プロジェクションマッピング技術を応用した手術ガイドシステム「MIPS」を開発・実用化

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2020-02-07 京都大学

瀬尾智 医学部附属病院助教、髙田正泰 同助教らの研究グループは、三鷹光器株式会社およびパナソニック株式会社と共同で、従来エンターテインメントの場でのみ普及していたプロジェクションマッピングの技術を応用し、医療現場で課題になっていた臓器が動いたり変形したりしてもリアルタイムに追従し手術ガイドを行う、世界初の支援システム「Medical Imaging Projection System: MIPS(ミップス)」を開発しました。

本システムにおけるプロジェクションマッピングの投影遅延時間は0.2秒以内、投影のズレは±2㎜以下です。術者は、プロジェクションマッピングによる直観的なリアルタイムガイドと、状況に応じて自在かつ的確に装置を患部に向けることが出来るアームシステムを使用することにより、迷わず正確に、より安全な手術が可能となります。

本システムは、医薬品医療機器等法に基づき、2019年11月20日に「一般名称:ICG蛍光観察装置」としてクラスⅡ医療機器の製造販売承認を取得いたしました(承認番号:30100BZX00214000)。

図:今回開発した手術ガイドシステム

詳しい研究内容について

世界初のプロジェクションマッピング技術を応用した手術ガイドシステム
「-Medical Imaging Projection System- MIPS(ミップス)」
~産官学連携開発プロジェクトが遂に実用化へ~

ポイント
プロジェクションマッピングの技術を応用し、患者の体表や臓器にリアルタイムで直接手術ガイド情報を投影できる新システムを開発いたしました。

概要
三鷹光器株式会社 (本社: 京都三鷹市、代表取締役社長:中村 勝重)・ 京都大学医学部附属病院 パナソニック株式会社 (本社 :阪府門真市、代表取締役社長:津賀 一宏)は、2015 年度から 2017 年度に国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)の医療分野研究成果展開事業 産学連携医療イノベーション創出プログラム (ACT-M)の支援を受け、従来エンターテインメントの場でのみ普及されていたプロジェクションマッピング※注 1 の技術を応用し、医療現場で課題になっていた臓器が動いたり変形したりしてもリアルタイムに追従し手術ガイドを行う、世界初の支援システム「Medical Imaging Projection System:( MIPS(ミップス)」を開発いたしました (図1)。
MIPS は医薬品医療機器等法に基づき、2019 年 11 月 20 日に「一般名称 ICG 蛍光観察装置」としてクラスⅡ医療機器※注2の製造販売承認を取得いたしました。承認番号 30100BZX00214000)

図1 今回開発した手術ガイドシステム
プロジェクションマッピングの投影遅延時間は 0.2 秒以内、投影のズレは±2 ㎜以下です。術者は、プロジェクションマッピングによる今までにない直観的なリアルタイムガイドと状況に応じて、自在に装置を的確に患部に向けることが出来るアームシステムを使用することにより、迷わず正確に、より安全な手術が可能となります。

開発の背景
以前より術前に取得した CT (MRI などの体組織情報を基に、病巣の位置確認などのシミュレーションや術中ナビゲーションを行う機器は開発されてきましたが、術中の体組織変形などによる位置ズレに対して課題があり、リアルタイムな手術ガイドは困難でした。
近年、インドシアニングリーン(ICG)注3という蛍光薬剤を使用した蛍光ガイド手術により血管及び組織の血流評価、乳がんや悪性黒色腫※注4におけるセンチネルリン 節※注5の位置の同定を簡便かつ低侵襲に行うことができ、外科領域において臨床応用が広まっています。肝臓外科分野においては肝がん患者の肝区域切除術を行う際にがんが存在する肝区域の血流を遮断し、その後 ICG を血中に注入することで、切除するべき肝区域と温存する組織の切離ラインを赤外線カメラで描出することが可能です。また、乳腺外科分野においても、がん細胞の転移を検査するためのセンチネルリン節生検を行う際に、肉眼では判別することが困難なリン 節の探索に広く ICG 蛍光ガイド手術が用いられています。
しかし、現在の手術法における最大の欠点は、外科医 (術者)が近赤外蛍光画像を術野ではなく、外部のモニター画面上でしか確認できないことであり、頻繁に術野から目を離しモニターを確認する必要があるため、術中ガイド機器として正確性と操作性に課題がありました図2) 図3)。
図 2 これまでの手術法における課題と新システムによる効果

