先端メタボロミクスで絶食による代謝活性化を解明

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長期飢餓による健康・寿命効果の仕組みの理解に貢献

2019-01-30 京都大学

柳田充弘 名誉教授(沖縄科学技術大学院大学教授)、近藤祥司 医学部附属病院准教授、照屋貴之 沖縄科学技術大学院大学博士らの研究グループは、生きている細胞が合成・代謝する小さなメタボライト(低分子代謝物)を、質量分析器により網羅的計測する最先端技術「メタボロミクス」を用いた、網羅的ヒト血液代謝物解析により、4人の若者での58時間絶食の代謝影響を検証しました。

本研究では、約3日間の絶食により、120個以上のメタボライトの中で、3分の1以上の44個の上昇が観察されました。その中には、従来知られていたエネルギー補給関連代謝(カルニチン、ケトン体や分岐鎖アミノ酸)の活性化以外に、抗酸化物質上昇、ミトコンドリア活性化、プリン・ピリミジンを含むシグナル伝達系活性化など、多彩な代謝活性化が判明しました。また、これらの中には、本研究グループが2016年に報告した老化マーカーと呼べる老化で減少するものも含まれていました。

本研究成果は、今まで知られていなかった、飢餓による若返り効果の可能性を示唆するものと考えられ、今後のさらなる検証が待たれます。

本研究成果は、2019年1月29日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】https://doi.org/10.1038/s41598-018-36674-9

【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/236126

Takayuki Teruya, Romanas Chaleckis, Junko Takada, Mitsuhiro Yanagida & Hiroshi Kondoh (2019). Diverse metabolic reactions activated during 58-hr fasting are revealed by non-targeted metabolomic analysis of human blood. Scientific Reports, 9:854.

詳しい研究内容について

先端メタボロミクスで絶食による代謝活性化を解明
―長期飢餓による健康・寿命効果の仕組みの理解に貢献―
概要
従来ヒトは飢餓に対する適応能力が高いと言われており、さらに最近モデル生物ではカロリー制限や飢餓に よる寿命延長効果が注目されています。しかし、ヒトの長期飢餓での網羅的代謝変動やその効果は謎のままで した。一方、メタボロミクス は、生きている細胞が合成・代謝する小さなメタボライト(低分子代謝物)を、 質量分析器により網羅的計測する最先端技術です。沖縄科学技術大学院大学 柳田充弘 教授(京都大学名誉教授)、照屋貴之 同博士、京都大学医学部附属病院 近藤祥司 准教授らの共同研究グループは、このメタボロ ミクス による網羅的ヒト血液代謝物解析により、4 人の若者での 58 時間絶食の代謝影響を検証しました。驚 いたことに約 3 日間の絶食により、120 個以上のメタボライトの中で、3 分の 1 以上の 44 個の上昇が観察さ れました。その中には、従来知られていたエネルギー補給関連代謝 (カルニチン、ケトン体や分岐鎖アミノ酸) の活性化以外に、抗酸化物質上昇、ミトコンドリア活性化、プリン ・ピリミジンを含むシグナル伝達系活性化 など、多彩な代謝活性化が判明しました。これらの中には、同グループが 2016 年に報告した老化マーカーと 呼べる老化で減少するものも含まれていました。以上の結果は、今まで知られていなかった、飢餓による若返 り効果の可能性を示唆するものであり、今後のさらなる検証が待たれます。
本研究成果は、2019 年 1 月 29 日に英国の国際学術誌 Scientific Reports」にオンライン掲載されました。1.背景
従来、進化上ヒトは飢餓環境に適応したため、飢餓適応能力が高いことがよく知られています。マウスなど のモデル動物では、2-3 日の飢餓でほとんど死滅するのに対して、ヒトの修行僧などは 1 か月の断食でも行 えます。その理由の一つは、絶食時の代替エネルギー補給が、ヒトでは発達しているからと考えられてきまし た。一方、最近の老化研究ではモデル動物において、カロリー制限や絶食が寿命延長効果を持つことが判明し、 絶食の健康効果が注目されつつありますが、その詳細な機構は謎のままでした。我々は、長年 老化と代謝」 をテーマとして研究しており、ヒト絶食において、エネルギー補給以外の未知の健康効果を探索することとし ました。2.研究手法・成果
その研究方法として、我々は最先端機器である質量分析器を用いたメタボロミクス解析を、沖縄科学技術大 学院大学と共同で進めてまいりました。メタボロミクスは、生きている細胞が合成 ・代謝する小さなメタボラ イト (低分子代謝物)を、網羅的に計測する最先端技術です。メタボライトは非常に不安定ですが、我々はヒト 血液メタボロミクス解析に最適な手法を独自に獲得しました(特許出願済み)。そして、この方法を用いて、 ヒト血液中の老化マーカーと呼べる 14 個の老化メタボライトを同定することに成功しました (PNAS, 2016)。 この成果は、当時 14 か国のマスコミでも報道されました。本研究では、これら独自の技術を用いて、4 名の 若者による約 3 日間の絶食の代謝影響を検証しました。
その結果、従来よく知られているエネルギー補給メタボライト以外にも、抗酸化物質上昇、ミトコンドリア 活性化、プリン・ピリミジンを含むシグナル伝達系活性化など、多彩な代謝活性化が判明しました。すなわち、 当初の予想に反して、絶食はむしろ非常に活発に代謝活性化を誘導することが判明しました。

3.波及効果、今後の予定
モデル動物の研究より、絶食による若返り効果が提唱されておりますが、ヒトでは検証が非常に難しいのが 現状です。今回の我々の網羅的解析により、絶食による健康効果が解明されました。今後更なる研究により、 その具体的臨床応用などの進展の可能性があります。

4.研究プロジェクトについて
本研究は沖縄科学技術大学院大学研究費、文部科学省科研費のもとに、沖縄科学技術大学院大学との共同 研究により実施されました。

<研究者のコメント>
モデル動物でのカロリー制限や飢餓による寿命延長効果はよく知られていますが、低栄養などが危惧 されるヒト高齢者での研究は非常に困難です。今回の研究では、飢餓による代謝変化の網羅的解析が初 めて行われ、予想外に活発な代謝が様々な健康効果に結び付く可能性が示唆されました。今後さらに研 究が発展し、ヒトでの健康長寿改善に貢献することを期待しています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:“Diverse metabolic reactions activated during 58-hr fasting are revealed by non-targeted metabolomic analysis of human blood”
著 者:Takayuki Teruya, Romanas Chaleckis, Junko Takada, Mitsuhiro Yanagida and Hiroshi Kondoh
掲 載 誌: DOI:10.1038/s41598-018-36674-9

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