体の変化が時間によって厳密に制御されていることを明らかにしました。この研究成果は、ヒト胚の成熟プロセスの解明や染色体異常の発症メカニズムの理解に役立つことが期待されます。

プレスリリースのポイント
  • 受精から間もない時期のヒト胚の細胞では、しばしば染色体の数の異常が認められます。このような細胞を多く持つ胚は通常着床しませんが、一部の細胞では染色体数異常が自然に修復されることがあります(異数性レスキュー)。本研究の結果、出生を可能にする異数性レスキューは受精後数日間の短期間に集中して起こることがわかりました。
  • さらに、異数性レスキューを受けた胚でも、正常な胚と同じタイミングで「X染色体不活化」という変化が始まることがわかりました。これは胚成熟に必要な染色体変化が、胚の中の細胞数とは無関係に、受精後の時間に応じて進行することを示します。
背景

正常なヒトの細胞には46本の染色体が入っています。このうち、23本は父親由来、残りの23本は母親由来です。これまでの研究から、受精後間もないヒト胚には、しばしば47本の染色体を持った細胞や45本の染色体しか持たない細胞(「異数性細胞」と言います)があることがわかっています。異数性細胞が多い胚はほとんど着床しません。一方、一部の細胞では染色体数異常が自然に修正されることがあります。これを「異数性レスキュー」と言います。異数性レスキューでは、過剰な染色体が分解もしくは細胞外に排出されたり(トリソミーレスキュー)、足りない染色体が染色体コピーによって作られたり(モノソミーレスキュー)すると推測されます。

このような異数性レスキューが起これば、胚の生存が可能になります。しかし、異数性レスキューの結果として46本の染色体の中に父親由来もしくは母親由来の染色体の割合が1本分増えてしまうことがあります。これを片親性ダイソミー(UPD)といいます。UPDは健康に影響しないことが多いですが、時に「インプリンティング疾患」と呼ばれる先天疾患の原因となります。

一般にヒトの女性の胚では、受精数日後に「X染色体不活化」というステップが生じます(図A)。これは、各細胞で父親由来と母親由来のX染色体のどちらかが働かないようすることです。各細胞でどちらのX染色体が不活化されるかはランダムに選ばれ、いったん選択がなされるとその選択は細胞が死ぬまで変わりません。たまたま、どちらかのX染色体が多く不活化される場合もあります。これまでの研究から、X染色体不活化は、胎児の体を作る細胞(胎児性前駆細胞)が12個程度の段階で始まることがわかっています(図B)。

ヒト胚の異数性レスキューがいつ生じるのか、また、異数性レスキューがX染色体不活化などのステップに影響を与えるかどうかは今まで未解明のままでした。

研究手法と結果

下記の研究を行いました。

  1. 胚の時期に異数性レスキューを受けたと考えられるインプリンティング疾患の女性(UPD群)と一般の女性(コントロール群)のX染色体不活化の解析を行い、X染色体不活化のパターン(父親由来と母親由来のX染色体の不活化の割合)を比較しました。
  2. 2つの群のX染色体不活化のパターンに対して統計学的解析を行い、各群においてX染色体不活化が起きた時点の胎児性前駆細胞の数を推定しました。

その結果、UPD群ではX染色体不活化のパターンが偏っている人(父親由来のX染色体が働く細胞と、母親由来のX染色体が働く細胞のどちらかの割合がとくに高い人)が多いことが分かりました。これは異数性レスキューがX染色体不活化より先に生じ、異数性レスキューを受けた胚においてX染色体不活化の開始時の胎児性前駆細胞数が減少することを示唆します(図B)。例えば、モノソミーレスキューを受けた胚ではX染色体不活化が起きる時点の胎児性前駆細胞の数が3~4個(正常胚の1/3~1/4程度)であると推測されます。このことは、出生を可能とするモノソミーレスキューが受精後1~2日の時期に集中して生じることを示唆します。同様に、出生を可能とするトリソミーレスキューも受精後数日の間に多く生じると考えられます。さらに重要な点として、X染色体不活化の開始のタイミングが受精後の時間によって決められており、胎児性前駆細胞の数には無関係であることが明らかとなりました。

発表論文情報
著者:
Tomoko Yoshida, Mami Miyado, Masashi Mikami, Erina Suzuki, Kenichi Kinjo, Keiko Matsubara, Tsutomu Ogata, Hidenori Akutsu, Masayo Kagami, Maki Fukami
題名:
Aneuploid rescue precedes X chromosome inactivation and increases the incidence of its skewness by reducing the size of the embryonic progenitor cell
掲載誌:
Human Reproduction. 2019 (in press)
doi:
10.1093/humrep/dez117.

本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の難治性疾患実用化研究事業「性分化・性成熟疾患の診療ガイドライン作成に向けたエビデンス創出」および「小児・周産期領域における難治性疾患の統合オミックス解析拠点形成」、日本学術振興会(JSPS)の新学術領域研究「ヒト性スペクトラムの分子基盤」および基盤研究(B)「ヒト疾患を招く性染色体ゲノム脆弱性決定因子の解明」、成育医療研究開発費および武田科学振興財団の支援を受けて行われました。

お問い合わせ
本件に関する連絡先

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター

企画戦略局 広報企画室

AMED事業に関する連絡先

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

戦略推進部 難病研究課

医療・健康細胞遺伝子工学生物化学工学
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