図 3 左:従来のモニター上に表示される蛍光イメージ 右:新システムによる実際の術野

開発成果
プロジェクションマッピング技術を用いて近赤外蛍光観察で得た体組織の血流情報等を直接臓器に投影することにより、術者は患部に集中することができ、また、プロジェクションマッピングによる今までにない直観的なリアルタイムガイドと、状況に応じて自在に装置を的確に患部に向けることが出来るアームシステムを使用することにより、課題解決を図りました図 2、図3、図5)。
これまでの課題を解決するべく蛍光観察カメラとマッピング用のプロジェクターを同軸光路上に配置することで、患部観察情報と投影映像にズレ ±2 ㎜以下)が生じない仕組みを開発し、臓器の移動や体組織の変形にリアルタイム 0.2 秒以内)に追従し、直視下での手術継続を実現可能にしました 図1、図2、図4、図5、図6)。
これらの効果によって手術の安全性の向上が期待できるだけでなく、手術時間の短縮や出血量の減少、臓器機能の温存など手術の負担を減らすことができ、これにより術後の回復もスピードアップが期待され、がんの予後改善、QOL 向上、健康寿命の延長に貢献できると期待されています。
プロジェクションマッピングを応用したリアルタイム手術ガイドシステムはこれまでに無く、-Medical(Imaging(Projection(System-「MIPS(ミップス)」は世界初の革新的な装置になりました。
図4 MIPS ヘッド内部構造 図5片手で操作可能なバランシングアームシステム

図6 プロジェクターからの投影により、明るく明瞭な術野の確保

波及効果、今後の予定
近年、ICG などの蛍光ガイド技術は国内外の学会 研究会で多くの注目を集めており、学術論文の掲載数も急激に伸びています。その中でも日本はこの分野においての先進国であり、海外展開においてアドバンテージを有しています。更に日本国内では ICG の保険適用の範囲について、従来「肝機能検査、循環機能検査、乳癌・悪性黒色腫におけるセンチネルリン 節の同定」という効果効能であったものが、2018 年に「血管及び組織の血流評価」まで保険適用が拡大されたため、ICG 蛍光法を用いた蛍光ガイド手術法は今後さまざまな診療科において応用が期待されており、より安全で正確な手術の支援による手術時間の短縮出血量の減少により、がんの予後改善、QOL 向上への貢献が期待されています。世界初のプロジェクションマッピングを応用したリアルタイム手術ガイドシステムは大きな可能性を秘めており、今後の発展が期待されています。先ずは日本国内で実績を集め、順次海外展開を計画しています。

本研究への AMED 支援
本研究開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 AMED)( 医療分野研究成果展開事業( 産学連携医療イノベーション創出プログラム ACT-M)「プロジェクションマッピングによる近赤外画像の可視化とリアルタイムナビゲーションによる手術システムの開発」 研究開発期間 2015 年 10 月~2018 年 3 月)の支援を受けました。

※用語解説
注 1)プロジェクションマッピング
プロジェクションマッピング (projection(mapping)とは建築物や立体物の表面を正確に計測し、その対象面にピッタリと重なるように調整した映像やコンピューターグラフィックスをプロジェクターなどで投影し貼り合わせる技術であり、イベントや広告、エンターテインメントの場で利用されています。

注 2)クラスⅡ医療機器
医療機器のクラス分類は、日本の一般的名称 JMDN,(Japanese(Medical(Device(Nomenclature)とGHTF(The(Global(Harmonization(Task(Force)のクラス分類ルールにより、人体に与えるリスクの程度により4段階に分かれています。
不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるメスやハサミなどはクラスⅠ医療機器に分類され、埋め込み型の人工心臓など患者への侵襲性が高く、不具合が生じた場合、生命の危険に直結する恐れがあるものはクラスⅣ医療機器に分類されます。
クラスⅡ医療機器には MRI や超音波診断装置などが分類されており、MIPS は製造販売するために安全性信頼性の審査を受け、クラスⅡ医療機器として厚生労働大臣の承認を受けました。

注 3)インドシアニングリーン ICG)
50 年近く前から肝機能検査薬として使用されており、静脈注射で投与された ICG の時間経過に伴う血中濃度の変化を測定することで、肝臓の色素排泄機能を検査する目的で一般的に広く使用されてきました。近年では血中、体組織中に投薬されることによりタンク質と結合し、780nm の近赤外光を照射すると 830nm の蛍光発光を示す性質を利用し、特殊な赤外線カメラで撮影すると 830nm の蛍光を白黒映像として捉えることが可能であり、血流の確認、体組織の血流評価、リン 節の探索などに使用されています図 7)。
図 7 肉眼では見えない脳動脈瘤内の血流状況の ICG 蛍光観察

注 4)悪性黒色腫皮膚がんの一種でメラノーマとも呼ばれます。メラニンを産生する細胞やほくろの細胞が悪性化した腫瘍と考えられていますが、詳しい発生原因は不明です。

注 5)センチネルリン 節
センチネルリン 節とは、乳房内から乳がん細胞が最初にたどりつくリン 節と定義されます。このセンチネルリン節を発見、摘出し、更にがん細胞があるかどうか (転移の有無)を顕微鏡で調べる一連の検査をセンチネルリン 節生検と呼びます。

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